アーク 2:第1章: 商業ルートの襲撃と沼地の呪い
[第一節:商業ルートの襲撃と水晶の怒り]
王室の馬車は、大陸を横断する賑やかな交易路を優雅に進んでいた。
太陽は明るく輝き、遠くでは商人たちが行き交い、すべてが穏やかに見えた……。
しかし、その平穏は突然、打ち破られた。
重武装した盗賊の一団が道を塞いだのだ。
剣、弓、そして見るからに傲慢な顔つき。
「おい、そこの王室の馬車! 止まれ!」
「価値のあるものを全部置いていけ! さもなきゃ、首を掻っ切るぞ!」
盗賊の一人が馬車の中を覗き込み、ヴァレイラの姿を見つけると、腹を抱えて笑い出した。
「おいおい、見ろよ! 着飾った魔法使いのお嬢ちゃんじゃねえか!」
「ずいぶん簡単に片付きそうだな!」
ヴァレイラは窓から顔を出し、心底見下したような表情を浮かべた。
(……この変な連中……。
私の旅を邪魔したうえに、女神である私の尊厳まで侮辱するなんて……。
万死に値するわね。)
彼女は一切ためらうことなく、マナを練り上げた。
「ダイヤモンド・バースト。」
無数の鋭利な水晶が、容赦なく盗賊たちへと降り注いだ。
瞬く間に、盗賊たちは粉々に砕け散った。
その場に残されたのは、道一面に散らばるきらびやかな結晶の欠片だけだった。
馬車は何事もなかったかのように、すぐさま走り出した。
一方、近くを走っていた商人たちの隊商は、ヴァレイラのあまりにも常軌を逸した力を目の当たりにし、誰一人として言葉を発することができなかった。
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[第二節:国境の闇市と女神の気まぐれ]
危険な場所を抜けたところで、馬車の御者が告げた。
「ここで休憩です。物資の補給を行います!」
一行が立ち寄ったのは、交易路沿いに設けられた休憩所だった。
そこは、合法的な露店と怪しげな闇市が入り混じる、混沌とした商業キャンプだった。
異国から運ばれた色鮮やかな絹織物、芳しい香辛料、密輸された薬用ポーション……。
さらには、闇のルーンが刻まれた禁制武器、神々の遺跡から盗み出された古代の魔導具、対魔法用の毒薬、そして冥界から持ち込まれた呪われた宝石まで並んでいた。
ようやく目を覚ましたブリナは、周囲に広がる賑やかな光景を目にして、ぱっちりと目を見開いた。
「わあああっ……! 見てください、ヴァレイラ様! すっごいですよ!」
ヴァレイラは優雅な仕草で馬車を降りた。
もっとも、その頭の中ではすでに、何を買って帰るべきかという計算が始まっていた。
(……絹に、宝石に、珍しい魔導具……。
もしかしたら、私にふさわしい逸品が見つかるかもしれないわね。)
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[第三節:感謝の贈り物とちびっ子のドジ]
露店を巡っていたヴァレイラの目が、豪華な宝石商の店先に釘付けになった。
きらきらと輝く装飾品の数々に、彼女の視線はすっかり奪われていた。
すると、店主が彼女の顔を見た途端、驚きの声を上げた。
「あなたは……! あの盗賊どもを一瞬で始末した魔法使い様ではありませんか!」
「おかげで命も商品も守られました! 本当にありがとうございます!」
「どうか……お好きな宝石をお選びください! お礼として、すべて無料で差し上げます!」
ヴァレイラは、気品と傲慢さを兼ね備えた笑みを浮かべた。
「……そう。では、ありがたく頂戴するわ。」
「もちろん、最も美しいものだけをね。」
ブリナは、自分の女神が幸運を手にした様子を、目を輝かせながら見つめていた。
しかし、いたずら好きな彼女が大人しくしているはずもなかった。
隣の商人が目を離した一瞬の隙を突き、ブリナは木箱から新鮮なリンゴをひょいと失敬した。
(……ブリナ……またなのね……。)
やがて、近くの酒場で休憩していた御者が戻ってきた。
彼は馬にニンジンを与えると、一行に声をかけた。
「さあ、そろそろ出発しますよ!」
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[第四節:黄金の約束と沼地への風景変化]
ふかふかの座席に再び腰を下ろすと、御者が弾んだ声で告げた。
「ギルデッド・ヴァン王国の国境までは、あと三つのルートを越えるだけです!」
その言葉を聞いた瞬間、ヴァレイラの心は歓喜に包まれた。
(……ギルデッド・ヴァン……。
黄金の王国……。
金糸で織られたドレス……。
黄金で彩られた豪華絢爛な宴……。
ついに……ついに、贅沢の極みともいえる国が私を待っているのね!)
ヴァレイラが「黄金の料理……」と夢見るようにつぶやいたのを聞き、ブリナの口にはたちまち涎が浮かんだ。
「急いでくださーい!! 黄金の料理が食べたいですーっ!!」
しかし、その夢はルート2へと足を踏み入れた瞬間、無情にも打ち砕かれた。
そこに広がっていたのは、陰鬱な沼地だった。
濃く不気味な緑色の霧が大地を覆い、空気には湿気と腐敗臭が充満していた。
黄金の王国とは、あまりにもかけ離れた光景だった。
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[第五節:虫の恐怖と魔法の粘液の罠]
ヴァレイラは馬車の窓からそっと顔を出した……。
そして、完全に硬直した。
泥の中を、巨大なムカデが這い回っている。
そのすぐ近くでは、巨大なカエルたちが、ぬめった音を立てながら跳びはねていた。
彼女に医学的な意味での恐怖症があるわけではない。
だが、虫と不潔なものに対する生理的な嫌悪感は、もはや限界を超えていた。
「いやあああああっ!! 無理! 無理無理無理ぃぃぃ!!」
一方のブリナは、まるで珍しい動物でも見つけたかのように、何のためらいもなく指を差した。
「見てください、ヴァレイラ様! ただのちっちゃな虫さんですよ!」
ヴァレイラの脳内で、絶叫に近い怒りの独白が炸裂した。
(……ちっちゃな虫ですってぇ!?
あの気持ち悪くて、巨大で、ぬめぬめした化け物たちが、かわいく見えるというの!?
このちびっ子……いつか絶対に許さないわよぉぉぉ!!)
そのときだった。
ガタンッ!!
馬車が激しく揺れ、突然、急停止した。
御者が怯えた声を上げる。
「な、何だ!? 何かに馬車が引っかかっているぞ!」
虫への恐怖を必死に押し殺しながら、ヴァレイラはブリナを伴って馬車を降りた。
そして、恐ろしいものを目の当たりにした。
車輪が、緑色の粘液に完全に絡め取られていたのだ。
ただの泥ではない。
魔力を帯びた、異様に粘り気の強いスライム状の物質だった。
その粘液が車輪をがっちりと固定し、馬車の前進を阻んでいた。
(……魔法の粘液……?
ちょっと待って。
本気で言っているの……?
この沼地、悪夢そのものじゃない……!!)
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[第六節:霧の中の謎の神殿(章末)]
魔法の粘液を取り除く方法も、その魔力を解除する方法も分からず、ヴァレイラは苛立ちと嫌悪感を露わにしながら周囲を見渡した。
すると、遠くの方に何かが見えた。
ねじくれた木々と、腐敗した沼地の悪臭に半ば隠れるようにして、古びた神殿らしき建造物が佇んでいた。
「……あそこね。」
ヴァレイラは目を細めた。
「きれいな水か、役に立つ道具……あるいは、車輪を解放する方法を知っている誰かがいるかもしれないわ。」
そう判断した彼女は、助手であるブリナとともに、腐りかけた植物が生い茂る奥地へと足を踏み入れた。
ブリナは弓をしっかりと握りしめ、ヴァレイラの隣を歩いていた。
いつもの無邪気な表情には、わずかな緊張の色が浮かんでいる。
霧の向こうにそびえる古代の神殿。
静まり返った沼地。
そして、肌にまとわりつくような不穏な気配。
二人はまだ知らなかった。
神殿の暗がりには、危険な存在、あるいは恐るべき何かが潜んでいることを……。
まるで、二人が近づいてくるのを待ち構えていたかのように。
そして、その影は今まさに、彼女たちを罠へと誘い込もうとしていた。
第1章・終わり




