夢の中
しごとかあ・・・とアオが頭を悩ませていた矢先、事件は起きた。
たまたま手持無沙汰だったレオもたまには様子見に行くかあ、と同行してちょうど3人が着いた時には、リクが泣き喚きながら瓦礫を掻き分けていた。
屋根になっていた太い梁が地に落ちて重なっているのが見て取れた。遂に崩れたのだ。
「アオー!アオー!」
「アオどこにいる!聞こえたら返事しろ!」
大人二人がかりで手当たり次第に瓦礫を掘り、重なっている木材を何度も持ち上げては転がした。
瓦礫を退ける合間に水汲んどけ!と指示を飛ばされ、リクとふたり大急ぎで汲みに行った。
廃材の隙間から腕の一部が見え、助け出したときには虫の息だった。
リクが震える手でアオの顔に水を落とした。
それで意識を取り戻したのか、瞼がピクと動いて開いた。眼球がぐるりと動き、取り囲む面々を見て子供の姿を目に留めると、アオの目尻は満足したように下がった。
「リ、ク。元気で・・・やれよ。オレみたいには・・・なんな」
動かない腕をぎこちなく震わせ持ち上げようとし、ぱたっと落ちた。瞼も閉じられた。
「あお?アオ?」
くいくいとリクの手が服を引っ張る
「あお!あお!」
クロウが首元に手を差し込んで確かめるがやはり首を振った。
「うそだ!ずっと一緒だっていったのに!あお!あおーーーっ」
リクはもう動かないアオの体をぽかぽか叩いていたがやがて抱き着いて泣きじゃくり始めた。
「リク・・・」
熱く震えるリクの背中を撫でてやることしかできなかった。
どんなに泣いてもアオはもう・・・
『やれやれ。だから警告したのだ』
その声は全員に聞こえていた。
リナの耳飾りの先から石が離れ、赤く光り輝いて浮いていた。
喉が引っ付いているかのように動かなかったが、リナは何とか問い返した。
「・・・・・・警告したって、知っていたのか」
石はさらに輝きを増した。
『私も細かな事情までは分からないが、大まかな流れくらいなら見通せる。その子供の持つ石から見えた未来を、予めその者に警告していた』
そのときの様子を火影のように映し出してみせた。
その声は、オレがもう眠いっていうのに勝手に話しかけてきた。
『大事な話をしよう。お前の未来の話だ。』
うーん、眠い。大事な話なら後にしてくれ・・・
『お前はもうすぐ死ぬ。あの子を庇って死ぬ』
そんな冗談あってたまるか
んなわけねえ。人庇って死ぬなんてそんなお人よしじゃねえくらい言い返したような気がする。
『その前にあの石と契約をしろ。』
はあ?いし?
『あれは私から力を分けた石だ。私ほど強力な力はないが、お前の不幸を逸らすくらいはできる』
・・・ああ、リクのお守り石のことか。あれはリクのだ。
『あの子のために、生きたいんじゃないのか!』
いいんだよ。あのお守りはリクにあげたんだ。
オレはお守りになんかに守ってもらわなくても立派に生きていける。もういい大人だぜ?
リクを守ってくれるならそれでいい。
リクの未来が、オレの未来だ。
眠りに落ちるアオの様子が薄くなっていきふっと消え、瓦礫の散乱する元の場所に戻った。
『愚かなことよ。我が忠告を聞き入れずその命を落とした』
その声を聞いて、呆然としていたリクの瞳がきっと吊り上がった。
「ちがう!」
泣きじゃくっていた声が嘘のような毅然とした声だった。
「アオはおろかなんかじゃない。僕を助けてくれた!」
「でも、お前を故郷からさらった悪い奴だ。お前を利用して国から魔法の石を盗み出した」
分かってんだろ、とレオは子供にも容赦はなかった。お前が見て見ぬ振りしてきたことだ、と。リクは子供らしからぬ勇敢さでレオにも立ち向かった。
「違う!アオはオレに未来を見せてくれた!オレでもできるって教えてくれた!アオはオレを生きさせてくれた!」
山から木を持って帰ってナイフで削り、スプーン、小皿、動物といろいろなものを作ってみせてくれた。
割いた木をごく薄く削って羽の付いたおもちゃを作ってくれた。それはアオの手から離れふわっと飛んだ。船を小川に流すと沈むことなくどこまでもどこまでも流れて行った。夢中で追いかけた。
教えてもらいながらも自分で作った。最初はうまくいかなかったけど、何回も削るうちにだんだん形になっていった。
薄くするのは難しかったけど、初めて羽の付いた玩具が飛んだときはうれしかった。自分のこの手で作れるんだと思った。
空中で光を放つ石を見ていて、リクははっと思い出したように、服の下から首に下げていたお守りを取り出した。
「僕のお守り石なら、僕の願いを叶えて!」
呼びかけに応じるように石は光を灯しふわっと浮いた。
「アオを助けてほしい。アオを生き返らせてっ」
石はチカチカと弱弱しい光を放っただけだった。
「だって、魔法の石なんでしょ。魔法の力、使えるんでしょ!こううんの石だって。いいことがいっぱい起きるんだって。お願いだよ!魔法の力でアオを助けてっっ」
『無理だ。その石の力はそれほど大きくはない。その石は、お前を守るためにあるのだ』
「それなら僕を守らなくていい!アオを守って。アオを助けてよ!」
石は弱弱しく明滅するばかりだった。自分の非力さを嘆いているようにも見えた。リクの瞳に再び涙が溢れ流れ出すのを、リナは見て居られなくて目を逸らした。
「だって、だって、なんでっ・・・あおっ」
リクのしゃっくりが止まらない。
『・・・・・・やれやれ。これは、人の世界では禁じられている手段なのだがね』
万能石が再び輝きを増した。
『リナ、私に望むがいい。』
「・・・」
『強大な力を手にしていてなお、我が力を恐れ、疑い、迷い、驕らぬ高潔な精神を宿す者よ、わたしはあなたのためにいる』
アオの体から石と同じ赤い輝きが抜けた時、青白かった肌に生気が戻った。側で見守っていたリクはアオの頬に手を当てるとほっと安堵したように表情が緩んだ。
『これ以上、手伝うことはできない』
「うん」
『二度と失いたくないのなら、お前がしっかりあの男を導いて行くんだ。』
「うん、わかってる」
石の言葉にリクはしっかりと頷いてみせた。
石は静かにリナの元に戻って来た。
そっと手の中に包み込む。
「あなたをこんなところに縛り付けてしまってごめんなさい」
『いいのだよ。私の時間は人の世の時間とは違う。たまには人の時間に留まってみるのも楽しいものだ』
そういってふっと輝きを失った。いつもの石に戻ったそれを耳飾りの先の鎖に繋いだ。




