ビッグドードー
ソフィア目線
沈み行く夕日に照らされ、空と雲が赤く染まる時刻。
「お姉ちゃん、ただいまーー!」
「おかえりなさい。お疲れ様レティ」
森に狩りへ出かけていたレティシアが帰宅した。
ニコニコ笑顔のレティシアの様子に今日の狩りは上手くいったようだと推測する。
「今日ね、森でロベルトさんに会ったんだよ」
洗面所で手を洗っているレティシアはふと思い出したかのように口に出した。
「あら、お仕事だったのかしらね」
第三騎士団は王都周辺の森の管理をしているから副団長であるロベルトさんに会ったとしてもおかしくないわ。
それにしても副団長さん呼びからロベルトさんに変わっているって事は仲良くなったみたいね。
夕食の支度をするためにキッチンに立っていると、レティシアがひょっこりと顔を出してきた。
「沢山動き回り過ぎてお腹空いちゃった。今日の夕飯なにかな?」
「今日はブラッディブルのビーフシチューよ」
「わーい!ビーフシチュー大好き」
抱きついて喜びを表現するレティシアの頭を撫でながら片手でオーブンの扉を開ける。
焼きたての白パンが目に入ったレティシアはキラキラした目で白パンにくぎ付けになっている。
「ふふ、レティの大好きなフワフワのパンも焼けてるわよ」
「ヤッター!!ビーフシチューを白パンと一緒に食べると美味しいんだよね」
花が咲いたような笑顔を浮かべる腹ぺこの妹のためにビーフシチューを温め始めた。
「さあ出来たわよ、レティいただきましょう」
「はーい」
椅子に座り、レティシアと一緒に「「いただきます」」と手を合わせる。
スプーンで一口ビーフシチューを食べ、白パンをちぎって口にする。
白パンも美味しく出来たわね、今日もふわふわに焼けて良かった。
「お肉がトロトロで美味しい!パンも凄く美味しい。
あ、そうだ。今日は沢山お肉獲れたんだよ」
「今日は何が獲れたの?」
「いろいろ獲れたんだけどね、ビッグドードーが珍しく10羽くらいの群れでいたの。だけど希少だから2羽だけ獲ってきた」
ビッグドードーとは飛べないし走るのも遅いし、穏やかな性質のため駆け出しの冒険者でも簡単に狩れる魔物だ。
そして何よりお肉がとても美味しいのだ。
そのため乱獲され過ぎて数が激減してしまったため滅多にお目にかかれない希少な存在になってしまった。
「まぁ嬉しいわ、ビッグドードー美味しいわよね。臭みは無いし、ジューシーだし、余すところなく使えるから料理するのが楽しみだわ。ありがとねレティ」
「お姉ちゃんが喜んでくれて良かった。私ビッグドードーの照り焼きバーガーが食べたいな」
「ならレティの明日のお昼ご飯は照り焼きバーガーね、お客さんにはシンプルに食材の良さが一番わかるステーキにしましょ」
「後で食べたくなった時の分を差し引いたら、昼と夜で限定20食づつかな?」
「そうね」
「あとは何作る?」
「今日卵をいっぱい買ってきたからコッコのオムレツにしようかしら。中にひき肉と玉ねぎを炒めた具材を入れたのが良いかな。
それとね、つい安くて小麦粉と砂糖とお米まで買っちゃったの」
「えっ、そんなに?」
私が今日買ってきた物を聞いてレティシアは驚いて目を丸くした。
「今日はそんなに買うつもりがなかったからマジックバッグを持っていかなくてね、でも街中でインベントリーに入れるわけいかないでょ、しかたなく両手に抱えて歩いてたら団長さんにばったり会ったの。
私を見かねた団長さん……ルイスさんは、どうみてもこれから出かけに行く途中だったのに、帰るとこだからって嘘までついて荷物を持って家まで運んでくれたのよ」
「相手に気を使わせないための正しい嘘の使い方だね、流石紳士」
「ふふっ、あの時のルイスさんの照れた顔が可愛いし、私が必死に持っていた重たい荷物も軽々持ってくれてとても格好良かったわ」
あの時の団長さんの顔を思い出して顔が綻んだ。
もっとお話したかったわ。
「……お姉ちゃんって」
「どうしたのレティ?」
私の顔をじっと見るレティシアに首を傾げた。
「ううん、なんでもなーい!」
「そう?あ、そうだったわ。レティにシャロちゃんから手紙が来てたわよ」
もはや親友を通り超して家族のように仲の良い子からの手紙にレティシアのテンションが高くなる。
「えーっと……火曜日、お茶とお泊り会しないかだって」
「予定がないなら行ってきたら?」
「うん!会いに行くために服を引っ張り出さないと。あとは、ケーキ焼いていこうかな」
「苺の季節だから、シャロちゃんの好きなタルトにしたら?」
あの子もレティシアの作るスイーツが大好きだから、持っていってあげたら喜ぶわ。
私もご相伴に預かりたいわね。
そんな事を思っていたら私の気持ちが分かったのかレティシアがニヤニヤ笑っている。
「お姉ちゃんも食べたいんでしょ」
「勿論よ、私にも頂戴ね」
「いいよー」
土曜日の夜
「お姉ちゃん。ビッグドードーのステーキ2つお願い」
「はーい!あと残り1だから注文気をつけてね」
「りょーかーい」
流石滅多に食べることができないビッグドードーだけあって飛ぶように注文が入ってくる。
昼間の営業ではものの1時間で完売してしまった。
「美味い!こんなに美味い肉食べたの初めてだ、ビッグドードーってこんなに美味いんだな」
「本当だな!だから乱獲されて今じゃなかなか獲れないらしいぞ。今日食べれた俺達は超ラッキーだ」
嬉しそうに食べるお客さんを見ていたら、もっと沢山のお客さんに喜んで貰いたくなってレティシアに相談した結果、自分たちで食べるように取っておくつもりだったストックを夜の営業にまわし、30食まで増やすことができた。
「はあ、今日はいつもに増して忙しいわ。ビッグドードーってこんなに人気なのね」
増やしたけれど、それでもギリギリみたいで残り1食になってしまった。
ラストオーダーまで30分だからギリギリ足りるかしら。
カランッカランッ…
扉が開く音が聞こえ、目を向けるとルイスさんが来店したのがわかった。
今日はいつもより遅い時間の来店ね。
レティシアはお客さんの会計をしていたので、出迎えるために駆け寄った。
「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」
「あぁ、今日はビッグドードーのステーキだったと団員達が騒いでいたから混んでいるかと思って少し来る時間を遅らせたのだが……ラストオーダー近くにすまない」
売り切れて自分が食べれないかもしれないのに、本当に優しい人ね。
「ふふっ、お気遣いありがとうございます。まだビッグドードーのステーキの注文受けれますけど、どうされますか?」
「そうだな…もう一つの料理は何だろうか?」
「コッコ卵の具だくさんオムレツです」
「では、両方頼む」
「えっ!食べきれますか?」
元々騎士達が足りる量で提供しているから他の店よりもボリュームがあるのだけど、もしかしてルイスさんには今まで足りていなかったのかしらと少し不安になる。
「今日は少し忙しくて昼食を取る時間がなくて、自分ですら驚くほどに腹が空いているんだ。
それに…好きなんだ、貴女が作ったオムレツが。」
照れくさそうに微笑んだルイスさんにちょっと胸がキュンとした。
「では、腕によりをかけて作らないとですね」
「ああ、楽しみしている」
「少々お待ちくださいね」
厨房に戻るとルイスさんに出すお水を準備しているレティシアが顔をじっと私の顔を見てくる。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん顔が赤いよ?」
レティシアの指摘にドキッとする。
「ちょ、ちょっと暑いからかしら」
決してルイスさんにまるで私の事が好きだと言われたようで、トキメいたのが原因じゃないから。
「ふーん」
アタフタしている私を見て目を細めて信じていない顔をしているレティシアに早くお水を出して来なさいと追い出し、熱くなった頬を両手で扇いだ。




