経緯
でかい街でいくつか盗みをやって、そろそろ噂になりかけていたからこの街も潮時かと次に移るつもりでいたときに偶然聞いた話だった。
盗みは、あまり大きくやりすぎるとその街の同業者から叩かれそれこそ文字通り仕事ができなくなる。
耳にしたのは魔法の国の話だった。その国では今世では失われた魔法がまだ生きていて、人々はみな不老長寿で魔法のおかげで食うに困らず穏やかに暮らしていると。楽園のような話だ。
(そんな場所があるなら、是非ともお目にかかりたいね)
そんなことを思いながら街を出て街道を進んでいた。
検問所に払う通行料をケチって街道を離れたのがマズかった。方向感覚は悪くないつもりだった。街道に沿って森の中を進み検問所を迂回するだけのつもりだった。行けども行けども出てくるのは木々ばかり。三日ほどもさ迷い歩いただろうか。空腹のあまり倒れ込んで気を失った。
目が覚めた時、側に居たのがあの子供だった。
「・・・死んでる?」
くりくりとした目で、奇妙なものを見下ろしているという感じだった。
「めし・・・」
それだけで子供は何かを察したのかどこかに駆けて行くと、しばらくして戻って来た時には手にパンとビスケットとミルク缶を抱えていた。
オレは貪り食った。九死に一生を得たと思った。
子供は近くにある薪小屋を案内し、そこに毎日パンを届けに来た。
回復するまでのほんの数日のつもりだった。
「かあちゃんに何か言われねえか?」
「・・・かあちゃん、いねえから」
「・・・そっか」
少しづつ会話が増えて行った。リクは幼くして両親を亡くし、孤児院で暮らしている子供だった。遊びの時間に抜け出してここに来ているらしい。森の中は危ないからと、入るのを禁止されているらしいがいじめっこたちも追ってこない。リクはときどきこうして森の中でひとりで遊んでいて、オレを見つけたらしい。
日中の手慰みにナイフでそこらに転がっている薪の欠片をなんとなく削っていると、いたく感心された。小鳥の形に削ってやると喜んで持って帰った。
翌日、頬に青あざをつくって現れた。
「どうしたそれ」
「・・・別に。」
それから慌てたように言い直した。
「・・・っ転んだんだ」
「名前はなんていうの?」
差し当たりふたりしかいないので不都合はなかったが、リクは気になったらしい。
父親からはおい、とかお前、と呼ばれていた。母親は何かを呼んでいた気はするが、随分前に出て行ってもう忘れた。仕事をするのに名前がないのはちょうどよかった。行く先々で適当に名乗っていた。
「・・・・・・好きに呼べ」
「じゃあ・・・・」
リクはちょっと考えてアオと言った。
「・・・目が青いから」
機嫌を損ねていないかと、窺うような目をよこしてきた。
リクは子供特有の能天気さからなのか不審がるということはなかったが、ふと気になったのか突然聞かれた。
「アオは何しに来たんだ?」
咄嗟に幸運の石を探して旅をしている、と答えていた。まあ、間違いでもない。幸運だったのはそれを聞いたリクの回答だった。
「レナ様のお守り石のことかなあ?」
「知ってるのか!」
「レナ様は僕らの王様だよ。王様は特別な石を持っているんだ」
リクから詳しく話を聞けば、ここはもしやのかの魔法の国かと思えた。行き倒れた時はもう終わりかと思ったがオレはツイてる!
「あ、でも魔法石は外に持って行っちゃダメなんだ。悪いことが起きるからね」
喜ぶオレの様子に釘をさすようにリクは言った。
「そうか。・・・大事な石だもんな」
「・・・・・・、でも、見せてもらうくらいなら、いいかもしれない」
子供が帰った後、早速偵察に出た。
村のような小さな国だった。遠くに王城だろう尖塔が見えた。小麦や畑が広がっていて合間を小川が流れている。のどかな風景だが農作業に励む村人の服装やその住居から贅沢な暮らしには見えなかった。
(ここが、楽園?魔法の国?)
ここまで来たからにはと、王城にも潜入してみたが、警備はびっくりするほど呆気なく、簡単に屋根裏に入り込めた。城といえど調度品は古く、外に持ち出して値が付くようには見えなかった。
リクの話によれば、前の王様から授かったというお守り石はいつも身に着けているわけではないらしい。どんな形なのかもわからない。聞いていた王という人物の外見を確認し、一晩張り込んで隠し場所を突き止めた。首尾よく盗み出せたのだから上々だろう。他に目ぼしい宝飾品がなかったのは残念ではあるが。
森に戻ってみれば、慌てた様子でリクが出迎えに走って来た。
「もういなくなっちゃったのかと思った!」
二日ほど留守にしていたからな。パンを持って来てさぞ驚いたことだろう。
「わるいわるい。王様に会いに行ってたんだよ。幸運の石を見せてもらおうと思って」
ぽかぽかと拳で腰のあたりを叩いて来る。
「会えた?」
「いや、会えなかった。・・・忙しいんだって」
「そうだよ、・・・大人はいつも忙しいんだ」
その後、いつもの倒木に腰かけて自分たちの王様がいかに素晴らしいかということを喋りだした。オレは慰められてんのか?
もう日が沈むというのにリクはなかなか帰ろうとしなかった。
「ガミガミばばあにまたうるさく言われるぞ?」
「うん・・・」
「また明日な」
「うん、明日・・・またパン持ってくるよ」
「ああ、頼む」
目的は果たした。もうここに長居する用はない。
翌日、いつものように現れたリクはオレを見てはっと顔色を変えた。
「オレは行くよ。ありがとな、リク」
パンを渡そうとするその手を取って目を合わせた。
「お前も・・・一緒に行かないか?森を出るまではこのパンじゃあ腹減りまくりかもしれないけど」
「・・・っだ、だいじょうぶ!オレ歩くよ!歩くのは得意なんだ」
よし、じゃあ行こうと言うと頷いた。手を握って歩き出して、ああ、そうだと立ち止まった。
「王様には会えなかったけど、お守りをくれたんだ」
懐から例の石が付いたペンダントを取り出す。
「これは普通の石だけどせっかく来てくれたからって。オレよく失くすんだ。預かっててくれないか?」




