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新しい港

アナトリアから離れると、リナは自分の石を使って盗まれたお守り石の気配を探り始めた。

お守り石との距離が離れてしまうほど気配は微かになる。ずっと集中していなければならず、そう続けてできる作業ではない。

ミレイは食事後にリナが集中を始めると、静かにお茶の支度を始めた。時折声をかけて休憩を入れる。

リナは近場から徐々に探索範囲を広げて行っている様子だった。


見つかったという知らせが船長室に届いたのは数日後の夕食後のことだった。

リナが訪ねた時、調度よくガイもクロウも揃っていた。

「あったか」

顔を見るなりそう言って、レオは海図を広げていた机の前を開けた。リナは机の前まで来ると、海図を見渡しある地点を示した。

「ドーリア国の東・・・このあたりだ。」

クロウの目がすばしっこく動きリナの指が触れた周囲の地形をさっと読み取った。

「この辺り・・・にもいくつか港がある。もう少しわからない?」

「今は分からない。近づけば・・・もっとよく分かるようになる」

「となると、一番近いのはガレイアの港か。今の荷は明日、ルアンで売っちまいますか?」

クロウが目を向けた先で別の思考を巡らせていたらしいレオは一拍遅れた。

「・・・ああ、そうだな。ちぃいと値段が下がるが、旦那には市場が混んでたとでも言っておくか」

「と、なると面舵一杯だな。通り過ぎる前で良かったぜ。追い風になるから明日の朝には着く。頑張ったな、嬢ちゃん」

ガイは分厚い手でがしがしとリナの頭を撫でると、さっさと船長室を出て行った。舵当番に進路変更を伝えに行くのだろう。

「・・・お疲れさん。よく休め」

レオもリナを軽く労った。




ドーリア、この大陸でもっとも栄えている大国だ。街の大きさは入港前から一目瞭然だった。

入り江の端から遥か遠くの小高い丘まで、びっしりと立ち並ぶ赤い屋根がその大きさを物語っていた。

岸から何本も並んで突き出ている突堤の両側には、船の形、帆の形、大小さまざまな船が停泊していた。


下船してみれば街の賑わいはぶりは一層で、左右にひしめく露店の布屋根が通りに張り出されて隙間なく影を落としており、荷を積んだ馬車が何台も行き交い、馬やロバの背に大荷物を背負わせて行き交う人、露店から呼び込みをする人、買い物をする人々でごった返していた。

はぐれまいと道の端に寄りながら3人は進む。

「どだ?」

「あれ以降、動いていないみたいだ」

「呪いで死んだか」

縁起でもないことをあっさりと口にする。

「こっちだ」

リナに促されるままに付いて行くと、町の中心を外れ小高い丘に向かって登り始めた。途中から脇道に逸れどんどん人気のない方へ入って行く。

廃屋が立ち並び、今では人が住まなくなった区画らしい。

「この辺りだ」

リナが周囲を見渡して視線を止めたその先に、微かに人の生活している気配があった。


少し下ったところにあるその廃屋の軒下から、痩身の男が頭を出した。

「リクー、めしー」

どこかに向かって叫んでいたが、やがて男の子が駆け戻って来た。軒下に駆け込み何やら会話しているらしい子供の声が漏れてくる。


「あれ、か?」

「・・・たぶん」

男の子は元気そうだ。

いきなり訪れたところですんなり石を返してもらえるとは限らない。2,3日様子を見ることにした。


男の子は随分青年を慕っている様子だった。

日中はだいたい遊びに出ており、どこからか水を汲んで来るという手伝いをする程度らしい。

子供が遊びに出ている間、男は軒下の廃材に腰かけてぼうっと外を眺めているか、ナイフで何かを削っているかで、昼頃になると室内に戻って何やら調理を始める。腕はいいようで香ばしい匂いが漂ってくることもある。それから外に出て、そこらで遊んでいる子供を呼ぶ。食事後に子供はまた遊びに行ってしまい、男は何かをまた削るか、室内に入って昼寝をしている様子。たまに子供が帰ってきて昼寝を叩き起こされ、何やら相手をさせられていた。

つまり、何の変哲もない日常が繰り広げられていた。

男は痩せて貧相な身形とはいえ、呪いの影響を受けてどこか調子が悪そうといった様子も見られない。

神秘の石を盗み子供を浚った強盗誘拐犯にしては平穏すぎだ。

「変だな・・・」

特に凶悪犯という様子ではなさそうだが、一応大事を取って子供が遊びに出ている間に訪問することにした。


軒先へ入り込む短い小道の前に3人が姿を現したとき、男はリナを見てはっと表情を変えた。だが逃げ場はない。リナは堂々と歩みを進めた。

「邪魔をする」

「あ、はい・・・」

男は押されるように廃屋の中に姿を消し、訪問者を迎え入れた。室内には客人を迎える様な設えは何もなく、めいめいが良い場所を見つけて腰を落ち着け男の話を聞いた。


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