↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

アーチ 2:第4章: 水晶の城と狐の女王

[第一節:事故の朝と謎の消失]


朝は、水晶のホテルの一室から始まった。


魔法の水晶窓を通して差し込む朝日の光が、ヴァレイラとブリナを優しく目覚めさせた。


二人は着替えを済ませ、身だしなみを丁寧に整えると、ロビーへと降りた。そして、昨夜御者が馬車を停めた場所へ向かい、通りへと出た。


しかし、到着してみると……。


そこは完全に空っぽだった。


馬車も、御者の姿も、どこにも見当たらない。


残されていたのは、綺麗に整えられた石畳と、風の音だけだった。


ヴァレイラは一瞬、その場で凍りついた。


そして次の瞬間、抑え込んでいた怒りが、コミカルな勢いで爆発した。


「ちょっ……! 私の……馬車は……どこよ……!?


誰が女神の乗り物に手を出したの!?


この私から盗むなんて、いい度胸じゃない!!」


額に怒りの筋を浮かべながら、ヴァレイラは空に向かって拳を振り回した。


女神としてのプライドは燃え上がり、頭の中では上品な言葉遣いを保ちながらも、罵詈雑言が滝のように流れ続けていた。


その隣で、ブリナはまったく動じていなかった。


彼女は朝特有の大きなあくびをしながら口元を覆い、相棒の大騒ぎなど完全に気にしていない様子だった。


「……んん……もう、ご飯の時間……?


……お腹すいた……」


(……このちびっこ……。


ギルデッド・ヴァンに着く前に、ストレスで私を殺す気なの……?


最初は沼地、今度はこれ……。


私の尊厳がもたないわよぉぉぉ!!)


◆◆◆


[第二節:護衛と水晶の城の荘厳な内部]


ヴァレイラが手掛かりを探したり、さらに大声で騒いだりする前に、二人の屈強な半人族の衛兵が、堂々とした足取りで近づいてきた。


衛兵たちは厳格ながらも礼儀正しい態度で、二人にすぐさま大水晶城へ同行するよう告げた。


こうして一行は、壮麗な城塞の門をくぐり、城内へと足を踏み入れた。


その内部は、目を奪われるほど圧倒的な光景だった。


壁も天井も、光を透過する水晶で彫刻されており、太陽光を何千もの色鮮やかな輝きへと屈折させ、生きている万華鏡のような景色を生み出していた。


磨き上げられた石造りのアーチが連なる広大な廊下、音もなく流れる屋内の滝、そして、微かに残る魔力によって空中に浮かんでいるかのように見える装飾品。


ヴァレイラもブリナも、首を上げたまま、目を大きく見開いて歩いていた。


これほど壮大な建築の数々に、完全に心を奪われていたのだ。


(……こ、これは……。


これこそ女神にふさわしい城ね。


ソラリアの木造の城より、ずっといいじゃない……。


少なくとも、湿気の臭いも虫もいないし。)


一方のブリナは、あちこちを指差しては、二歩進むたびに「すごく綺麗!」と小声で感嘆し続けていた。


◆◆◆


[第三節:支配者シーラの圧倒的な存在]


衛兵たちが、玉座の間へと続く巨大な扉を大きく開いた。


壮麗な広間の最奥、黒水晶の玉座に優雅に腰掛けていたのは、この地を統べる支配者――


圧倒的な存在感を放つ**狐人族(キツネ)**の女性だった。


彼女の髪も、狐の耳も、ふわふわとした二本の尾も、すべてが透き通るような銀白色をしていた。


深い青紫色の瞳を持ち、夜空を思わせる濃紺の衣装を身にまとっている。その色は、二本の尾の先端にも美しくあしらわれていた。


さらに、瞳と同じ青紫色をした淡い月のエネルギーが、生きたヴェールのように彼女の周囲を静かに漂っていた。


彼女は優雅に手を動かし、シーラと名乗った。


その瞬間、ヴァレイラは周囲の空気が急に重くなったように感じた。


狐人族の女性から放たれるマナは、これまで彼女が感じたことのないほど濃密で、圧倒的なものだった。


ヴァレイラは苦労して唾を飲み込んだ。


(……な、何……?


なんて重いマナなの……。


この女性……普通じゃない。


まるで、空気そのものが固体になったみたい……。)


その一方で、ブリナは緊張感をぶち壊す勢いで唇を噛み、興奮を必死に抑えていた。


目の前のふわふわした大きな狐の尻尾に、ぬいぐるみを抱きしめるように飛びつきたい衝動を、なんとかこらえていたのだ。


「……触りたい……。」


◆◆◆


[第四節:説明、輸送手段の喪失と寛大な申し出]


魔力の圧迫感に受けた衝撃をどうにか隠し、平静を取り戻したヴァレイラは、礼儀正しく洗練された身振りで、自分たちの事情を説明した。


控えめに頭を下げ、手を動かしながら、二人がソラリア王国から来たこと、そしてギルデッド・ヴァン王国へ向かうために各地を旅していることを伝えた。


さらに、外の方角を指差し、昨夜は一晩休むつもりだっただけなのに、馬車と御者を盗まれてしまったのだと、抑えた苛立ちを込めて説明した。


シーラは穏やかな微笑みを浮かべ、完璧な貴族らしい姿勢を崩すことなく、二人の話に耳を傾けた。


そして、優しく手を動かしながら、心配する必要はないと伝えた。


明日には新しい馬車を用意させ、旅を再開できるようにすると約束してくれたのだ。


ヴァレイラは優雅にうなずいた。


しかし、内心では相変わらず、彼女のマナの異常な濃さと、狐人族の女性が見せる不思議な落ち着きについて考え続けていた。


(……親切すぎる……。


落ち着きすぎている……。


何かがおかしいわ。)


◆◆◆


[第五節:疑惑、居心地の悪い接近と隠された警告]


シーラが窓の外を指差し、月の美しさと夢の世界について話題を向けると、広間の空気が変わった.


ヴァレイラとブリナは、困惑した表情で互いの顔を見合わせた。


その直後、狐人族の女性はゆっくりと立ち上がり、軽やかな足取りでヴァレイラへと近づいてきた。


そして、危険なほど顔が近づく距離まで迫った。


突然の接近に、ヴァレイラは冷や汗をかき始めた。頬はみるみる赤く染まり、特にシーラが何か非常に興味深いものを見つけたかのような、鋭い視線で彼女を観察していることに気づくと、その赤みはさらに強くなった。


シーラは二人に城での宿泊と食事を勧めるような仕草を見せた。


しかし同時に、ギルデッド王国の王女と、そのクラウンアームズについて、明確な警告を示す仕草も見せた。


ヴァレイラは驚いて目を見開き、疑わしげに眉を寄せた。


(……ど、どうして……?


外界から隔絶された半人族の支配者が、クラウンアームズの存在を知っているの……?


……おかしいわ。


ソラリアでは、こんな話を当たり前のようにする人なんていなかった……。


エララを除いては。


……この女性、本当は何者なの?)


答えを得る間もなく、シーラは背を向け、謁見を終わらせるように歩き始めた。


その際、彼女の柔らかな狐の尾が、わざとらしくヴァレイラの手に触れた。


その瞬間、ヴァレイラは恥ずかしさで真っ赤になり、ブリナと一緒に慌てて広間から退散した。


(……っ!? い、今、尻尾で触った!?


わざと!?


あああああああっ!!


私の尊厳がぁぁぁ!!


またなのぉぉぉ!!)


◆◆◆


[第六節:王室の部屋での休息と晩餐前の疑念]


やがて、使用人の一人が二人を城内の新しい部屋へと案内した。


部屋は磨き上げられた水晶で統一されており、そこには、まるで天上の雲そのもののように、途方もなくふかふかなベッドが置かれていた。


ブリナは迷うことなく、頭からベッドへと飛び込んだ。


その小さな体は柔らかなマットレスに沈み込み、顔には純粋な幸福が浮かんでいた。


「ソラリアのベッドよりふかふかだぁぁ!


あたし、ここに住みたい!」


一方、ヴァレイラは腕を組み、深く考え込むような真剣な表情で、部屋の中を行ったり来たりしていた。


彼女の頭の中では、同じ疑問が何度も渦巻いていた。


シーラがクラウンアームズの秘密を知っているという不自然さ。


そして、あの異常なほど濃密で、重苦しいマナ。


決意を秘めた眼差しで扉を見つめながら、ヴァレイラは心に誓った。


食事の時間になり、使用人たちが自分たちを呼びに来るまでに、シーラの謎を調べ、真実を突き止める方法を見つけてみせる、と。


(……あの女性……。


絶対に何かを隠している。


そして私は……。


必ずその正体を暴いてみせる。


たとえ、私の尊厳と……尻尾を犠牲にすることになっても。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。