アーチ 2:第7章: 黄金の王国と眠れる王
[第一節:怠惰な国境と輝く黄金の王国]
馬車はギルデッド・ヴァンの国境の前で停車した。
そして、彼女たちが目にしたのは……呆れるほどの惨状だった。
二人の門番がぐっすりと眠りこけており、風船のように膨らんだ巨大なお腹が上下に動いて、地面が揺れるほどの大きないびきを立てていた。
「ぐーーーー……すぴー……」
門は完全に開けっ放しになっている。
ヴァレイラは呆然と立ち尽くした。
「……は?
……これが……黄金の王国の国境警備なの?」
ブリーナは身を乗り出し、指をさした。
「……ヨダレ垂らしてる……」
ヴァレイラは額に手を当てた。こめかみには青筋が浮かび上がっている(クラシックなアニメ表現である)。
(……正気かしら?
これが大陸一の富裕国のセキュリティだなんて?
失望したわ!
威厳の「い」の字もないじゃない!)
「……放っておきなさい。
私の手を汚す価値もないわ」
彼女たちは馬車を降り、徒歩で進入した。
門をくぐり抜けた瞬間――
ドカーーーーン!
視界全体が黄金色に染まった。
輝く街並み、金で作られた屋根、至る所に散りばめられた宝石、そして国全体がラメで覆われているかのように太陽の光を跳ね返している。
ヴァレイラの目が星マーク(アニメ特有の「★_★」)に変わった。
「……金……
宝石……
贅沢……!
ついに……!
ついに私にふさわしい場所へ来たわ……!!」
ブリーナは両手で目を覆った。
「……まぶしい!
輝きすぎ!
目が焼けるー!」
◆◆◆
[第二節:女神の破産と美貌の賄賂]
ヴァレイラは自分の袋に手を突っ込んだ……
そして、顔面を蒼白にした。
「……え?
……私のお金は……どこ……?」
袋を逆さにして振ってみる。
空っぽだった。
ガーン!
彼女の魂が砕け散る音がした。
「嘘でしょうーーー!!
この私が、女神であるこの私が無一文だなんて!?
これは世界規模の屈辱よ!!」
彼女は敗北した悪役のように宙に向かって拳を振り回した(お約束のアニメ的激怒である)。
ブリーナは冷ややかな視線を向けた。
「……ヴァレイラさま……
……『お昼ご飯を盗まれた子供』みたいなポーズになってるよ……」
プライドをぐっと飲み込み、彼女たちは白大理石と純金で作られた王城へと向かった。
入口では、二人の騎士が彼女たちを制止した。
「止まれ!」
「身分証を見せてもらおうか」
ヴァレイラは背筋を伸ばし、「エレガントな女神モード」を起動させると、鈴の鳴るような声で語りかけた。
「私はヴァレイラ。ソラリア王国の魔術師よ。
こちらは同行者のブリーナ。
国王陛下と同盟の協定を結ぶために参りました」
騎士たちは顔を見合わせ……
そして、彼女の容姿に見とれて釘付けになった。
「……おい……」
「……なんて美しさだ……」
「……美人だからって理由で通していいと思うか?」
「……ああ」
一人が顔を赤くしながら咳払いをした。
「……お通りください……お嬢様」
ヴァレイラのエゴが一瞬で復活した。
「……ふん、当然ね。
そうあるべきよ」
(……私の美貌は相変わらず伝説級の兵器ね……
ふぅ!)
◆◆◆
[第三節:メイド双子との出会いと哀れなミダス王子]
城内へ足を踏み入れると、突如として――
シュバッ!!!
どこからともなく双子のメイドが現れ、ぶんぶんと手を振った。
「はーい!」
「すっごく可愛い子たちだー!」
「どこから来たの!?」
「変なお洋服ー!」
「なんだか偉そうだねー!」
彼女たちはメイとリンだった。
ヴァレイラは心の中で大興奮した。
(……メイド……!
美少女メイドじゃないの!
完璧な美学だわ!)
ブリーナだけがだるそうに手を挙げた。
「……はーい」
ヴァレイラが尋ねる。
「国王陛下はどちらにいらっしゃるの?
お話ししたいことがあるのけれど」
双子は顔を見合わせると、大げさに「しーっ!」とジェスチャーをした。
「王様は深ーいお眠りの中だよー!」
「起こされるのが大嫌いなのー!」
「起こすと不機嫌になって、何でも食べちゃうんだからー!」
すると突然――
バン!!!
彼女たちの背後から奇抜な青年が滑り込み、ふざけたポーズを決めた。
「おや!
何とも可憐なお客様方だね!
見てごらん、見てごらん!
僕のダイヤモンドの指輪を!
黄金のネックレスを!
君たちが欲しいものなら何でも買ってあげるよ!」
彼はミダス王子だった。
安っぽい雑誌のモデルのようにポーズを取り始める。
ヴァレイラは「何なのこの生き物?」と言いたげなジト目を向けた。
「……何……これ?」
ブリーナは首を傾げた。
「……病気なの?」
ミダス王子はわずか三秒で飽きたようで、大あくびをすると去っていった。
「……ふぁあ……
……お腹減ったな。
メイ、リン、ご飯持ってきてー」
そして彼は消え去った。
ヴァレイラとブリーナはポカンと虚空を見つめた。
「……今……何が起きたの……?」
「……わかんない……」
◆◆◆
[第四節:セレスティアとのファッション対決と武器の脅威]
突如として、高飛車で洗練された声が響き渡った。
「……兄の無礼をお許しあそばせ。
ただの……愚か者ですの」
全身をダイヤモンドで飾り立て、「私が世界で一番偉い」というオーラを纏ったセレスティアが現れた。
ヴァレイラを見つめると、彼女は侮蔑を込めて上から下へと品定めするように視線を送った。
「……平民ですの?
……わたくしの城の中に?
……何て安っぽいお召し物……。
……お恵みでも乞いに来られたのかしら?」
ヴァレイラの「侮辱された女神モード」が作動した。
彼女はセレスティアの腰元を蔑むように指さした。
「……少なくとも、私はそんな不恰好なウエストをしていないわ」
バチバチバチ!!!
空気が重く緊迫した。
セレスティアが激怒した。
「なっ……なんですって!?
平民のくせに、わたくしを侮辱するなんて……!?
今すぐこの場で手打ちにされたいのかしら!?」
ヴァレイラが魔力を練り上げる。
ブリーナは弓を引き絞り、セレスティアの顔面にまっすぐ狙いを定めた。
「……ヴァレイラさまに手を出すなら……
……額の真ん中に矢をぶち込むよ」
アニメ特有の火花を散らす視線の激突!!!
(ライバル関係のお約束カットイン)
◆◆◆
[第五節:クロエの介入と眠れる王の習慣]
まさにセレスティアが武器を抜こうとしたその時――
ゴーーーン!!!
圧倒的な存在感が割り込んできた。
「セレスティア様、そこまでです」
侍女長のクロエだった。
隙のない完璧な姿勢。まさに「ふざけた真似は許さない」というオーラを放っている。
「王家の淑女たる者、単なる暴言に身を落とすものではありません。
ご自身の立場をお忘れなく」
セレスティアはチッと舌打ちをして武器を収めた。
「……チッ。
……このまま済むと思わないことですわ。
……平民め」
彼女はドレスを苛立たしげに揺らしながら、怒りに満ちた足取りで去っていった。
ヴァレイラは長く息を吐き出した。
「……やれやれ……」
クロエが彼女たちに向き直る。
「……見苦しいところをお見せしました。
お戯れはここまでとして、お二人のお名前を伺っても?」
ヴァレイラは気品を保ちながら名乗った。
「私はヴァレイラ。ソラリア王国の魔術師よ。
こちらは同行者のブリーナ。
外交任務で参りました。
国王陛下とお目にかかりたいのですが」
クロエは頷いた。
「国王陛下は現在『熟睡の日』に入られております。
目覚められるまでに丸一日かかり……
お起きになった後は猛烈な食欲に襲われるのです。
しかしながら……
陛下からは、ソラリアからの使者であればいかなる者も歓迎せよと厳命を受けております。
こちらへどうぞ。
お部屋へご案内いたします」
◆◆◆
[第六節:完全な贅沢、回復したエゴとブリナの小さな窃盗]
クロエが案内した客室は……
純粋な財力の誇示そのものだった。
絹のベッド、金のカーテン、ダイヤモンドが埋め込まれた鏡、大理石の浴槽。
「すぐに給仕の者を向かわせ、マッサージとお食事をご用意させます。
どうぞお寛ぎください」
彼女は完璧なお辞儀をして退室した。
人けがなくなった瞬間、ヴァレイラはその場に膝をついた。
「……これよ……
これこそ女神にふさわしいわ……
……ついに……
……ついに私にふさわしい場所に来られたのね……!」
その傍らで、ブリーナは「ニヒヒ」と悪い笑みを浮かべながら、ポケットに金貨を詰め込んでいた。
「……後で使う用……
……念のためね……」
ヴァレイラは鏡の前に立ち、「女神のエゴ200%モード」を起動させて絶対的な優越感の笑みを浮かべた。
「……セレスティア……
あの浅薄な女め……
私の足元にも及ばないわ。
私が女神。
私こそが最も美しいのよ。
そしてこの王国は……
贅沢と敬意をもって、私のものになるのよ!」
口いっぱいに金貨を詰め込んだブリーナは、ただコクコクと頷いた。
「……うんうん……
……ヴァレイラさまが一番かわいいよ……」




