買いすぎ
ソフィア目線です
今日は平日で【まんぷく亭】はお休み。
私はもう一つの仕事にとりくんでいた。
私のもう一つの仕事は、アクセサリーへの魔法付与だ。
一般的に魔法付与師という職業になる。
「よし!解毒の効果も上手く付与できたわね」
手元にある小さな魔法石にされた付与魔法の出来に満足気に頷く。
今回の依頼は解毒と空間温度調節(簡単に言うと自分の周りだけの温度が一定になる)の付与を施した普段使いのネックレスだ。
契約しているジュエリー店から届けられたアクセサリーの魔法石に付与魔法を施すだけだったり、デザインから魔法石から全て自分で選んで1からアクセサリーを作ることもある。
今回は付与だけのお仕事。
【まんぷく亭】は土曜日と日曜日の週2日だけの営業、だからもっと営業日数を増やして欲しいとお客さんにお願いされることも多々あるけど、この魔法付与師の仕事も忙しいからこれ以上増やすのは難しいところね。
「ふぅ……肩が凝ったわ」
今週の依頼分が終わったから、新しいアクセサリーのデザインを考えようかしら。
でもそろそろ身体を動かさないと運動不足よね。
レティシアは森へ狩りに出かけてるし、買い出しにでも行こうかしら。
「今日の夕食何にしようかしら?」
冷蔵庫の中に入っているお肉はコカトリスとブラッディブルだったわよね。
唐揚げか……ビーフシチューか
昨日がロックバードのチキンステーキだったから、ビーフシチューにしましょう。
「それなら、人参、じゃがいも、玉ねぎは沢山あるから。マッシュルームとブロッコリーを買ってきましょう」
後はレティシアが大好きなフワフワのパンを焼いてあげましょう、きっと喜ぶわ。
レティシアの笑顔を思い浮かべながら出かける準備をする。
今日は沢山買う予定がないからマジックバッグは必要ないわね、2階に取りに行くのも面倒だから普通のバッグを持っていきましょう。
空間収納魔法であるインベントリーを使える人は希少で街中で使っていると目立つから普段の買い物はマジックバッグ(いい値段はするが庶民でも手が出る値段)を使っている。
時間停止はないがバッグのサイズの5倍は入るので便利なのよね。
「鍵をかけて、行ってきます」
マルシェまで家から徒歩20分と少し距離があるけど、座り仕事で凝り固まった身体をほぐすのに丁度いい運動になる。
「良い天気ね」
買い物をし始めて小一時間後
「……こんなに買うはずではなかったのだけど」
何故私は両手に大量の荷物を持っているのかしら?
いえ、原因は分かっているのよ。
買うつもりのなかった小麦粉と砂糖とお米が通常価格から2割引きだったの!!
他にもあれも安いこれも安いって買っていったら気がついたらこの量になってしまったの。
買い物をしていた店の店主が心配になる程の大荷物を両手にさげている私は2つの事を考えていた。
このまま頑張って家まで歩くか、裏路地に入って荷物をインベントリーの中に入れるか。
でも、いくら治安の良い王都でも女性が一人で裏路地に入るのははばかられる。
「……はぁ。流石に駄目よね」
どこに目があるか分からないのだから、迂闊な行動は控えるべきよね。
僅差で理性が勝ったため、このまま亀の歩みで家に帰るとしましょう。
マジックバッグを2階へ取りに行くのを面倒くさがらなかったらよかったわ。
地味に家まで上り坂になっているのが辛いわと思っていると目の前から歩いてきた見知った人物と目があった。
「あら、団長さん。こんにちわ、お出かけですか?」
今日は平日だが休みなのか騎士の服ではなくて普段着を身にまとっていた。騎士の休みは交代制だと耳にしていたからおかしい事ではない。
シンプルなシャツとトラウザーズが団長さんの素晴らしい肉体美を引き立たせて、ついうっとりと彼の上腕二頭筋に魅入ってしまった。
「ソフィアではないか。凄い荷物だな」
「買い出しの帰りなんです」
団長さんは私の両手にある、あまりにも多すぎる荷物の量にギョッとした顔をした。
「いや、流石に女性が一人で持つには多すぎるだろう。レティシアは一緒ではないのか?」
「レティシアはお肉を狩ってきてもらっているんです」
「なるほど、肉の買い出しか。ならば俺が手伝おう」
「いえ!そんな、申し訳ないです」
「何を言っているんだ。腕が震えているだろう、俺ももう帰る途中だからそれのついでだ」
「えっ」
歩いてきた方向的に今から商店街の方へ向かうのかと思っていたけど、違うのかしら?
私から半ば強引に重たい荷物を全て持ってった団長さんの顔を見上げると耳が赤くなり、照れ隠しなのだろうか口がキュッと結ばれていた。
流石に“帰る途中のついで”なのは苦しい理由だって自分でも思っているみたい。
強面の屈強な騎士の照れた顔……可愛いわ。
私に気を使わせないために優しい嘘をついてくれたのね。
「他に寄る所はないか?」
「はい」
上ずった声がより可愛く聞こえてくる。
「ならば、行こうか」
「ありがとうございます。優しいですね」
「……騎士として当たり前のことをしたまでだ」
まるで物語に出てくる騎士様のような台詞を耳を赤らめながら言う団長さんに笑みが溢れた。
緩やかだけど長い坂を団長さんは私の歩幅に合わせながらゆっくり歩いてくれる。
「いつも一人こんな重たい物を持っているのか?」
「いえ、今回はマジックバッグを持ってこなかったせいで大荷物になってしまったのです。
お恥ずかしい話、こんなに買うつもりはなかったのですが、安かったものでつい沢山買い込んでしまって」
「そうだったのか、だがそのおかげで俺達はいつも美味しい料理を良心的な金額で味わえているんだ。
まんぷく亭が騎士団の近くに出来てくれてとても助かっている、今までは市場まで買いに行くのも食べに行くのも面倒で空腹で倒れている団員もいたくらいだ」
「ふふっ、皆さんの助けになれて良かったです」
団長さんとの会話が楽しくて、気がつけば店の前に着いていた。
「団長さん、今日はありがとうございました。とても助かりました」
「これからも困ったことがあったらいつ頼ってもらって構わない。それと良かったらこれからは団長ではなくルイスと呼んでくれたら嬉しい」
「はい、ルイスさん」
「では、また週末に」
「お待ちしてますね」




