王女宮にて
一方その頃、王女宮では。
「レティちゃん、いらっしゃいませ」
腰まである柔らかな金色の髪、長いまつ毛に綺麗な紫色の瞳。
物語に描かれるお姫様を具現化した見た目の彼女はこの国の第一王女であるシャルロット・ガルシアだ。
「先ほどぶりですわー!」
「わぁー!シャロちゃんお昼ぶりだね」
そんな彼女と私は産まれた時から12歳までお城で一緒に育ち、姉妹のように過ごしていた。
今日のお昼まで一緒にいたのにまた会えた嬉しさで抱き合ってしまう。
「シャロちゃんお話したいことがあるって聞いたけど、どうしたの?」
「そうなのです!レティちゃん聞いてくださいませ」
「う、うん」
気がついたらライ兄様はどこかに行っちゃったから私はシャロちゃんに促されるままソファーに腰掛けた。
「本日もリカルド様に私の思いを告げたんですの、はっきりと伝わりますように愛していると言いましたわ」
前はずっと一緒にいたいと伝えたら、この後は王の護衛だから他の者と代わらなくてはいけないからと謝られてしまったと言っていた。
勘違いされないように言い方を変えてみたんだね。
「返事はどうだったの?」
「どうしたもこうしたもありませんわ!リカルド様ったら自分も敬愛しておりますと返事いたしましたの」
物語の姫様ではしないであろう豪快な泣き方をするシャロちゃんの姿に苦笑いを浮かべる。
「なるほど、愛には沢山種類があるからね、リカ兄様もシャロちゃんからの愛は親愛だと思ったんだろうね」
「私はリカルド様に女性として愛していただきたいのですわ」
私はまだ誰かに恋をしたことがないからシャロちゃんにアドバイスをするのが難しい。
頭の中で何かいい方法がないかと考えて昔読んだ恋愛小説を思い出した。
「言葉で伝わらないならスキンシップを増やしてみたらどう?恋愛小説ではそれで接近した話があったと思う」
確か、さり気なく手に触れるみたいなことをして相手をドキッとさせていたはず。
「それも試したことがありますわ」
「……あったんだ、どうだったの?」
既に実行していた後だったとは。
恋する乙女の行動力は凄い。
「羞恥心をかなぐり捨てまして、リカルド様の胸の中に飛び込みました」
「おぉ、大胆だね」
想像以上にダイナミックなスキンシップに驚いた。
「リカルド様に相変わらず姫様は甘えん坊ですね、ですがもうすぐで成人されるのですから男性に抱きついてはいけませんよとたしなめられました」
「正論すぎてぐうの音も出ないね」
淑女マナーを教えてくれた先生に見られたら教科書の書き取りを永遠にさせられそうな行動だから、リカ兄様がたしなめるのも頷けた。
「うぅ……抱きつくなんてリカルド様にしかいたしませんのに!」
「リカ兄様って鈍感だねー」
出されたお茶を飲みながらそう言うとシャロちゃんは何故かジトーっとした目で何かを訴えてきた。
「どうかした?」
「なんでもありませんわ」
ツンっとそっぽ向いてしまったシャロちゃんの膨れた頬を突いて遊んでいると扉がノックされる音と共にライ兄様が大荷物を持って登場した。
「もう!乙女の部屋に入るならちゃんと返事を聞いてから開けてくださいませ」
ダイナミックお邪魔しますに怒るシャロちゃんへ軽く謝るライ兄様はバルコニーへ続く扉を開けて何か準備をし始めた。
「レティ、シャロ!肉を食べるぞ」
「「お肉?」」
ライ兄様がバーベキューコンロをバルコニーにセッティングし始める。
その姿をシャロちゃんと眺めていると侍女さん達がテーブルとイスまで用意してくれた。
「今日レティが帰ったあとに運動がてら魔の森に行ってきたんだ」
「レイナルドお兄様にお子が出来てからライムンドお兄様は自由ですわね、気軽に魔の森に行くなんて護衛泣かせですわ」
「スペアの役割がなくなったからな、それに俺の護衛は魔の森に行ってもケロッとしてる奴ばかりだ」
確かにライ兄様は、レイ兄様とセラ姉様の間に子どもが産まれてから、凄く生き生きしている。
「それで、ライお兄様は魔の森で何か狩れたの?」
「レティの為にエンペラーカウを狩ってきたんだ。次会った時までインベントリにしまっておこうと思っていたんだが、こんなに早く会えるなんて嬉しいよ」
「エンペラーカウ!凄い!凄い!キングカウより獰猛でほぼSランクの魔物、しかも凄く希少だから私は会ったこともないのに。流石はライお兄様」
「今から焼いて食べさせてあげるな」
「あっそうだ、お姉ちゃんは?」
話が終わったら迎えに来てくれるって言ってたから待っていた方が良いよね。
それに今食べたら晩御飯が入らなくなってしまう、食べたいけどどうしよう。
「ソフィ姉様は今頃兄上と義姉上に捕まって晩餐中だ。
今回呼んだ理由も兄上達がソフィ姉様に会って話したかっただけだからな」
「私がレティちゃんとお泊り会をしたとレイナルドお兄様自慢したのが原因かしら」
「そっか、誘拐未遂の件かと思ってたよ。今までより何か雑だったみたいだから」
「毎度毎度誘拐を企てては失敗しているんだ、きっとまともな実行役を雇えないぐらい資金難なんだろ」
「そろそろ懲りたら良いのにね」
「そうだな」
てっきりいつもとは違う所がお姉ちゃんを狙ったのかと思ったけど違うみたいで安心した。
「────ペテン師ですわ」
「シャロちゃん何か言った?」
シャロちゃんが何かを言ったようだったけどバーベキューコンロを準備する音に掻き消されて聞こえなかった。
「何でもありませんわ、それにしてもお腹が空きましたわね」
「そうだね!エンペラーカウのお肉楽しみ」
「レティが好きな部位を厳選して切り分けたから焼くぞ。シャロも同じ部位で良いよな?」
「えぇ、ありがとう」
「わーい!いっぱい脂がのっているね」
脂のさしが綺麗に入っているお肉をステーキサイズに切り分け、網の上に乗せる。
炭火でじっくりと焼かれているステーキは見るだけでお米が食べれそうな程に美味しそう。
「凄くいい匂いだね」
「本当ですわね。
それにしてもまさか王女宮の私の部屋のバルコニーでお肉を焼く日が来るとは思いませんでしたわ」
「初めは庭でやろうと思ったのだが誰かの目に入るかもしれないから許可が下りなかったんだ」
「だから部外者が入ってこれない私の部屋になったのですわね」
シャロちゃんは呆れ顔になり、侍女さん達と護衛さん達はライ兄様の自由すぎる姿に遠い目をしていた。
「さて、焼けたぞ」
「わぁ!美味しそうだね」
温められた皿の上に焼き野菜と網の焼き色がついた分厚いステーキが私の前に置かれた。
肉の焼けた香ばしい匂いで空腹だったお腹は限界だった。
「いただきます!!」
「いただきますわ」
「レティ、シャロ、まだまだあるからな」
「うん」
ナイフとフォークを持って早速肉を一口大に切って口に頬張る。
「なにこのお肉、凄いんだけど!お肉が柔らかいのはもちろんなんだけど脂と肉汁が口いっぱいに溢れてきて濃厚だけどしつこくないの。やっぱりエンペラーカウは噂通りの美味しさだね」
「そうか、レティまだ食べられるか?もっと焼くか?」
「うん!ライ兄様、今度は違う部位が食べてみたいな」
「わかった!!ちょっと待ってろ、直ぐに焼いてあげるからな」
他の魔物もそうだけど部位によって味が違うから不思議だよね。
二枚目のステーキはさっきよりも脂は少なめなんだけど肉汁がたっぷりで、あっさりしていていくらでも食べられそうなくらい美味しかった。
「ふー、お腹いっぱい、ごちそうさまでした。ライ兄様、お肉とっても美味しかった、ありがとう」
「レティが喜んでくれて狩ってきたかいがあった。まだまだ沢山あるからいつでも食べに来い」
「うん!」
よしよしと頭を撫でてくれるライ兄様は嬉しそうに笑っている。
ライ兄様は会う度に美味しい食べ物を食べさせてくれて、私達の食べている所を見ると嬉しそうに笑うんだよね。
「ライムンドお兄様ごちそうさまでした」
「シャロも満足したか?」
「えぇ、お腹いっぱいですわ」
私の半分ほどしか食べていないのにシャロちゃんはお腹いっぱいなようだ。
もしかして私は食べ過ぎ……いやいや、お腹は出ていないから大丈夫なはず。
これはきっと遊園地ではしゃぎ過ぎたからお腹が空いていたんだよ。
「レティ、どうかしたか?」
「ううん!なんでもない」
ライ兄様に体型を気にしてたなんて言えるわけない。
「なら良いが。レティ今日はもう遅いから城に泊まるようにと兄上から言われている。ソフィ姉様も泊まらせると聞いているから、レティはどうする?自分の部屋で寝るか?シャロと一緒に寝るか?」
「レティちゃん、一緒に今日も寝ましょう」
「うん、シャロちゃんの部屋で一緒に寝ようかな」
「それがいいですわ」
王城に小さいころから使ってた私の部屋もあるけどあまり好きじゃないんだよね、天井は凄く高いし部屋は広すぎるし一人ぼっちみたいで寂しくなるんだ。
「それじゃあ、レティおやすみ」
私の額におやすみのキスをしたライ兄様は自分の宮に帰っていった。
「それじゃあレティちゃん!今日も沢山お話しましょうね!まだまだお話したいこといっぱいありましたの」
「今日こそ寝落ちしないように気をつけるね」
そう宣言したが、シャロちゃんの永遠と続く話に気がついたら寝てしまっていたのであった。
来週は投稿お休みします




