鍛えられた身体は
ソフィア目線です
「今日はびっくりしたね」
「そうね、まさか騎士が沢山来店しているお店で暴行しようとするなんて」
即座に私と酔っ払いの間に入って助けてくれた団長さんの広い背中を思い出して胸がいっぱいになる。
「お酒って怖いね、判断力があんなになくなるなんて。
普通なら、団長さん達が制服を着てなくてもなんとなく騎士だって分かるよね」
休みの日だから騎士の制服を身にまとっていないが、あの人達から醸し出される雰囲気は一般人ではない。
「そうね、雰囲気で察せられるし、騎士団の建物の隣の店で犯罪を犯そうなんて普通の思考ではならないわね。
それに団長さんの素晴らしい体格を見て騎士だと分からないわけないわ」
「いや、冒険者にも団長さんみたいな体格な人はいると思うけどなぁ……」
レティシアは少し呆れたような顔をしているが、騎士と冒険者の人達はまた違った体付きなのに。
騎士は訓練によって全ての筋肉が均等に鍛えられるバランスが良い体格で、冒険者は実戦によって鍛えられる実用的な体格なのよね。
どちらも素晴らしくはあるのだが、私は第三騎士団長さんの体格がドストライクだわ。
「それしても魔法を使わず腕一本で酔っ払いを一瞬にして拘束した姿は本当に格好良かったわ、やっぱり鍛え上げた筋肉がある方って素敵よね」
「相変わらずお姉ちゃんって鍛え上げた体格の人好きだよね。この国では魔法を使う人が多いから団長さんほど筋力がある人って少ないもんね」
「だって格好良いじゃない、何があっても揺るぎない体格。
世間一般に女性に好かれている男性って蹴飛ばしたら飛んでいってしまいそうな儚さがあるでしょ」
そう、世間一般にモテる男性の要素は身体の線が細く柔らかい雰囲気を持った男性なのだ。
私の好みである筋肉がある体格の良い男性は、世の中の女性には余り好まれていないのだ。
「何があったら男の人を蹴飛ばす状況になるのか分からないけど、努力している人の身体は良いなとは思うよ。
因みにお姉ちゃんが言う儚さがある体型イコール魔力が高いから身体を鍛える必要がない優れている血筋ってイメージがあるからモテるんだってギルマスが言ってたよ」
ギルドマスターが言うことも理解できる。
魔力の量は後天的に増やす事は出来るが、死にものぐるいの努力が必要になってくる。
だから魔力の量は生まれながらだと言われており、魔力の量は高ければ高いほうが良いと思われている。
実際は魔力が高すぎると普通の魔法すら使うのに苦労するというのに。
「ギルマスは魔力が高いのに剣の腕も素晴らしいわよね」
「魔法では倒せない魔物もいるから物理攻撃要員が必要なんだよね。
それでもやっぱりギルドでモテるのは魔法師なんだって、ギルマスは現役の時に嘆いていたって愚痴ってた。
ギルマスになんで魔法師にならなかったのか聞いたら大剣もちの戦いが格好よかったんだって力説されたんだよね」
レティシアはソロで活動しているが普通の冒険者は大体チームで活動している。
剣士、魔法師、盾など、偏りが無いようにチームメンバーを選ぶのだが、やはり冒険者の中でもモテるのは魔法師のようだ。
「ギルマスも元はAランクの冒険者だものね、引退してギルドに務めるようになってからも素晴らしい体格を維持しているなんて素敵な人よね」
「お姉ちゃんギルマスに初めて会った時、見惚れていたもんね。10人中10人の子どもが泣き出すギルマスを見て」
「レティだって、泣かずにギルマスの腕に乗せてもらっていたわよ」
「お父さんの知り合いの冒険者にも似たタイプがいたから慣れてたのかな」
「そうね」
そういえばレティは小さい頃から人見知りしない子だったからいろんな人達に抱っこや肩車してもらってはしゃいでいたわ。
棚に閉まっていた去年から漬けていた果実酒を取り出し、グラスに氷を入れてお酒を注ぎひとくち口にふくむ。
トロッとした舌触りと鼻に抜ける香りがとても甘くて、今年も良く出来たとちょっと嬉しくなる。
グラスの氷をカラカラと回しながらふと思った。
「そういえば、レティは成人しても余りお酒を飲まないわね」
ガルシア王国では18歳でお酒もタバコも結婚も解禁されるが、レティシアは成人のお祝いに少しだけ飲んだきり。
「んー。頭がふわふわするし絡み酒だって言われたからあまり飲まないようにしてる」
「確かに親しい人達の前で少し嗜むくらいにしといたら良いわね」
成人のお祝いをしてくれた親しい人達に抱きついたり甘えたり大変だったのを思い出した。
まるで甘えん坊の子猫みたいで可愛かったのだけどね。
「お姉ちゃんは全然酔わないのに」
「ふふっ、お母さんに似たのかしらね」
羨ましそうに膨らませたレティシアの頬を突く。
「お母さんもザルを通り越してワクだもんね」
「レティはお父さんに似ているわね。酔っ払うと直ぐにお母さんに抱きついて」
レティシアの抱きつき癖は酔っ払ってなくてもあるけどね。
現在進行系で私のお腹に腕を回して抱きついているレティシアにくすっと笑いが溢れる。
「そうだ!お姉ちゃん明日のサイドメニューの予定だった角煮出したゃったから違うの考えないと」
「……今残ってるお肉って何があるかしら?」
とりあえず何かお礼をと思って出したから忘れていたが、今日来た人達は明日も来る可能性が高い。
その人達に同じ料理を出すわけに行かないわよね。
「黒豚さんがちょっとかな」
「あー……それは使えないわね」
隣国のフェニーチェ帝国から極僅かだけしか輸入されてこない、高級肉をサイドメニューには使えないし量も満足にないから却下ね。
「明日の早朝に狩ってこようか?」
「良いの?疲れてない?」
「大丈夫ー!」
「明日のメインの予定がエンペラートラウトのフライと、ムニエルだから」
「簡単なのが良いよね、狩ってきてから準備する時間少ないし」
「そうね……オークの梅肉あえとか?」
お母さんがくれた梅干しが大量にあったから消費したかったのよね。
梅干しが苦手な人は大根おろしとポン酢和えにしましょう。
「いいね!オークなら比較的遭遇しやすいから大丈夫だと思う!」
「じゃあお願いね。あと最近お客さんが多いからもっとお肉のストックしたいわね」
「そうだね!これからはギルドにお肉は卸さずにイベントリーに閉まっとく」
「取っておくのをちょっと増やすだけで大丈夫だからね。
ギルドがレティの狩ってきたお肉をあてにしてるから卸してあげないと困ってしまうわ。それに街のお肉屋さんも困るでしょう」
レティが狩ってきた魔物を全部取って置いたら逆に消費が追いつかないと思い慌てて言葉を継ぎ足した。
「それもそっか、卸さなかったらギルドマスターが泣いちゃうよね」
「そうよ、美味しい魔物肉をみんなが待ってるわ」
団長さん以上に体格がよく、顔に傷がある強面の男性が小柄なレティシアに縋りついて泣くシーンなんて見たくないわ。
「皆が食べれるように沢山狩ってくるね!」
「程々に、ね?」
いくら森に魔物が大量にいるといっても、レティシアと妖精達が本気で狩ってきたら供給過多のせいで市場の価格が暴落しそうで怖い。
私とレティシアの様に時間停止の空間収納魔法インベントリーを扱える人は滅多にいないのだから、ギルドでは足の早いお肉を取っておける方法が限られてしまう。
「はーい」
レティシアの妙に明るい返事が返ってきて一抹の不安にかられたが、肉好きなレティシアが明日暴走しないことを祈りながら眠りについた。




