話し合い
「石はリクが持っているのか?」
リナの落ち着いた様子を見て、すぐに命を取られるようなことはないと分かると男の態度も落ち着いていた。
「オレは・・・、呪いにかかりたくなかったんでな」
おかしなのはそこだった。外に持ち出されれば呪いによって持ち主は死ぬ。石の力もやがて失われる。
だが持ち主である子供は至って元気そうであり、元凶のこの男も何か影響を受けている様子は見られなかった。いや、むしろ逆である。アナトリアからここまで何かの危険に遭遇することもなく移動し、さらにここで平穏と言える日常を送っている。
「お前はこれから石をどうするつもりだ?」
「・・・盗んでみたはいいけどよお、どうやって使うんだかもわかんねえし売っても大した金にはなんねえし、どうしようかと思ってたところよ」
試しに町の宝石商や貴金属店を回ってみたが二束三文の価格しか提示されなかった。それはそうである。アナトリアなど地図上に存在しない夢物語の国でその国の魔法の石がどんな姿形でどんな効果があるのか実際には誰も知りようがない。なんかみたことない石だなあ。一応宝石っぽいし売るってんなら買ってやるかくらいの値打ちである。
「お守りだって言ったから、リクはなんか気に入っちまってるしもうあいつにやるかあと思ってたトコ」
そこまで話したとき、血相を変えて戸口に男の子が突進して来た。
「アオ!」
「おお、どうしたリク」
男の子は男の無事な様子を見てほっと肩を落とした。続いてどんな奴が来やがったのかと室内を見渡し、リナの顔を見つけるなり戸惑った。
「あ、れ。り、れナ さま?」
「イリーナだ。初めてお目にかかる」
リナは立ち上がると子供に礼儀正しく腰を折った。
「レナから、お前が連れ去られたと聞いて探しに来たのだ」
一瞬ぎくりとアオは身を固めた
「・・・僕は連れ去られてなんかないよ。アオと旅に出たんだ」
「今聞いたところだ。誤解がとけてよかった」
子供の言い分を受け止めたところで力が抜けた。
長居をしては申し訳ないとその日はそれで退散して行った。
夕食は少し豪勢でリクは喜んだ。今日の訪問者からのパンと肉の置き土産だった。分かっている。これは自分にではなく同じ王国の民、リクへの気遣いなのだ。
リクはぼろきれのような毛布にくるまって健やかに寝息を立てていた。その枕元には作ってやった鹿とヤギの木彫りが転がっていた。
アナトリアから追手が来た。居場所も突き留められている。くっついていた護衛らしい二人は荒事には慣れている様子で隙がなかった。特に、戸口の崩れかけのテーブルに腰かけた男は楽にしているように見えて、いざこっちが逃げ出したり少女に危害を加えようとすればすぐさま飛びかかってくるような手練れだだろう。リクとふたり、行方をくらませてもかならず探し出される。
(どうすっかな)
今にも落ちてきそうな歪んだ天井を見上げながらいつの間に眠りに落ちていた。
訪問者は毎日やってきたが長居をすることはなかった。
リクや自分の様子を確認して、少し話して帰って行く。
「これまではどうやって暮らしていたんだ?」
手が滑らかにナイフを走らせ、木の薄く削れる小気味よい音が続く。木くずがさらさらと足の間を落ちて行く。少し腰をずらして足の間に溜まった木くずを何度か払い除けた。
「親父は飲んだくれのどうしようもない奴で、女を殴る奴だった。母親はオレが小さい頃に出て行ったよ。」
父親に見切りをつけ家を出て盗みや摺りで生きて来た。
「そうか」
さらさらと滑らかな音がまた続いた。
さて寝るかとぼろきれに包まって寝転がったところに、向こうで丸まっていたリクが起きてきた。オレの毛布を掴んで不安げに見下ろしてくる。
「ずっと一緒だよね」
「え、・・・おお」
「一緒だよね。約束したもんね!一緒に行こうって」
「・・・当たり前だろ。明日は船を試すんだろ、早く寝ろ」
「うん」
そしてオレの横に丸くなった。その晩、リクはオレの毛布を握って離さなかった。
・・・・・・狭い!
おかげでオレは朝から首が痛い。




