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黒の英雄と風の龍  作者: 坂野真夢
第二章
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新生活・2


 授業が終わり、ディアナはロックとの待ち合わせの教室へ向かった。すると、向こうからブレイドがやってくる。


「ディアナ。今日俺、お前んち行くから一緒に帰ろうぜ」

「うちに? なんで?」

「昨日、武器屋でお前の親父に会って、手合わせしてもらう約束したんだ」

「そんなの聞いてないよ?」


 一年前のあの出来事以来、ブレイドとデルタは仲良くなり、たまに手合わせをする。もはや間に入る必要も無いほど打ち解けていて、ディアナとしては少々悔しい。


「ほら見ろよ。遅い進級祝いで、新しい剣買ってもらったんだぜ」

「わ、いいな。ちょっと触らせてよ」


 学園では真剣の使用は認められていないが、遠くから通う生徒には登校中の帯剣が認められている。ブレイドの新しい剣は、緑色の柄がきれいで重さも前のものに比べれば軽い。


「いいね。軽いなぁ」


 柄から出してみると銀色の刃がきらりと光る。切れ味もよさそうだ。ディアナは、体重がそれほどないので軽い剣を好んで使う。

その剣よりも軽く、扱いやすそうだ。軽く振り回してみると、ブレイドが一メートル程後ろに飛んだ。


「うお、あぶねぇって」

「あ、ごめん」


 慌てて鞘に剣を戻したけれど、ブレイドの避け方も大げさだ。ディアナは軽く睨みつける。


 その時、低い声でディアナを呼ぶ男子生徒がやってきた。


「おーい、ディアナ」


 昨日、道場でディアナが自主トレをしていた時に、偶然通りかかった鍛冶屋クラスの先輩だ。名前はルタ。快活そうに笑う感じのいい男子生徒だ。ディアナの剣の刃こぼれに目を止め、痛み具合を見てくれたのだ。


「昨日言ってた話だけど、やっぱりちょっと刃こぼれしてるからさ。今度俺研いでやるよ。練習にもなるしさ」

「本当ですか。ありがとうございます」

「ああ、じゃあな」


ルタは軽やかに笑って走っていく。少し離れた場所からそれを眺めていたブレイドが、仏頂面で隣へやってきた。


「今の、誰だよ」

「三年のルタ先輩。鍛冶屋クラスの」

「……で?」

「昨日自主トレ中に道場であって、剣研いでもらう約束しただけよ」

「自主トレするならなんで俺を誘わないんだよ」

「だって、あんた昨日出かけるからって帰ってったんじゃん。それで、その剣買ったんでしょ」

「あ、そうだった」

「あんたたち剣士クラスは、定期的に研いでもらえるけど、私のは自分で研ぎに行かなきゃいけないんだもん。先輩にしてもらったらタダですむじゃん」

「そうだけどさ。じゃあ、そん時俺も呼べよ。ついでに一緒にやってもらう」

「あんたの剣は買ったばかりじゃないのよ」


 不毛な会話を続けながらロックのところへと向かう。


「ロック、お待たせ。帰ろう?」

「ディアナ。……ブレイドも? どうしたの?」

「父さんと手合わせするんだって」

「へぇ」


 ロックは、穏やかに笑うと鞄を持って歩き出した。三人で揃うと気が楽になり、自然に肩から力が抜ける。最近ディアナは、ブレイドと二人きりだとドキドキして落ち着かないのだ。



 ディアナ、ブレイド、ロックの3人は仲良く家までの道を歩いていた。話題は次々と動き、学園での出来事から今は何故かディアナの家庭の話になっていた。


「お前、あれからじいさんとはうまくやってんのか?」

「うん。まあ、それなりに。相変わらず愛想はないけどね。治療師になるって言ってからは前よりちょっとだけ優しい気がする」

「そっか、良かったな」

「うん」


 自分の気持ちに正直に、『治療師を目指す』と家族に告げてから、ディアナにとってあの家は、母親が生きていた頃までには及ばないまでも、大分居心地のいい場所になっていた。祖父のバジルは相変わらず仏頂面で言うことも冷たい。でも元々が愛想のいい性格ではない。果たしてどこまでが嫌われてのことでなのか判断がつかないのだ。それに、父親の優しさを疑わずに済むだけでも大分違う。


「そうだ、ディアナ。これ、この間の仕入れの時手に入れたんだ。この辺じゃ珍しい細工だからあげるよ」


 そう言って、ロックが差し出したのは花の細工がしてある木彫りの髪飾りだった。


「え? いいよ。貴重なものなんじゃないの? こんな可愛いの」


 ディアナは手を振ってそれを拒絶する。あまりにも可愛らしいそれは、自分とはイメージが合わないと思った。自分がそんなものを持つということにも違和感を感じる。


「なんで? 似合うよ、ディアナ。ずいぶん髪も伸びたし。僕が持ってたって仕方ないじゃん。ほら、つけてやるよ。止まって?」


 ロックは珍しく強引にディアナの肩を掴んだ。立ち止まると、サラが結びなおしてくれた髪に器用に髪飾りをつけてくれる。難なくそうされたことに、ディアナは違和感を感じた。ロックは、こんなに大きかっただろうか。イメージで小さい小さいとずっと思っていた。なのに、背伸びもしないで髪飾りをつけれるほど、背が高くなっていたというのか。


「ほら、かわいいよ」

「あ、……ありがと」


 言われなれない言葉を向けられて、気恥ずかしくなる。助けを求めてブレイドの方を見ても、彼は不機嫌そうな顔で前を向いていた。


「……」


 何か話しかけたくても、気軽に出来る空気ではない。ディアナも黙り込んでしまい、場の空気を読んだのか読まないのか、ロックだけが明るい調子で話を続けた。



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