団長と副団長
ソフィアの誘拐未遂事件後、俺とロベルトは執務室に戻った。
「まさか英雄様のご息女だったとは」
「私は団長が気がついていない事に驚いてますよ」
「いや、だってまさか英雄のご息女が街で飲食店を経営しているとは思わないだろう?」
しかしロベルトお前はソフィアが英雄の娘だと知っていて俺に進めていたのか……。
「確かに、普通に考えるならありえないですよね。この国の者にとって英雄様のご息女は王女様と同等の地位ですから」
「名の通り国の危機を救った英雄だからな。
国落としが出現した時、俺はまだ幼かったから覚えてはいないのだが、両親世代や祖父母世代から何度も何度も聞かされた。
この国にとって英雄様の影響力は計り知れない、それこそ王族を凌駕するほどに国民に人気があるからな」
多くの騎士、国民が亡くなった痛ましい出来事。
何人も犠牲になったのに倒せず、もう駄目だと諦めた瞬間に現れた英雄の話は物語にもなっており、今も語り継いでいる。
「私も英雄様がいなかったら産まれていないし、国自体が無くなっていたと周りに言われて育ちました。
そのため、あの方達が王族に近い立場の人だと理解はしています。
ですが、そういう態度で接されるのは英雄様もご息女達も好きではないようですね」
英雄様も公爵位のさらに上の地位を与えたいと国王に言われたのに突っぱねたのだから、ソフィア達も似た考えを持っているのだろう。
しかし我が王国は英雄が他国に行ってしまわないように、爵位は受け取って貰えなかったが公爵以上の地位に英雄様は位置していると全貴族に周知させた。
「楽しそうに市井で暮らしているんだ。何となく理由は分かる、英雄様も自由を愛している方だ」
王族も高位貴族も自由とはかけ離れた生き方をしている。
家のために生きて、国または領地を栄えさせる為に働くのが生まれながらの義務である。
「レティシアさんはソロのAランクの冒険者ですし、貴族らしく生きるより冒険者として動くのが好きなのはご両親と同じですね」
「!?Aランクの冒険者なのか!」
あどけない少女が一人で自分より何倍も大きな魔物を狩っている姿が全く想像できない。
「えぇ、定期的にゴブリンの集落を見つけては殲滅して下さっているので書類上では知っていたのですが、先日たまたま森で魔物を一人で倒している姿を実際に見て驚きました」
「ゴブリンの集落を殲滅してくれている珍しい冒険者がいるのは知っていたが、彼女だったのか。
凄いな、成人して間もない若さでAランクか……余程努力を重ねたのだな。
それにソフィアの魔力操作の能力も素晴らしかった。姉妹揃って努力家なんだな」
ソフィアの美しい魔法を思い出して関心しているとロベルトがポツリと言葉を溢した。
「─────私、団長のそういう所好きですよ」
「なんだ、急に」
急なデレに驚きを隠せないでいるとロベルトが咳払いをする。
「彼女達は優れている事があれば“流石は英雄の娘”だと言われる方が多いのではないかと」
「いや、いくら英雄様の娘だろうと努力せずにAランクに上り詰めれるわけ無いだろ。
Aランクになるには魔物の生態知識が必要だ。ただ強いだけの馬鹿ではなれないんだ。
確かに魔力の高さは血筋だと言われているが、魔力が高いとその分普通の魔法すら使うのに苦労する。
それにソフィアのあの繊細な魔力操作も簡単に身につくものではない、それこそ幼い頃からコツコツと積み重ね、身体に染み付かせる程の継続が必要なんだ。
それを努力と言わずに、ただ生まれが良かったと言うなど侮辱でしかないだろう」
至極当然だろうと思っている事を口にするとロベルトは少し目尻を下げて小さく何かを呟いた。
「────だから、ソフィアさんは嬉しかったのでしょうね」
ただ何を言ったのか聞こえず、もう一度聞き直したが教えてはくれなかった。
冷めてしまったお茶を一気に飲み、俺は深くため息を吐き、眉間に皺を寄せた。
「それにしてもロベルト、やばいんだ」
「なにがでしょう?」
「ソフィアの……彼女の魔法を放とうとした時の顔が頭の中に焼き付いて消えないんだ」
「あぁ、完璧に惚れ込んでしまったようですね」
真面目な話かと思っていたのが違ったからかロベルトに怪訝な顔をされてしまった。
「いや、だって普段柔らかな笑顔しか見たことがなかったのに、あの挑発的というか好戦的な笑みがまるで女神のようで美しいし、守りたい見た目をしているのに一瞬にして誘拐犯だけを凍らせた繊細な魔法をくりだす強かさ─────人を本気で好きになるとはこんな気持ちなのだな」
「彼女の強さに惹かれるとは団長らしいというか」
ソフィアのあの姿を見た瞬間、胸を鷲掴みされたかのような強い衝撃を受けた。
そして何をしてもソフィアの顔がチラついてしまう。
「だが……」
「どうかされましたか?」
「ソフィアが市井で暮らしたいのを望んでいると知ってもなお、俺がソフィアに恋心を向けるのは……」
市井で暮らしたい彼女に伯爵家当主の自分が想いを向ける時点で彼女の気持ちを無視していないだろうか。
自由に羽ばたいている鳥に籠の中に入って一生を過ごして欲しいと願って良いのだろうか。
「私の勝手な考えでの答えになってしまいますが」
「……それでも構わない、客観的意見が欲しいだけなんだ。俺の想いが迷惑じゃないかどうか」
「今まで接してきた感じですとソフィアさんは好きになる人の爵位や地位など気になさないのではないでしょうか。
ですので団長はソフィアさんに伯爵の妻になっても良いと思わせるほどに好きになっていただくように努力を続ければ良いかと。
もし無理ならきっぱり振ってくださいますよ」
「当たって砕けろ精神だろ、それ」
「恋などそんなものでしょう。
それに相手がこう思っているだろうと決めつけて行動するのはいらぬ失敗を招きますよ、せっかく話せる環境があるのですから行動あるのみかと」
確かに何もせずに自分には無理だと諦めるのは良くないな。
「そうだよな……ありがとう、彼女に振り向いて貰えるほどの男になれるよう努力をしよう」
「それでこそ団長です。
さて、仕事の続きをしますよ、夏の大討伐までに仕上げなければいけない書類が山ほどあるんですから」
ロベルトはトントンと書類を整えて必要な書類を俺に渡してきた。
「あぁ、そういえば花祭りの巡回はどうするんだ?警備隊から第三騎士団にも手伝ってほしいと今年も要請があっただろう?」
「独身団員はほぼ全員休み希望が入っているので、強制的に私と団長は巡回組に組み込まれてますよ」
「今年もか……」
別名告白祭りと言われているため恋人をゲットしたい独身の男性はお洒落して意味もなく街を練り歩くんだよな。
少しでも良いなと女性に思って貰えたら花を1輪渡されるからそれを祭りが終わるまで身につけていなくてはいけないというルールまである。
なのでその日は第三騎士団で休み希望を出す者が多いのだ。
騎士になってからこの日を俺は休んだことがない。
「私も皆勤賞とれますよ」
休んだことがない奴が目の前にもいたな。
「お前は休まなくても良かったのか?」
「仕事だと言わないと共に祭りを周ってほしいという女性のお誘いを断れないので構いません」
それも理由だろうが実際は他の団員が一人でも多く休みをとれるように休み希望を入れない事を俺は知っている。
「相変わらず苦労しているな、毎年仕事中でも胸元の花がどんどん増えていくからな」
祭りの終盤だと花だらけになって仕事がやりにくそうだったな。
「見た目だけでしょうに、私なんかの何がいいのでしょうね」
話しながらも仕事の手を止めない容量の良さとか、懐に入れた者にはとことん面倒みが良いとか、目的のために努力を怠らないなど、ロベルトには見た目だけではなく中身も良い男だというのに本人は自分は見ただけだと思っているようで少し寂しくなる。
「お前は中身も良い男だぞ」
「そんな事言うのは団長くらいですよ」
ロベルトが騎士になった理由を知ればコイツが誰よりも優しい男だと皆分かるのにな。
さて今年はどうなるやら…。




