料理に欠かせないもの
火曜日の夕方、レティシアはシャロちゃんとのお泊り会に出かけてしまった。
迎えの馬車に乗ったレティシアを見送ってから手持ち無沙汰になった私は久しぶりにスイーツを作ってみようと厨房に立った。
「私はレティほどスイーツ作りは上手ではないのよね」
普段の料理は量りなどは使わずに直感で作っているからだろうか、細やかに計量をして作らないと失敗する確率があがるスイーツはほとんど作らない。
レティシアにはいつも目分量で作ってるのに毎回同じ味に作れるのは何故なんだって怪訝な顔をされるのよね。
「久しぶりにお酒でも飲もうかしら?それならソルトクッキーがあうわよね」
父と母から貰った料理のレシピ本を取り出してソルトクッキーのページを開く。
何回も読んでいるからだいぶ年季が入ってきたこのレシピ本は両親の手作りだ。
皆がそろって【まんぷく亭】の料理は今まで食べたことがない物が多いと絶賛しているが、この味は私の両親から受け継いだもの。
両親は自分たちの故郷の味だと言っていたけど、両親の故郷はガルシア王国がある東の大陸から遥か遠くにある島国だからもう行くことが出来ないんだって。
私が両親のレシピで料理を作れているのは両親の友人が作っている醤油や味醂やソース、味噌や米酒などの特殊な調味料を購入させてもらえているから。
だから、色んな人にレシピを教えてほしいと言われても調味料が手に入らない時点で作れないのよね。
いつか大量生産出来るようになったら調味料を売り出す予定だとあの人は言っていたから、そう遅くないうちに他の店でも食べられるようになると思うけど。
「あっ、大変だわ」
ソルトクッキーを作るためにインベントリーの中に入っている食材を確認していたら、醤油と米酒が底をつきそうになっていた。
この調味料がないと作れない料理が沢山あるのに。
早く注文しないといけないと焦っていると、来客をつげるチャイムの音が部屋に鳴り響いた。
「誰かしら?」
ドアについているスコープを覗くとローブを身にまとった怪しい人物が一人。
普通なら怪しさ満点でドアを開けるわけがないのだけど、その怪しい人物は今私が一番会いたい人だった。
「レナトさん!いらっしゃい」
「ソフィ、元気そうでなによりだ。そろそろ尽きるかと思って来たのだが」
「今、丁度連絡しようと思っていたんです」
「それはナイスタイミングだったな」
ローブを脱ぐと彼の美しい容姿があらわになる。
私と同い年のような見た目をしているが余裕で100歳を超える彼はエルフ族だ。
何故かは知らないが両親の故郷の味に共感したレナトさんが、エルフの得意魔法を駆使して調味料を作ってくれている。
「店が繁盛していると小耳に挟んだから、いつもより多めに持ってきたのだが」
「助かります!お代を準備しますね。あっ、あとレナトさんの好きなビーフシチューがあるんですけど召し上がりますか?」
「なに!?」
「ふふっ、今持ってくるので座って待っていて下さいね」
エルフでは菜食主義者な人達が多いと聞くけど、レナトさんは当てはまらずビーフシチューが大好物なのだ。
でも、ここ近年エルフの人達が肉を食べるようになってきたと聞いたけど、もしかしてレナトさんが原因だったりして。
「そうだ、今日は面白いものを持ってきたんだ!あれ?レティはいないのか?」
「レティはお友達のお家でお泊り会なのでいないです。それにしても面白いものですか?」
ビーフシチューを準備してレナトからの元へ向かうと彼はインベントリーの中から何かを取り出している最中だった。
「ふっふっふっ!これを作り上げるまで俺は何度も何度も改良を重ねてようやく完成した!こんにゃくだ!」
「こんにゃく?ですか」
まるで四角い石のような見た目のものは“こんにゃく”で細い紐状の物は“糸こんにゃく”と言う物らしい。これは食べ物なのだろうか?
「これはね、芋から出来ているんだ!とにかくヘルシーで腸の掃除をしてくれて身体にいいんだよ。
僕のオススメの食べ方なんだけど、四角いこんにゃくは味噌味で煮たり焼いたりすると美味い。そして糸こんにゃくはすき焼きによくあうんだ」
「えっ、すき焼きですか?ちょうど昨日レティシアが美味しいお肉を狩ってきてくれたんです。レナトさん、夕飯をそのこんにゃくですき焼きを食べませんか?」
「ソフィが作ってくれる物ならなんで嬉しいよ。楽しみだ、僕の作ったこんにゃくの入ったすき焼き、絶対に美味しいだろうなぁ」
「私も楽しみです」
2日連続ですき焼きを作ることになるけど、レナトさんがすき焼きと糸こんにゃくが合うと言ったのだ、試さないわけにはいかないわ!
想像のつかない味にドキドキしながらレナトさんに言われた通りにすき焼きに糸こんにゃくを入れて調理する。
後は豚汁にこんにゃくを入れたら最高に美味しいと言われたから今度試してみましょう。
あっという間に完成したすき焼きを鍋ごとレナトさんの前に出す。
生で食べられるようにキュアの魔法をかけた卵を用意して器に割り入れる。
そしてすき焼きといえば米酒が合いそうと思い徳利とお猪口も用意して、準備完了だわ。
「わぁ!最高だよソフィ」
「ふふっ、熱いうちにいただきましょう」
ビーフシチューとは合いそうにないが、レナトさんは気にした様子もなくどちらの料理も美味しそうに食べ始めた。
「ん〜!!なんて素晴らしい味なんだ」
「糸こんにゃく、とても面白い食感ですね!ツルツルとしていて噛むとコシがあって美味しいです。それによく噛むから満足感が上がりますね」
「その通り!流石はソフィだ、こんにゃくの素晴らしさをよく理解しているね」
レナトさんと私は初代国王が愛した箸を器用に使って、お肉と糸こんにゃくを溶いた生卵に絡めて味わう。
昨日も食べたけど、やっぱりキングカウのお肉の旨みが生卵とよく合っていて美味しいわ。
レナトさんの糸こんにゃくのおかげで新たな食感が加わってより一層すき焼きが好きになってしまったわ。
「あいかわらずソフィは美味しそうにお酒を飲むね」
「だって本当に美味しいんですもの」
「なら、ソフィにはこれを挑戦して貰おうかな」
「なんですか?これは」
机の上にドンッと置かれた酒瓶にとても良い予感がした。
レナトさんが出してくれるお酒で美味しくないものと出会った事がないからだ。
「熟成に25年かけたブランデーさ!本当はあいつらに自慢してやろうかと思っていたがどこにいるから分からないからなぁ」
「25年ですか!?」
ブランデーの作り方は前に聞いたことがあるけど25年って私が産まれる前から樽に漬けられているって事よね。
「大量に作ったからソフィにも分けてあげるよ」
「わぁ!ありがとうございます」
目の前に置かれた瓶の他に5本貰い、大事に飲むと心に決めてインベントリーの中にしまった。
「さぁ、今日は沢山呑み明かそう」
「はい!」




