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氷姫の契約婚 虐げられた令嬢は炎の腕に抱かれる  作者: ななみ沙和


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帝との邂逅(2)

――お止めしないということは、この舞踏は必要ということかしら。

 

 よくわからないが、煌貴は帝に仕える者でもあるし、帝の行動を止めるなどできないのかもしれない。

 煌貴と共に見守るが、帝は「よっ」「はっ」などと声を発しつつ、よろめくように動き回っていた。

 澪は困惑し、眉を寄せて眺めていたが、帝の足の運びを目で追っているうちに眉の間の力が抜ける。


――あれは。

 

 気ままに動いているのではなく、ある意図をもって動いている。

 手の振りや腰を揺らす動作は付け足しであり、おそらく意味はない。

 重要なのは、床のきまった位置を順序良く踏むような足運びである。

 笙や太鼓の音を聞きながら、澪は帝の足だけを見つめ、様子を見守る。


――九歩で一巡されている。


 ふんふんと上機嫌に踊っているように見せかけているが、足が描いているのは星辰の形だ。

 帝がくるくると回りだす。まるで独楽のように円を描く。

 帝の動きと合わせて飾緒が、結んだ髪が跳ねている。

 数えきれないほど回ったあと、太鼓がドンと鳴り、帝が右手を天に上げて得意げに舞踏を終えた。


「どうだ、煌貴!」

「どうだ、とは?」


 煌貴の声は凍てつくように冷たい。


「余の舞踏を見て、思うところがないのか?」

「いつものとおりですね」

「冷たい……もっとぬくもりのある感想はないのか?」


 帝に意味深に見つめられ、澪はおそるおそる答えた。


「……禹歩うほを踏まれていたのですよね?」


 煌貴と帝が驚いたような顔をする。


「……なんと。気づいたというのか?」

「はい。昔、聞いたことがあったのを思い出したのです」

 

 禹歩は辟邪や招福の効果があるという特別な歩行法である。一歩目は大きく足を踏み出し、二歩目は一歩目を超えずにまるで足踏みのようにごく小さく歩を進め、三歩目は大きく足を踏み出す。

 その歩行法で北斗七星や円を描いて呪力を高め、あるいは結界を張る――それが禹歩である。

 帝が感心したように大きくうなずいた。


「氷姫よ、よく知っていたな」

「昔……本当に昔ですが、教わったことがありました」


 この場が清浄な気で満たされているのは、四神の絵や庭に描かれた五芒星のせいだけではない。帝が禹歩を踏んで己の力で結界をつくりだしているからだ。


「ふむ……。想像以上にしっかりした娘で安心した。氷姫は北の土地の要になりうる存在だ。頼りない娘では困るからな」


 帝のひとことに胸がちくっと痛くなる。


「わたしは……主上のご期待に応えられる人間では……」


 澪がついうつむくと、煌貴が肩にそっと手を置いた。


「事情は煌貴からの手紙で知っておる。都では治療に専念し、氷姫としての力を取り戻してほしい」


 帝の励ましに、澪は唇を引き結んでうなずく。


――帝がこれほど氷姫をお望みになるというのは、北の結界と関係があるはず。


 結界の不備が都にも影響を及ぼしているのなら、氷姫の存在を重視するのもわかる。


「立ち話もなんだな。誰か、茶の用意を」


 帝の一言に、楽人たちが速やかに退出する。

 代わりに入ってきたのも、雑面の男たちだった。側仕えらしい男たちは、帝のために床几を用意し、澪たちのそばには座布団を敷く。


「ふたりとも座ってよいぞ」


 床几に腰かけた帝の許しを得てから座ると、側仕えたちが茶を運んでくる。

 出された湯のみの蓋をとると、茶の水色は新緑の色をしていて、湯気がふわりと立った。

 帝と煌貴が茶を飲みはじめるのを待ってから湯のみを手にする。茶はほどよい温度で、爽やかな香りとのど越しに、緊張がほどけるようだった。


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