アーチ1:第14章: 失われた帽子と桃色の午後
[第一節:失われた帽子の謎と美的危機]
翌朝、ヴァレイラは目を覚ました。
目覚めた瞬間、彼女は昨夜の高級ベッドがもたらしてくれた安らぎを、もう一度味わっていた。
……鏡を見るまでは。
普段なら絹のように滑らかで、完璧に整えられている紫色の髪が、今や反抗的で手に負えない鳥の巣と化していた。
そして、最悪なことに……。
ダイヤモンドの装飾が施された、彼女の神秘的な女神のイメージを完成させる大切な巨大な魔女帽子が、どこにも見当たらなかった。
「ど、どこ……なの……私の帽子は!?」
コミカルなパニックが、ヴァレイラを容赦なく襲った。
彼女は何も考えず、美的危機の真っただ中で部屋を飛び出した。
髪をめちゃくちゃに乱したまま、城の木造の廊下を全速力で駆け抜ける。
しかも、自分が白い寝間着しか着ていないことなど、完全に忘れ去っていた。
女神としての威厳は、すでに部屋の床に置き去りにされていた。
(……私のコーデが! 私のイメージが!
誰かが私の神聖な帽子に手を出したというの!?
これは私の存在そのものに対する直接的な攻撃よ!!)
[第二節:王女の視線と図書館の隠れ場所]
廊下を手当たり次第に探し回っていたヴァレイラは、遠くに見覚えのある人影を見つけた。
エララ王女が、好奇心と少しばかりの面白がるような視線を彼女に向けていた。
その瞬間、ヴァレイラは自分の姿を見下ろした。
ボサボサの髪。
寝間着。
必死すぎて正気を失ったような顔。
脳内が一瞬でショートした。
彼女の顔は、みるみるうちに真っ赤になった。
「み、見ないでぇぇぇ!!」
ヴァレイラは逃げるように図書館へと全速力で駆け出した。
その途中、危うく転びそうになった。
静まり返った図書館に入ると、分厚い毛布の下から、必死に笑いをこらえる声が聞こえてきた。
ヴァレイラは勢いよく毛布を引っ張った。
そこにいたのは、魔女帽子を斜めにかぶり、完全に見つかったと悟った顔をしているブリナだった。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさーい!!
だって……すっごく気に入っちゃったんだもん!
一日中、匂いを嗅いでいたかったの! 魔法と女神様の匂いがするんだもん!」
ヴァレイラは、優雅さを踏みにじられた者の目でブリナを睨みつけた。
「罰よ。
今すぐ。
私の髪を全部、ブラッシングして絡まりをほどきなさい。
完璧な状態になるまでよ。
文句は一切禁止」
ブリナはしゅんと頭を下げた。
しかし、ブラシを手に取ると、嬉しそうな小さな笑みを隠しきれなかった。
[第三節:桃色の花びらの下での招待]
ブリナが罰を受けながら、かなり不器用ではあるものの、一生懸命ヴァレイラの髪を整えていると、図書館の扉が静かに開いた。
いつもの無邪気な笑顔を浮かべたエララが、瞳に特別な輝きを宿して入ってきた。
「おはようございます!
今日はお休みですし、王城の庭園で特別な屋外ランチを用意したんです……。
よかったら、一緒にいかがですか?」
ブリナは即座に顔を上げ、目を輝かせた。
「行くーーーっ!!」
一方、ヴァレイラは帽子の一件でまだプライドを傷つけられていたものの、お腹が裏切るように鳴るのを感じた。
(……王族の食事……。
庭園……。
木陰……。
ちゃんとした食器……。
いいわ。参加してあげる。
食事のためだけなんだからね)
それから数時間後。
三人は、風に吹かれて桃色の花びらが優しく舞い落ちる、美しい木の下に集まっていた。
エララは、手刺繍が施された白いテーブルクロスの上に、大きな籐のバスケットを置き、中身を取り出し始めた。
少しずつ姿を現したのは、まさに王族にふさわしい豪華な食事だった。
上質な磁器の食器、太陽の光を受けて輝くクリスタルのグラス、そして銀製のカトラリー。
そのすべてが、優雅な午後を演出していた。
[第四節:天上の晩餐と滑稽なよだれ]
並べられていく料理の数々は、まさに圧巻だった。
最初に登場したのは、柔らかなバターを添えた小さなパン、焼きたてでまだ湯気の立つクロワッサン、そしてクリーム入りの小さなお菓子。
続いて、メイン料理が並べられた。
香ばしいローストチキン、肉汁たっぷりのミートパイ、そして薄くスライスされた燻製ハム。
さらに、彩りを添えるように、つやつやと輝くイチゴ、紫色のブドウ、そしてみずみずしい桃が盛りつけられた。
そして、最後を飾るのは……。
完璧なイチゴタルト、ハチミツケーキ、そして天国のような香りを漂わせる、珍しいチョコレートでコーティングされたフルーツだった。
ヴァレイラもブリナも、完全に硬直していた。
ヴァレイラの口元からは、今にもよだれが垂れそうになっていた。
一方、ブリナの目は完全に星形になっていた。
二人の反応を見て、エララは楽しそうに微笑み、優しく手を差し伸べた。
「どうぞ、召し上がってください」
ヴァレイラは最初の一口を口に運んだ。
その瞬間、彼女は本物の天国へと昇ったような気分になった。
(……これ……。
これは食事なんかじゃない。
神聖な体験よ。
私の女神の体が祝福されているわ……)
一方のブリナは、幸せな呪文でも唱えるかのように、頭の中で同じ言葉を繰り返していた。
(おいしい、おいしい、おいしい、おいしい、おいしい!)
[第五節:苺のロマンチック攻撃]
のんびりとしたランチの最中、二人の間の空気が一変した。
エララは、新鮮で形の整ったイチゴを指先でつまんだ。
そして少しだけ身を乗り出し、澄み切った空色の瞳でヴァレイラをまっすぐ見つめながら、ごく自然に言った。
「はい、あーん」
ヴァレイラは、これ以上ないほど真っ赤になった。
恥ずかしさのあまり、心臓が胸から飛び出してしまいそうだった。
(……はぁっ!?
い、今、食べさせようとしてるの!?
まるで子供みたいに!
私の女神としてのプライドが、そんなことを認めるはずが……!)
しかし、エララの眼差しはあまりにも純粋だった。
あまりにも真っすぐで。
あまりにも、断りづらかった。
目に見えて震えながらも、ヴァレイラはゆっくりと口を開き、そのイチゴを受け入れた。
飲み込んだあと、彼女は残された威厳をかき集め、どうにか平静を装おうとした。
「……そ、そういうことは……先に言いなさいよ」
エララはただ、満足そうに小さく、優しく笑った。
[第六節:夜の警告と侵入する猫]
夜が訪れる頃、庭園でのひとときは終わりを迎えた。
別れ際、エララは城の廊下で足を止めた。
その口調は柔らかかったが、表情には真剣さが浮かんでいた。
「ヴァレイラさん……。
明日、お母様からどんな特別な任務を任されたとしても……。
どうか、お互いを守ってください。
あなたとブリナの二人で」
彼女は少しだけ間を置き、心からの思いを込めて付け加えた。
「私……二人の無事を願って、今夜は聖なる竜エラリア様に祈りを捧げます」
ヴァレイラの頬が、最後にもう一度、裏切るように赤く染まった。
「……わかったわ。
そんなに心配しなくても大丈夫よ」
別れの挨拶を済ませた二人は、自分たちの部屋へと戻った。
疲れ切ったヴァレイラは、諦めたような目でブリナを見つめた。
「……あなた、この城に自分の部屋があるんじゃなかったの?」
ブリナは何の悪びれもなく答え、すでにベッドに潜り込み始めていた。
「あるよ?
でも、女神様の高級ベッドのほうが、ずーっと寝心地がいいんだもん」
ヴァレイラは、敗北を認めた者のように、長く深いため息をついた。
「……もう、好きにしなさい」
彼女は柔らかなシーツに体を沈めると、ほとんど一瞬で眠りに落ちた。
その隣では、ブリナが幸せそうに丸くなっていた。
まるで、自分の永遠の居場所を見つけた猫のように。




