表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の英雄と風の龍  作者: 坂野真夢
第二章
35/130

新生活・1


 ディアナたちが二学年に進級して、一ヶ月ほどが経った。


 二学年のクラス分けは専攻別だ。当然のごとく三人はそれぞれ別のクラスになり、今までみたいに一日中一緒に居る事はない。しかし、ディアナは相変わらず登下校はロックとしていたし、本来治療師コースには必要のない剣術授業を受けては、ブレイドと競い合っていた。


 家族が仕事で留守にするときにはどちらかの家に泊りこんでいて、月に一度はセリカからの要望でハーブの調子を見にブレイドの家に行く。思ったよりも互いの距離が離れずに居られる現状に、ディアナは満足していた。


 そんなある日、ディアナが自分の教室で窓の外を見ていると、廊下からけたたましい物音がする。


「ディアナ、悪い。怪我した! ちょっと頼む」


 ブレイドが、治療師クラスの扉を大声とともにあける。途端にディアナの背後からは女子生徒たちが歓声を上げた。


「なによ、また? 最近多いわね」


 ディアナは、渋々といった声を出しつつ、内面ものすごく喜びながら彼に近づいた。ブレイドは、今でも怪我をすれば学校の治療師ではなくディアナのところへ来る。信用されてるということが一番嬉しいし誇らしくもあった。


「サンキュー。じゃあ、またな」


 すっかり綺麗になった腕をさすりつつブレイドが戻っていくと、今度は女子生徒たちがディアナを囲んだ。


「いいなぁ。ディアナ。ブレイドくんってカッコイイよね」

「私も治療してあげたーい」


 毎度変わらぬ言動に、内心では溜息をつく。今まで女友達があまりいなかったのでうっかりしていたが、どうやらブレイドはかなりもてる部類らしい。ただでさえ人目をひきつける黒い容姿である上に、先週開かれたガルデア町の武道大会での学生飛び入り大会での優勝。それが人気を更に引き上げた要因らしい。


「確かに凄いけどね」


 ポツリとディアナがこぼす独り言は、自分たちの想いをただ語り続けるだけの女子生徒の耳には入らない。苦笑しつつも、先日の武道大会の時のブレイドを思い出す。今回で二連覇だ。学生だけの部とはいえ誇れるべきことだろう。


 ……分かってはいるけど面白くはないわ。ブレイドなんてただ乱暴なだけなのに、こんなにキャーキャー騒がれて。

 心臓の鼓動の激しさは無視して負け惜しみのようなことを思う。


 今まで恋愛とは無縁だったディアナにとって、こんな感情も初めてのものだ。胸の中で霧のようにもやもやと広がっているのに掴みどころは無くて、対処できない事にまた苛立つ。


「ディアナ、髪ほどけてるよ」


 やっかみの中、普通に話しかけてくるのは新しく友達になったサラだ。サラは肩まで伸びたストレートの髪を揺らしながら楚々と微笑む。その女らしい仕草が、いかにも治療師ですという雰囲気だ。


 綺麗な細い指で、ディアナの髪に触れる。治療師になると決めてから伸ばし始めた髪は、今では肩まで伸びていて、サイドでゆるく結んでいる。本当はずっと、母親の長い髪に憧れていた。今まで言えずにいたことを、ディアナはあれから色々実行し始めている。こうして髪が伸びて、母親そっくりの栗色の髪が揺れるのはとても嬉しかった。


「なおしてあげるね」


 サラが、器用に髪を結いあげていく。


「ありがとう」


 ディアナは答えながら、サラから香るいい匂いに気がつく。最近流行っているとかいう香料だ。香りの強いハーブから抽出したエキスで、女学生の間ではそれを色々つけるのがブーム……らしい。らしいというのは、ディアナ自身は見たことが無いからだ。


 情報の発信源はロック。家業の仕入れの手伝いをしていたときに見つけて、両親にこれはどうかと進めている間に他の道具屋に買い占められてしまったのだそう。


『その道具屋店主に聞いたら、首都では大人気で出せばすぐ売り切れるんだって』


 そう言われてから周りの女性徒を気にしてみると、確かに結構な確率で香っている。


 ディアナは一つため息をつく。サラを見ているとつくづく感じるのだ。自分には、女としての経験値が足りない、と。髪を伸ばしてみても上手く結うこともできない。女らしいかと言われれば、お世辞にも頷くことは出来ない。いざ、ブレイドを好きだと気付いたって、何をどうしたらいいのかさっぱり分からない。


「サラも、……ブレイドがカッコいいって思うの?」

「え?」


 サラがきょとんとする。そんな顔さえ可愛らしい。胸が少し重みを増すのが分かる。もしサラがブレイドを好きになったなら、ディアナとしては諦めるより他に無い。女として完全に負けていると思うから。ブレイドだって、こんなに可愛い子から好きだって言われたらきっと好きになってしまうに決まっている。


 ディアナが卑屈になってサラを見つめると、彼女は一呼吸置いてあっさりと答えた。


「かっこいいよ、客観的にみればね。でも大丈夫。ディアナってば、心配症」


 何が大丈夫なのか、ディアナにはさっぱりわからなかった。サラが、わかってますとばかりの顔をすることも理解できない。女としてだけじゃなくて、恋愛の経験値も足りなすぎる。ディアナは、今まで悩んだことの無いような悩みに途方に暮れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ