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深いため息の理由

ルイス目線です



ガヤガヤと賑わう第三騎士団の食堂で一人深いため息をつきながら昼飯を食べているのはこの騎士団の団長である俺ルイス・グラシアである。


「はぁ……」


これが何度目のため息なのか分からない。

この深いため息の理由は手元にある叔父から来た手紙のせいだ。


「団長、一人で何辛気臭く食べているのですか?」


「ロベルトか」


ドサリと目の前の席に座り辛辣な言葉を吐いたのは自分の腹心である第三騎士団副団長のロベルト・ディアスだ。

自分とは真逆と言っていいほどの細く引き締まった筋肉を身に纏うスラリとした体型に、漆黒の艶のある髪は爽やかで、整った顔立ちを良く引き立たせる。

ロベルトの澄んだサファイア色の瞳と目が合うだけで堪らないと貴族令嬢達ははしゃいでいたな。

24歳という若さで副団長に登り詰めた力と頭脳を持ち、この王都で5本の指に入るであろう美貌を持っているロベルトにはきっとこれから話す内容には縁が無いだろう。


「また、縁談を断られただけだ」


「そうですか、そろそろこの国の貴族令嬢の全てに断られそうですね」


「うっ……傷を抉るな」


この国で好かれる容姿はロベルトのようなスラリとした爽やかな男だ。俺のように分厚い筋肉にデカイ身長だとほとんどの令嬢は怖くて目を合わせようとしてくれない。

全戦全敗の見合いの数に目から汗が流れそうな気がした。


「伯爵家当主で家は中々の財産を持ち、性格は荒くなく、女性遊びもギャンブルもしない。

そして第三騎士団の団長、仕事姿は真面目で部下にも好かれている……何が駄目なんでしょうね」


「そんなの見た目一択だろ」


同じような条件をもつ友人はとっくに結婚して子どもがいる。

俺と唯一違ったのは容姿だけだ。


「確かに夜の暗がりで不意打ちに見たら悲鳴を上げそうな程ではありますけど」


「おい」


190cmの身長に肩幅もロベルトより二周り大きい、そこら辺の騎士の平均より遥かに上回る体格のせいで、ロベルトの言い分も分からなくない。

178cmと、平均身長より少し高いロベルトですら俺の後ろに立つとすっぽり隠れてしまうほどの差があるからな。


ただでさえ既に致命傷を負ったあとの心だ、労ってくれ。


「貴族のご令嬢は心が蝶の羽の様に繊細ですからね。

騎士に憧れていると言いながら鍛えられ過ぎた身体は嫌だなんて……贅沢ですね」


「黒いオーラが滲み出ているぞ」


笑顔のようで目は笑っていないロベルトにツッコミをいれる。


「失礼しました。団長の体格はこの国を守るために鍛え上げた努力の結果だと言うのに、当たり前のように享受されている方達は」


「平和だという事だ」


ロベルトは言い寄って来る貴族令嬢の前では薄っすらと笑みを浮かべてほとんど話すことはなく、口を開いても丁寧で柔らかい物言いのため、物語に出てくる姫を守る騎士のようだと貴族令嬢から思われている。

だが実際にそんな人物がこの世にいるわけもなく。


「平和は当たり前に存在しているわけではないんですけどね」


ロベルトは貴族令嬢の理想とはかけ離れた性格をしていると思う。

懐にいれた者には優しく面倒みが良いが、それ以外の者への警戒心が強いしドライなところがある……猫か?


そんなロベルトは第三騎士団のメンバーに、頼りがいのある副団長と慕われている。

第三騎士団は貴族と平民の半々で構成されており、危険な森の管理を任されているため命の危険が多く、仲間意識が強いせいもあるのだろう、身分の差など全く気にしない奴らばかりで働きやすくて助かっている。




「俺はもう少し怖がらせないために対策するか」


今までも身長差で威圧感を出さないためになるべく座った状態で話をしたり、雰囲気を和らげるために柔らかい色合いの服を選んだりしたのだが、全く効果がなかった。


「私はもう少し筋肉がついて欲しいのですが、頑張ってこれなんですよね。戦う時は身体強化魔法で補助はしていますが、騎士としては団長が羨ましいです」


「最終自分の身を守るのは筋肉だからな、身体強化魔法は便利だが魔力切れが怖い」


「そうですね、もっと努力します」


俺のような体格になったら女性が離れていきそうだが、上司としては女性の好感度よりも、戦闘時の生存確率をあげる方が優先だ。


「それならお前はもっと食え、食が細すぎる」


「……余り食事は好きではないんですよね」


俺の食べている量の半分しか盛られていない皿にロベルトは苦笑いを浮かべた。





「団長は明日もまんぷく亭に行かれるのですか?」


「もちろんだ、明日は土曜日だからな」


明日はどんな料理が食べられるだろうか?

今から待ち遠しくてたまらない。


「あのお店が出来てからそろそろ一年が経ちますね、団長が開店当初から通い続けているのは料理が美味しいからですか?それともソフィアさん狙いですか?」


「……料理が美味しいからだ」


「そういえば、何人かの団員達がソフィアさんをデートに誘おうと計画を……」


「なんだと!?」


「やっぱり彼女が狙いじゃないですか」


どうやら嵌められたようだ、ロベルトの鋭い指摘に目を泳がせる。


「料理も間違いではない、土日はここの食堂がやっていないし、遠くに食べに行くのも面倒だ。そして何より他の店では味わえない程に上手い料理が出てくるじゃないか」


「確かに美味しいですね」


「それに俺が想いを彼女に寄せようが、こんな俺が彼女と釣り合うなど……」


白状すると確かに俺はソフィアに好意を抱いている。

だが、彼女のように美しい女性が俺のようなゴツい男を選ぶだろうか?

きっとソフィアもロベルトのような男の方が好みだろう。


「見た目ではなく中身を好いて貰えるようにソフィアさんにアタックしてみたらいかがですか?

先程から見えてしまっている団長の叔父様からの手紙にはもう身分は問わないから結婚相手を見つけてくれと懇願されていますよ」


「いや……だが」


叔父上が焦っている理由はよく分かる。

俺の両親は数年前に他界し、兄弟もいない。

そして現在領地管理の代行を任せている叔父夫婦の間にも子はおらず、俺の次の後継者がいないからだと。

俺としては自身の子どもでなくても養子を迎えて伯爵家を継いで貰えればそれで良いと思っているのだが。


「ソフィアさんは今までの女性達とは違い団長に笑顔で会話をしてくれる数少ない女性です、少しくらい勇気をもって話かけてみれば良いのでは?」


「……そうだな」


確かに、あの姉妹は俺を見て一度も怖がった素振りを見せたことがない。


「紳士に、さり気なく、少しづつですよ?一気に距離を縮めようとしてはいけませんからね」


「ど、努力する」


痛い男になり果てない様に注意をいれるロベルトに深く同意した。


「では、明日は一緒に行きますか」


「珍しいな」


「そんな事はないですよ、定期的に行ってます。美味しくていつもよりも多く食べれますから」


食にこだわりがないロベルトにこう言わせるとは流石だな。


「そうか、毎日でも食べれたら良いのにな」


「そうですね」


食事を終わらせて席を立とうとしたロベルトを引き止め、気になっていた事を質問する。


「ロベルトお前、子爵令嬢からしつこく言い寄られていると耳にしたが」


「そうですね。今までにもありましたが、今回は更に強引な方でして」


貴族出身の団員達が噂していたのはどうやら真実だったようだ。

大量に送られてくる恋文だけではなく、休みの日まで待ち伏せされた事があると聞いた時は背筋がゾッとした。


「一応聞くが……貴族の令嬢と結婚する気はないのだろ?」


「えぇ。私では貴族のご令嬢とは話も趣味もあいませんから。

しかし、今回の子爵家のご令嬢は子爵当主もとても乗り気で、是非にと執拗いんです。娘と結婚して子爵を継いでくれと」


心底迷惑そうな顔をしているロベルトを見れば子爵共がどれほど執念深いのかが分かる。

優秀な者と自分の娘と結婚させたいという気持ちも分からないでもないが、何度も断り続けているのに諦めないのはいただけない。


「余りにも度が過ぎるようなら俺が話をいれるぞ」


「その時はお願いします」


上司でもあり伯爵家からの注意なら聞き入れるだろう。

ロベルトを見ているとモテ過ぎるというのも考え物だな。


「一応聞いておくがお前の女性の好みは?」


「……笑顔が可愛くて元気な方ですかね、一緒に森でピクニックなどを楽しみたいです」


まるで何かを思い出したかのようにロベルトは懐かしむ表情を浮かべる。


笑顔が可愛くて元気なのは探せばいるだろうが、流石に森についてきてくれてピクニックを楽しんでくれる令嬢はなかなか見つからなさそうだ。


「きっと貴族令嬢“には"いないでしょうね」






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