ギルドマスターのお願い
レティシア目線
「ふぁ〜、よく寝たぁ」
月曜日の朝は土日に比べて少し遅い。
私の周りで寝ているルビー達を踏みつけないように気をつけてベットから下りる。
寝るのが大好きだからベットの大きさはセミダブルにしたのだけど、ルビー達も一緒に寝るから少し狭く感じるためダブルベットに買い直そうか考え中だ。
支度を整えて1階に降りるとお姉ちゃんが朝食を作っているのか、いい匂いがする。
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう、レティ」
昨日も沢山の料理を作って疲れているだろうに、いつも通りの時間に起きて朝ごはんを作ってくれるお姉ちゃんに感謝だな。
「今日の朝ごはんはフレンチトーストよ」
「わーい!ありがとう。お皿準備するね」
お姉ちゃんがお父さんから教わったフレンチトーストはハードパンだけど私は柔らかいパンが好きだから厚めに切った白パンで焼いてくれる。
ハードパンなら一晩浸すけど白パンなら数分浸すだけで大丈夫だから直ぐに出来るんだって。
お父さんは卵の液に砂糖を入れるけど、私は入れないで焼いてからたっぷりのシロップとホイップバターを乗せて食べる方が好き。
お姉ちゃんはホイップクリームに苺などのフルーツと一緒に食べるのが好きだからお姉ちゃんが焼いてくれている間にホイップクリーム作っておかなくちゃ。
テーブルにランチョンマットをひいて、サラダとヨーグルトと飲み物を出しておく。
しばらくしてお姉ちゃんがキッチンから戻ってきた。
「レティ、お待たせ」
「わーい」
渡されたお皿には綺麗な焼き目の付いたフレンチトーストが2個乗っている。
「うーんいい匂い、美味しそう」
「じゃあ食べましょう」
「「いただきます」」
フレンチトーストにホイップバターをつけシロップをかけて口いっぱいにほおばった。
「やっぱりお姉ちゃんのフレンチトーストは美味しいね」
「ありがとう。そういえばレティは今日の予定決まっているの?」
「ギルドマスターが私にお願いしたい依頼があるから来てほしいって言われたからギルドに顔を出す予定だよ。
後はルビー達を遊ばせるために森に行こうと思ってる」
「そっかぁ。できたら森でキングカウを狩ってきて欲しいのだけど」
「あー……なるほど」
キングカウは結構森の深くまで潜らないといないから、気軽に狩れる魔物じゃないんだけど。
「あの柔らかくて甘みと旨みが強いお肉ですき焼きが食べたくて」
お姉ちゃんのキラキラしている目を見ると嫌なんて言えないよね。
「分かった、探して見るね」
髪をポニーテールに結び、マジックバッグと双剣を腰に掛ける。
いつも狩りに行く時は髪をハーフアップにするのだけど、キングカウは雄のキングブルより一回り大きいのにすばしっこく気が荒いし強いから気合を入れるためのポニーテールだ。
さてお姉ちゃんが作ってくれたお昼ご飯も忘れずにしまったら出発だ。
「お姉ちゃん行ってきます」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「うん」
それにしても、依頼ってなんだろう?って考えてたらあっという間に冒険者ギルドに着いた。
「おはようございます、ギルドマスターに呼ばれて来ました」
「おはようレティシアちゃん、ギルドマスターから聞いてるわ。今、ギルドマスターは執務室いるから行ってくれるかしら」
「分かりました!ありがとうございます」
顔なじみの受付のお姉さんと挨拶を交わし、軽い足取りで執務室に向かった。
「ギルドマスターおはようございます。依頼ってなんですか?」
「おぉ!レティシアかよく来たな、まあ座れ。これなんだが、依頼と言うよりお願いだな」
あいかわらずギルドマスターは大きい、見上げると首が痛くなってくる。
ギルドマスターは第三騎士団の団長さんより一回り大きくて顔の左には額から頬にかけて傷のある顔をしていて、初めて会う人は腰を抜かすほど怖い顔で子供が見たら100%泣き出すような風貌なんだ。
話をしてしまえば優しいおじさんなんだけどね。
私は小さい頃からお父さんの友達に顔が怖い人が多かったから泣かなかったし飴をくれるから懐いたようだ。
そんなギルドマスターが私に1枚の依頼書を渡してきた。
「えっと、キングブルかキングカウの胴体の皮を1枚、傷無しが条件だから普段の5割増しで買い取る。って」
また、ずいぶんと無茶な依頼だな。
思っていた事が顔に出ていたのか、ギルドマスターはバツが悪そうに頭を掻いた。
「ふざけた依頼だろう?キングブルかキングカウの皮、それも無傷でだと。
どちらもBランクの魔物だっていうのによ。
Bランクの魔物を無傷で狩るのがどれだけ難しいか知らないアホな商人が、大貴族に頼まれたらしくてよ」
「あれまぁ……それはまた勉強不足だったねぇ」
Bランクの魔物を傷をつけずに狩る自体で難しいのは確かたけど、気性が荒くて暴れ回るような戦いをするキングカウは縄張り争いで身体に傷を負っている個体が多いため、元々無傷のキングカウを探すのから始めないといけない。
「期限が迫ってきて無理だって分かった商人が泣きついてきた依頼だってわけだ。腹が立ったから3割増しだってほざいていたのを5割増しにしといた。頼めるか?」
「いーよ。丁度お姉ちゃんにキングカウのお肉が食べたいから狩ってきて欲しいってお願いされてたから」
傷がない個体って事は年若いキングカウだろうから、肉もそのぶん柔らかくて美味しいだろうし、お姉ちゃんも喜ぶだろうな。
「ありがてぇ!森で見つからない可能性を考えて3日探していなかったら諦めていいぞ、元々ふざけた受注期限の依頼なんだからな」
「分かった!受注期限何日だったの?」
「……1週間だ」
「え!1週間!?」
「だから、ふざけた依頼だって言っただろ?」
普通、欲しい魔物の素材があって依頼を出した場合の依頼受注期限は半年から1年だと言われる。
それなのに今回の依頼はまさかの1週間。
1週間だと周辺の森にいなかったら他の地域に探しに行く暇もなく依頼失敗になってしまう。
依頼失敗になると違約金かペナルティが発生してしまうから、冒険者は基本受注期限が1ヶ月を切っている依頼には目もくれない。
今回、見つからなかったら諦めていいと言う事は、正式に依頼を受けずに森に入るついでに探しといてくらいのノリだということみたい。
手に入らなかったら商人には誰も依頼を受けなかったとギルドマスターは言うつもりなのだろう。
普通に考えて1週間なんて期限の依頼を受ける冒険者なんているわけないんだから。
「とりあえず、魔の森手前まで探してみるね」
「無理せず、気をつけて行けよ」
魔の森とは、王都周辺の森の更に奥にある危険な魔物がうじゃうじゃ生息している森のことだ。
Aランク以上の魔物が王都周辺の森に入ってこないように結界が張られていて、Bランク以上の冒険者しか入ることが出来ないようにギルドと国が管理している。
「キングカウいるといいな、すき焼き楽しみだなぁ。
あ!ギルドマスター、今回はお肉は卸さないからね」
「分かったよ。
でもキングカウなんて現役だった頃以降は食えてないんだよなぁ、俺も食いたいなぁ」
「気が向いたら分けてあげなくもない」
「どっちだよ!」
「あははっ、じゃあこれから直ぐに行ってくるねー」
ギルドマスターに大きく手を降ってギルドを飛び出した。
お肉楽しみだなぁって軽い足取りで森へと走る。
「そうだ、残ったお肉でビーフカツを作ってもらおう」
途中で美味しい魔物に会ったらさくっと狩ってインベントリーにぽいっと入れる。
風魔法のジェットスキップという移動魔法で森を駆け抜けていくと、あっという間にキングカウとキングブルが好みそうな平坦な土地がある場所にたどり着いた。
「さてと、どこにいるかなー?」
サーチ魔法をかけて辺り一体を探すと300m先に大きな魔物が1体いるのが分かった。
「動き的にキングカウっぽい?いや、キングブルの可能性もあるかな」
とりあえず、無傷で倒すには私の力だけでは大変なので、4体の従魔のうちの1体を呼び出す。
「リン、出ておいで」
「キュ?」
今日は自分だけ呼ばれたのが不思議だったのだろう、地の妖精リンがキョトンとした顔をしている。
ルビー達を全員呼んだら簡単に倒せるだろうけど、傷がどうしてもついてしまう。
特に火の妖精のルビーは獲物を見つけたら手加減無しに倒しにいこうとするから。
「今日はリンにいっぱい手伝って貰いたいんだ」
「キュー!」
任せろと胸を張るリンの頭を撫でた。
リンを連れて早速サーチに引っかかった場所へ向かい、少し離れた所から様子を伺う。
「よし!幸先いいな、1発目からお目当てのキングカウに出会えるなんて運がいい」
木の上からキングカウを確認する限りまだ若い個体のようだ。
そのため少し小柄ではあるが、上から見る分には傷がない。
「とりあえず狩ってみようかな」
傷があったとしてもお姉ちゃんへ渡すお肉は確保できるわけだし。
双剣を持ってキングカウへ向かうと、あっちも私に気がついたのか臨戦態勢に入った。
「ブモォ!!」
キングカウが猛進して体当たりしようとしてくるが軽く避ける。
「リン!ダートバインドでキングカウの足を止めて」
「キュー!!」
私は地の妖精のリンに協力してもらい、土魔法のダートバインドで足を固めて動きを封じると両手に持った剣と魔法で首のあたりを攻撃した。
「んー……相変わらず固い皮膚だなぁ」
傷はついたけど、致命傷にはいたらない程度のダメージってところみたい。
分厚い皮を剣で切り落とすのは骨が折れる前に剣が折れそうだ。
いつもは皮が柔らかい脇腹の辺りを攻撃して倒すから、首だけを狙わなきゃいけない縛りありの戦闘は時間がかかりそう。
「いっそのこと、首じゃなくて」
生き物の共通の急所である“目”を狙ってみようかな。
目への攻撃は魔物の顔に真正面から挑む必要があるためリスクが高いし、大概の魔物は人間より大きいから攻撃が届きにくい場所だけど、今はリンに足止めされているからジャンプすれば余裕で届く。
私の持っている両手剣の長さでは目に突き刺したとしても一発で仕留められるか分からないから、魔法も同時に使おう。
「エレクトロキュート」
雷魔法を纏わせた剣がバチバチと音を弾かせる。
いななきを上げ、身体をバタつかせて足の拘束から逃れようとするキングカウの目に向かって狙いを定めて剣を突き刺す。
「ブッ…モッ……」
雷魔法で脳が焼き切られたキングカウは一瞬で事切れ、大きな音を立ててその場に倒れた。
「よし、一体目の傷のようすはいかがですかね」
身体強化魔法を使ってキングカウを転がして身体に傷がないか確認すると、脇腹の所に切り傷が何ヶ所かあった。
傷的に人間と闘った後のように見える。
「あちゃ……2体目探しに行きますか」
お姉ちゃんのためのお肉はこれで十分だけど、ギルドマスターのお願いはこのキングカウでは達成できない。
「気を取り直して2体目探しに行きますか」
キングカウをインベントリーの中に押し込んだ私は次の獲物を探しに足を進めた。
陽の光が真上から照らされる時間。
「はぁ……10体目」
いや、キングブルを数に入れたら15 体だ。
それだけ倒しても全て元から傷を負っていた個体だらけ。
「今度こそお願いします!無傷であって」
最早神頼みに近い気持ちでキングカウの身体を転がして傷がないか確認する。
「背中なし!脇腹なし!お腹は……なし!ヤッター!!ようやく無傷のキングカウをゲットだー」
長かった。途中で飽きてきたリンをお菓子で機嫌をとりながら、ようやく手に入れた。
「リン!頑張ったねー。リンのおかげで傷つけずに倒すことができたよ」
「キュー」
抱きしめて撫で撫でしてあげると嬉しそうにしている。
「皆を呼んでご飯にしよっか。今日は皆にザッハトルテを作ったんだよ」
「キュー!」
ルビー達はチョコレートのお菓子が大の好物で、その中でもザッハトルテが一番好きなようだ。
嬉しさのあまり空中をクルクルと回って踊っている。
「「「キュッ」」」
呼び出した3体達はなんで自分達は外に出してくれなかったのだと顔で訴えてきたが、ザッハトルテを目の前に出すと一瞬でコロリと忘れてケーキにかぶりつきだした。
「ゆっくり食べるんだよ。
私はお姉ちゃんが作ってくれたお弁当をいただきます」
蓋を開けると中には醤油味の焼きおにぎりと味噌に生姜と味醂を混ぜたものが塗ってある焼きおにぎり、私が一番好きなだし巻き卵と唐揚げ、後はきんぴらごぼうとほうれん草のバターソテーが入っていた。
「わぁ!私が好きな物ばかりだ!」
お姉ちゃんは狩りの時はテンションが上がるように私が好きな物ばかり入ったお弁当を持たせてくれる。
「美味しいー。疲れた精神に染み渡る」
傷をつけずにキングカウとキングブルを狩るのは2回目くらいでコツを掴めたから難しくはなかったんだけど、何度も続く傷がない個体なのかの確認が精神的に疲れた。
途中で投げ出してしまおうかと考えたけど、何故か負けた気がするから最後の方は意地だった。
「キングブルの皮は普段の買い取りだと金貨10枚だから、5割増しで金貨15枚か」
キングブルの皮は攻撃魔法を受け流す性質があるから高級防具に用いられる素材だ。
だから皮だけでも結構な金額で買い取って貰える。
「このお金でお姉ちゃんと新しい春服を買いに行こうかな」
新しい春のワンピースが欲しいって言ってたからプレゼントしようかな。
お姉ちゃんも魔法付与師のお仕事で結構な高給取りだから私が買わなくても自分で買えるだろうけど、プレゼントって気持ちだよね。
いつもお姉ちゃんは私の為に美味しくて身体にいい料理を作ってくれるからお礼したい。
生野菜が好きじゃない私のために栄養を考えて野菜の沢山入ったスープとか、キノコの料理とか作ってくれるし。
頑張った日のご褒美には私の大好きなお肉の料理のリクエストを聞いてくれる。
「ごちそうさまでした!よし、帰ってギルドに行って早く解体してもらおう」
思い立ったが吉日。
お姉ちゃんの予定を聞いて買い物をしに行こう。
帰るための準備をしようとすると、リンを除くルビー達がじっとりとした目で私を見てきた。
「「「キュキュッ」」」
あ、自分達は動き足りないって?
魔物を数匹狩るまで帰らないと駄々を捏ねるルビーとラズとエメに押し負けた私は2時間ほど彼女達の狩りに付き合うのだった。
これからは毎週土曜日の19時に投稿していこうと思ってるので是非読んでください!
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