アーク1: 第15章: 最後の朝食と旅立ちの日
[第一節:最後の朝食と玉座への行進]
ヴァレイラとブリナは、前日のピクニックの思い出がまだ鮮明に残る中、城の部屋で早朝に目を覚ました。
テーブルの上には、焼きたてのパン、イチゴジャム、ふわふわの卵料理、そして香り高い紅茶が並べられていた。
ブリナはいつもの元気いっぱいの様子で食事を頬張り、頬をいっぱいに膨らませながら、目をキラキラと輝かせていた。
一方、ヴァレイラは鏡の前に立った。
宮廷魔導士の制服を、ミリ単位の精度で整える。 完璧に整えられた髪。 定位置に戻された魔女の帽子。 真っすぐな姿勢。 そして、神々しいまでに美しい表情。
(……今日は大使としての第一歩を踏み出す日。
身だしなみに一切の妥協は許されない。
女神たる者、完璧な姿で世界に出なければならないのだから。)
お腹も満たされ、尊厳も取り戻した二人は、堂々とした足取りで木造の廊下を進み、玉座の間の大きな扉へと向かった。
### [第二節:特別任務と隠された野望]
謁見の間に入ると、セラフィナ女王が厳かな面持ちで二人を待っていた。
その隣には、エララ王女が静かな表情で立っていたが、ヴァレイラの姿を目にした瞬間、その瞳がぱっと輝いた。
「よく来てくれました、宮廷魔導士ヴァレイラ……そして、ブリナ。」
女王は二人に、特別な任務を告げた。
「あなたたちには、ギルデッド・ヴァン王国とエルドリア王国へ、大使として赴いてもらいます。
緊急の同盟に関する親書と、不可侵条約を携えていくのです。
国際情勢はますます緊迫しています……。ソラリアの平和を、あなたたちの絶大な力に託します。」
エララも、心からの思いを込めて言葉を添えた。
「私たちは戦争を望みません。
だからこそ……あなたを信じているのです。」
ブリナは元気よくうなずいた。
ただし、政治のことは何一つ理解していなかった。
一方、ヴァレイラは話の内容を頭の中で整理し、優雅で完璧な微笑みを浮かべながら任務を引き受けた。
(……外交ね……退屈そう。
でも……お金持ちの王国。
金貨。宝石。贅沢な暮らし。
ようやく、この私にふさわしいものに囲まれる日が来たわね。
この任務……悪くないじゃない。)
### [第三節:大神官アイリスの祝福]
旅の成功を確実なものとするため、女王はソラリアの大神官であり、エララの精神的な師でもあるアイリスを呼び入れた。
アイリスは、成熟した気品と深い落ち着きをまといながら、ゆっくりと謁見の間へ入ってきた。
白と金を基調とした聖なる祭服を身にまとい、その存在からは、悠久の時を超えて受け継がれてきた平穏な気配が漂っていた。
彼女は優雅な所作で祝福の儀式を執り行い、聖なる竜エラリアに祈りを捧げ、旅立つ者たちに加護を授けた。
しかし、穏やかな表情の裏側で、アイリスはヴァレイラを深い疑念のこもった眼差しで観察していた。
あの謎めいた魔導士は、何か隠された目的を持っている……。
あるいは、この世界の存在ではないのかもしれない。
そんな予感が、彼女の心の中で静かに膨らんでいた。
ヴァレイラも、その張り詰めた空気に気づいた。
(……何よ。私を疑っているの?
なんて無礼な女。
女神であるこの私が、たかが一人の大神官に認めてもらう必要なんてないわ。)
彼女は傲慢な態度でその視線を無視し、自分の身に降り注ぐ神秘的な祝福の輝きに意識を向けた。
### [第四節:軍事的敬礼と天まで膨らむエゴ]
儀式が終わり、いよいよ別れの時が訪れた。
女王と王女は、二人の旅の無事を祈った。
エララとヴァレイラの視線が交差する。
そこには互いへの親愛の情が込められていた。
そして、王女の頬には、思わず隠したくなるような可愛らしい赤みが浮かんでいた。
ヴァレイラとブリナが城の中央広場へ出た、その時だった。
ソラリアの王国騎士たちが、一斉に姿勢を正した。
そして、全員が息を合わせ、壮大な軍隊式敬礼を捧げたのだ。
それは、黒き悪魔の暗殺者たちから彼らを救った魔導士に対する、最大限の敬意の表れだった。
その光景には、圧倒的な規律と尊敬の念が満ちていた。
そして……。
ヴァレイラの自尊心は、一瞬にして天井を突き破り、ついには宇宙空間にまで到達した!
(……そうよ。女神とはこうして扱われるべきなの。
完璧なる存在には、これほどの賛辞こそふさわしい。
この兵士たち……なかなか見る目があるじゃない。)
彼女は女王から与えられた王室専用の馬車へと乗り込み、顎を高く上げた。
まるで世界を守るために降臨した、真の女神であるかのように。
### [第五節:旅の始まりとちびっ子の文句]
王室の馬車が動き始めた。
ソラリアの大きな門をくぐり、素朴で平和な王国を後にする。
壮大な冒険の幕開けを思わせる空気が、数秒間だけ辺りを包み込んだ……。
しかし。
ふかふかの座席に腰を下ろして、わずか五分ほど。
ブリナは退屈そうに足をぶらぶらさせ始めた。
「ねえ、もうすぐ着くの?」
ヴァレイラは、座席の上で盛大に爆発した。
「はああああああああ!? もうすぐ着くですって!?
まだ城の門を出たばかりでしょうが!!
この旅は何週間もかかるのよ、ちびっ子!!
何週間も!!」
ブリナは無邪気に笑いながら肩をすくめ、まるで何事もなかったかのように、再び座り心地のよい姿勢を探し始めた。
ヴァレイラはこめかみを揉みほぐした。
(……最初の王国に到着する前に、この子を始末してしまいそう……。
絶対に……。)
### [第六節:大陸の地図と女神の疑い(アーク1・完結)]
ようやく窓の外を眺めて夢中になったブリナを横目に、ヴァレイラは羊皮紙の地図を膝の上に広げた。
これから進むべき道筋を、細部まで注意深く分析する。
街道の危険。 広大な森林。 王国の国境。
そして、強欲な王が治めるギルデッド・ヴァンと、鋼鉄の戦士たちが待ち受けるエルドリア。
その二つの国で待ち受ける、地政学的な謎と未知の問題についても考察を巡らせた。
馬車は朝日の下、遥か彼方の地平線へと向かって進んでいく。
ヴァレイラの思考は、戦略的な計算から、世界の未知なるものへの大きな期待へと変わっていった。
(……この世界は、私が想像していたよりもずっと広いのね。
黄金、権力、秘密、神々、そして魔獣……。
そして、この私の傍らには『願望の魔導書』がある。
次なる試練を迎える準備は……万端よ。)
魔導書は彼女の隣で静かに浮遊していた。
まるで、それ自身もこれから始まる旅に期待を寄せているかのように。
こうして、アーク1は幕を閉じる。
ソラリアから遠ざかっていく王室の馬車。
野心と好奇心を胸に、地図を見つめるヴァレイラ。
そして、その隣ですでにうとうとと眠り始めているブリナ。
第一アーク・完。




