三人で・2
和やかな空気に包まれ始めた二人から、ロックは静かに後ずさった。なんだかもう入り込む隙間はないような気がして。何年もずっと、ディアナの傍にいたのは自分なのに。今ではもう、ブレイドの方がディアナの事をわかっている、……そんな気さえする。
振り返って馬車の方まで歩いて行こうとしたとき、後ろからディアナが大声をだした。
「ちょっと、ロック。聞いてよ、ブレイドったらね」
「うるさい。じゃあ、公平な目を持っているロックに決めてもらえばいいだろ」
いつしか、また口げんかに発展している二人に、ロックは冷たい眼差しを向ける。いい加減にしてほしいというのが本音だ。傷ついてるんだから放っておいてくれればいいのに。
「……もう、今度は何?」
「俺とこのサル女のどっちが強いかって話だよ。俺だろ?」
「違うわよ。あんたは剣しか取り柄がないかもしれないけど、私には治療師としての強さが加わるわけ。ほら、あんたに力で負けてたって私の方が上よ」
「何言ってんだよ。実際、剣を交えりゃ俺の方が勝ちじゃんか。なら、俺の方が上だろ」
「はいはい、もうどっちでもいいよ。全く、二人ともどうしていつも変なことで争うのさ」
ロックはため息をついて、二人を諌めた。全く。わざわざ自分から抜けてやろうとしてるのに、どうして2人そろって呼びに来るのか。やってられない。そう思いながらも、少し胸が湧きたつのを感じる。ロックは、ディアナもブレイドも好きなのだ。
泣きたいくらい切ない気持ちを、ロックは胸にしまいこんだ。二人がまだ、このままでいたいと言うのなら、自分は二人の友人でいよう。いつかくる、変化の時まで。
*
ブレイドの父、アイクは運動場の端に座りこんでいるデルタの元へと近付いた。
「大丈夫ですか? 愚息が失礼しました。ブレイドの父です」
デルタは慌てて立ち上がって会釈をする。
「これはこれは。失礼しました。ディアナの父です。娘がお世話になりました」
顔をあげると、言葉とは裏腹にこわばった表情をしたアイクが見えた。
「……あなたが、昔ブレイドにそっくりな人を見たというのは、本当ですか?」
「え?」
ためらうように、一瞬の間をあけて尋ねられたその言葉に、デルタは若いころに見た黒髪の剣士のことを思い出した。背が高く、黒髪黒目で、筋骨隆々とした黒い男。古い記憶だがその男の姿は今のブレイドとよく似ている。栗色の髪の女性と共に旅をしていたようだった。そしてその女性がすがるように読んでいた名前も、確か『ブレイド』だった。
「その話を、詳しく聞かせていただきたいんです」
「はあ、でも」
デルタは、躊躇した。この男がブレイドの父親だと聞いて、正直意外な気がした。目の前の男は、彼と比べるとあまりに温厚で弱々しい。もしも、二人に血のつながりが無いならば、この幸せそうな家庭が壊れるかもしれない。
しかし、アイクは決意に満ちた目でデルタを見据えた。
「ブレイドは、……私の本当の息子ではないんです」
「……え?」
危惧していたことを、あっさりと言葉に出されてデルタは拍子抜けする。アイクは真剣な調子を崩さずに、更に問いかけた。それを見て、デルタは記憶を頼りに話し始めた。
*
変化の時は、じわりじわりとやってきていた。それでも、何事もなかったように時は流れていく。
「ディアナ、進路調査書いた?」
「もちろん。とっくに提出したわよ」
「俺も」
「ちぇ、結局僕が最後まで悩んでたってこと?」
放課後の教室で、いつものように三人で過ごす。
「で、何にしたんだよ。道具屋か?」
「ううん。道具屋は、そんなに授業数ないからさ。詩人コースにして、道具屋の授業もとることにした。そうすれば、両方の資格とれるかもしれないって先生言ってたし」
「ああ、あたしもよ。治療師コースにして、出れる時間だけ剣の授業は出るの。蘇生魔法って、治療師になんないと覚えられないらしいしさ。剣士の資格がとれなくたって、そこそこに剣が使えれば役にたつし」
「なんだよ。俺だけ単発か。まあ、俺には他に取り柄もないしな。剣士コースで、火魔法だけは取れって先生が」
「ああ、あんた、火魔法だけは得意よね。他の魔法はダメだけど」
「ほら、攻撃的なものはきっと得意なんだよ、野蛮人だから」
「……お前らケンカ売ってんなら買うぞ?」
三人でいるのも、もうあとわずか。二学年に進級したら、お互い別々の道を歩むことになる。その時間を惜しむように、出来るだけ同じ時を一緒に過ごしていた。




