十四話 大陸横断、そして次の舞台へ。
今日、機動要塞レヴナントに所属する全ての部隊が招集された。ゲンテツから今後の作戦についての説明があるらしい。
「私たちが今いるこの機動要塞レヴナントは、アフリカ大陸を出発し、砂漠を抜けて中国のかつての香港だった場所を目指している。そして、その先には日本、さらには太平洋を横断してアメリカ本土が待っている。」
ゲンテツの話によれば、彼の祖父は、AIの侵略が最も遅れた地域の一つであるグリーンランド付近でレヴナントを完成させたという。そこから、祖父は世界中の大都市を巡り、次々と強力なAIを倒してきたそうだ。香港を経由し、日本に上陸した後、最終的にはアメリカに向かうという壮大な計画が進行中だ。
ゲンテツは一息つき、部屋中が少しざわつく中で静かに語り始めた。
「みんなに話しておきたいことがある。」
部屋が一瞬で静まり返り、全員が彼の言葉に集中する。
「これからインドを通過し、ヒマラヤ山脈を越え、最終的には香港を目指す。その場所は、AIとの戦争が初めて勃発した、歴史の転換点となる場所だ。おそらく、今までに遭遇したことがないほど強力で高レベルのAIが潜んでいる可能性が高い。」
ゲンテツの言葉に、部屋の中の緊張感が一気に高まった。確かに、戦争の転換点となった大都市・香港には、かつての戦いとは比べものにならないAIが待ち受けているだろう。
「そして、重要なことをもう一つ伝えておく。これからの戦いは、選択の余地がない。戦うか戦わないかを選べる段階はすでに過ぎた。ここにいる以上、戦わないという選択肢は存在しないんだ。」
彼はさらに声を低くし、厳粛な口調で続けた。
「香港までは、この速度で進んだとしても、少なくとも半年、長ければ一年はかかる。その間に自分を鍛え上げろ。これは命令ではなく、忠告だ。分かったな?」
部屋中が静まり返り、重々しい空気が漂っていた。それぞれがこれから待ち受ける戦いに対する覚悟を固めていく様子が感じ取れた。
「それと、途中で通るインドだが、そこも大きな都市だ。気を引き締めておけ。」
『了解!』
私はAIへの復讐心を燃やし、心の中で強く決意した。
その後、2ヶ月ほどは特に何も起こらない日々が続いた。
鉄鬼隊は週に1回ほどの任務に当たっていた。出現するのはLevel 1から2程度のAIばかりで、比較的容易に倒すことができた。任務はスムーズに進み、特に大きなトラブルもなかった。
だが、ある時Level 3のAIが出現するという情報が入ると、鉄鬼隊ではなく別の部隊が対応に向かった。その部隊は難敵を倒し、何事もなかったかのように任務を終えて帰還してきた。
その時、私は自分の力不足を感じずにはいられなかった。私たちはまだ本当の脅威に対峙していない。ただの雑魚相手に日々を過ごしているだけだ。悔しさが込み上げる。
「いつになったら、私たちは本物の戦いに挑めるのだろうか……。」
そんな疑問を抱きながら、私は日々の訓練に打ち込んでいた。自分がもっと強くならなければ、復讐を果たすことはできない――その思いが、私を突き動かしていた。
そんな日々を過ごしているうちに、私たちはインドに入り、ちょうどムンバイあたりを通過しようとしていた。その時だった。
外から、まるでピアノのような音が微かに聞こえてきた。
その音に気づくのと同時に、船内に放送が流れる。
「レヴナントの全隊員に通達!南西方向で不審な音を確認!至急、状況を確かめろ!」
放送を聞いて、私はすぐに外へ飛び出し、手近な望遠鏡を覗き込んだ。望遠鏡の視界に映っていたのは、かつての都会の面影を失った、複雑に入り組んだ工場地帯。その工場地帯から、はっきりとピアノのメロディが流れてきていた。
「これ……相当な音よ」
隣にいたリニアが、低い声で呟く。
「うん……そうだね……」
私はそのメロディを聞きながら、胸騒ぎを抑えられなかった。まるで、プラントシティが崩壊した時と同じような不穏な気配が漂っている。
「何か、嫌な予感がする……」
その瞬間、レヴナントの内部にも不安が広がりつつあるのが感じられた。ピアノのメロディは、まるで何かを告げるように途切れることなく響き続けていた。そして、その音は次第に強く、はっきりと私たちに迫ってきているように思えた。
「リニア、急ごう。これは……ただ事じゃない」
私はその場の緊張感を感じ取り、急いで装備を整え始めた。
―――工場地帯内部―――
「な〜んか、変なのが近づいて来たわねぇ」
クイーンは、ピアノの鍵盤を優雅に叩きながら、視線を遠くへと向けた。
「クイーン、あなたがその大きな雑音を撒き散らすからではないでしょうか?」
冷静な声で応じたのは、クイーンの横に控えていた一体のAI。その発言に、クイーンは口元を歪ませて微笑む。
「分かってないわねぇ。あなたたちみたいな低知能AIには、この素晴らしさが理解できないのよ」
軽く手を振りながら、クイーンはまるで侮蔑するかのように返事をした。その言葉に、相手のAIは一瞬黙り込んだが、すぐに従順な声で応じる。
「申し訳ありません」
「いいわよ、気にしなくて。どうせあなたたちには分からないわ」
クイーンは再びピアノに集中しながら、甘美な旋律を紡ぎ出す。そして、遠くから聞こえる人類の気配に、目を細めた。
「とにかく、あの人類には、私たちの力、Level 4の実力をしっかり見せつけてあげなきゃいけないわねぇ」
彼女の声には、無邪気な楽しさが混じっていたが、その裏には冷酷さが滲んでいた。
「さぁ、始めましょうか」
クイーンは優雅に立ち上がり、その視線はすでに次の獲物を捉えていた。彼女の周囲に控えるAIたちも一斉に動き出し、戦闘準備を整える。その静かな空気の中、ただピアノのメロディだけが、異様に響き渡っていた。




