王城にて
御者の方を困らせるわけいかないから、あきらめて迎えに来た馬車に乗りこみ王城へと向かう。
「呼び出すなら明日にしてほしかったなぁ……」
夕飯にお肉を食べられなかったレティシアは未だにしょんぼりしてるわ。
遊びすぎてよっぽどお腹が空いているのかしら?ガルガルしている子猫になってしまっている。
お城に着いたらレイ兄様に何か出して貰えるようにお願いしましょう。
「早めに知らせた方がいい事があるのでしょうね」
「あー……誘拐犯が以外とヤバイ奴だったとかかな?」
「可能性はあるでしょうけど」
あの素人同然の盗賊崩れ誘拐犯を雇った主犯が今までよりもヤバイ所とは考えられないわよね。
しばらく馬車に揺られ、王城の中へと入り王太子宮の入り口に着き馬車の扉が開いた。
「なんでライ君が王太子宮にいるの?」
降りるため御者の手を借りようとしたら目の前にいたのは第二王子のライムンドであった。
ここは王太子と王太子妃、そしてその子どもたちが暮らす場所だから第二王子のライムンドが立ち入ることはほとんど無い。
「レティを迎えに来たんです、ソフィ姉様。
今回の誘拐未遂、レティの耳には少し入れたくない情報があるので王女宮にレティを連れていきます」
後ろで降りるのを待っているレティシアに聞こえないように小声で伝えてくる。
「そうなのね、分かりました。レティをお願いね」
「勿論です」
話をしながら手を借りて馬車から降りた。
次にレティシアが馬車から降りようとするがライムンドを目にして動きが止まった。
「あれ?ライ兄様、なんでいるの?」
私と同じように疑問に思ったレティシアが首を傾げる。
「レティ、シャルロッテが会いたがっているから行くぞ」
「昼間に別れたばかりなのに?」
「話足りなかったらしい、俺も王女宮に用事があるからついでに迎えに来た」
「そうなんだ」
「シャルロッテが待っているから行こうか」
「うん、わかった。お姉ちゃん、シャロちゃんのとこへいってくるね」
「えぇ、話が終わったら迎えに行くわ」
ライムンドと共にレティシアが王女宮に行くのを見送ってから私は案内してくれる侍女に着いていく。
応接間の扉が開くと、レイナルドとセラフィナが待ち構えていた。
「ソフィ、よく来てくれたね」
「いらっしゃい、ソフィ」
「レイ兄様、セラ姉様、お久しぶりです」
レイナルドとセラフィナの座る向かいのソファに腰掛けた。
人払いをして室内は三人だけになる。
「すまないね、急に呼び出してしまって。レティと遊んでいたのだろう?」
「レティが満足出来るまで遊べた後でしたので問題ないです、それに元は私のせいですし」
「そんな事はないわ、ソフィを誘拐しようとした者が悪いのであって貴女は少しも悪くないわ。貴女が今回も無事で良かったわ」
毎回手間をかけてしまっているのに不満どころか私の心配までしてくれる二人には頭が上がらないわね。
「それで、今回、ソフィを誘拐しようとした人物はどうやら君を盲愛しているようでな」
「へ?」
盲愛って確か、周りのことが分からなくなり、善悪がつかなくなる程に愛するって意味よね。
「彼の中でソフィは働きたくもないのに健気に頑張り、普段周りに向けている笑顔は愛想笑いだが、自分にだけには本当の笑顔を向けているのだそうだ。
だからその場から救い出してあげる為に今回の犯行に及んだらしい。
犯人はソフィが普段小麦粉などを買いに行く店の息子だ。
すでに捕まえて牢屋に入れて尋問しているのだが、まるでソフィの恋人であるかのような妄言ばかりでな」
「え、あの店って息子さんいたかしら?年配の男性だけしか会ったことがないのだけど」
「本人は店で運命的な出会いをしたと言っていたが……身に覚えは無さそうだな」
人相書きを渡されたけど、全くと言っていいほど思い出せないわ。
「それにしても怖いのですね、全く面識がない方に歪んだ愛を向けられるのって」
今までの誘拐未遂とは違う恐怖体験に背中がゾワッとした。
あぁ、だからライ君はレティに聞かせたくなかったのね。
確かにレティには刺激が強いかもしれないけど、相変わらずライ君はレティに過保護だわ。
「だから、その……女性二人での街暮らしは危ないだろう?
これを気に王城に戻って来たらどうだろうか」
過保護はここにもいたわ。
「ソフィに縁談が沢山きているんだ、オススメなのは俺の側近の者なんだが……」
ずらりと机に並べられる釣書を前にして目が死んでしまった。
もしかしてこれの為に急いで呼んだのかしら?
レティシアに心から申し訳なくなってきたわ。
「レイ、そこまでです。ソフィに嫌われますわよ。
それにソフィに縁談を勧めるにはその者では筋肉が一周りも二周りも足りませんわ」
扇子を閉じてピシャリと突きつけるセラフィナにレイナルドはタジタジとしている。
「そうだが、中身は良い男だぞ?」
「中身も外見もソフィ好みでなくては私が許しませんわ」
中身も外見も私好み……。
セラ姉様の言葉でふとルイスさんの事を思い出してしまい頬がぽっと赤くなってしまった。
「あら?ソフィったらどうしたの?」
「い、いえ。なんでもありません」
セラフィナの問いかけに頭を左右に勢い良く振る。
「好きな人でもできたかしら?」
「いません!もう、からかわないでください」
「うふふ、できたら教えてね」
「……」
セラ姉様がからかうから、頬だけじゃなくて顔一面が赤くなってしまって、レイ兄様が私に好きな人ができたと勘違いしたのか狼狽えている。
「す、好きな人ができたら私に言うんだよ、ソフィに相応しい男か見定めてあげるからね」
「ぜーったいに嫌です。そんなことしたらレイ兄様に会うのやめます」
過保護過ぎる言葉に赤くなった顔が一瞬で青くなってしまった。
怒ったふりをしてレイ兄様から顔をそむける。
「す、すまない。しない、しないから会わないなどと言わないでくれ」
「わかりました、約束しましたからね。セラ姉様、証人になってくださいますか?」
「ええ、もちろんよ」
青ざめた顔をしたレイナルドが話をそらす。
「そうだ、夕飯がまだだと聞いたんだ、準備しているから共に食べよう」
「あの、レティは?」
「レティはライムンドが張り切って料理を準備していたから大丈夫よ、エンペラーカウを狩ってきたから食べさせてあげるのですって。今頃ライムンド自身がお肉を焼いているのではないかしら」
「エンペラーカウですか、それはまた凄いのを狩って来ましたね」
確かエンペラーカウはキングカウの上位種で、とても希少な魔物だったわ。
ライ君は現在騎士団の統括だったわよね、幼い頃からレティと共に訓練していたから強いのは知っているけどここ最近より一層鍛えているみたいね。
「相変わらずあの子はレティの事が大好きね」
「あの二人は進展するだろうか?」
「どうでしょう?」
レイ兄様からしたらレティとライ君が結ばれてくれるのを望んでいるのだろうけど、あの子はライ君の事お兄ちゃんとしか見てないのよね。
「さて、そろそろ食事の時間だ。ライムンドに頼んでエンペラーカウの肉を少し譲って貰ったから楽しみにしていたんだ」
「よく分けてもらえましたね」
「レティが好きな肉の部位以外はすんなり貰えたよ」
「私エンペラーカウは初めてです、楽しみだわ」
晩餐が始まり、前菜、スープ、サラダ、さすが王城のコックが作った品はどれも美味しい。
目の前にメインディッシュのステーキが置かれた。
温められた皿には彩り良く置かれた温野菜とエンペラーカウのステーキ。
ナイフでお肉を切ろうとしたけど力を入れなくてもスッと切れてしまった。
「エンペラーカウって見た目は硬そうなに凄く柔らかいのね」
一口大に切ったステーキを口にすると、強く噛まなくとも口の中で蕩けていく。
「なんて、美味しいの。
赤身のお肉なのに柔らかくて口の中に肉の旨味が広がるわ。
エンペラーカウを食べたら他のステーキが物足りなくなりそうです」
今まで食べてきたどのお肉よりも好みだわ。
「これは凄いですわ、赤身の部位でこれほど柔らかいならレティ達が食べている方はどれほど柔らかいのでしょう」
「本当だな。今頃レティ達も食べている頃だろう、この旨さにレティが明日エンペラーカウを狩りに行くと言い出しそうだな」
「レティなら言いそうですね」
私もレイ兄様とセラ姉様と同じように想像してたわ。
晩餐を済ませ、応接間へと移動しゆっくりとお茶を飲みながら二人に今日行った南区の複合施設の話をした。
「大型複合施設は見たこともない魔導具が沢山あって驚きました。動く階段に、自動で開くドア、上の階に連れて行ってくれる箱などは全てフェニーチェ帝国の発明品なのですよね?」
「そうなんだ、今代の王が就任してからあの国はとても魔導具に力を注いでいるみたいなんだ。
友好国である我が国にも沢山の魔導具が輸入されていてな。
今代の王はとても頭が切れる方でな、平和を好むようなので心配は余りしてないが、つくづく友好国であって良かったと思っているよ」
「そうですわね、フェニーチェ帝国はこの国と同じく大国ですから、仲が良いに越したことはありませんわ」
「屋上にある遊園地にはいかなかったのかい?あそこもフェニーチェ帝国がオススメだと力説されたから取り入れてみたのだが」
「買い物の後に行きました。メリーゴーランドとバイキングと観覧車に乗ったんです。
お化け屋敷と言うものは恐怖を楽しむのがよく分からなかったので入らなかったのですが。
バイキングは怖すぎました。ぐるぐると回って逆さになるとは思いませんでした、あれこそ恐怖を楽しむ物なのではないでしょうか。何故かレティは気に入って何度も乗っていたのですが」
「あら、スリルがあって良いわね。
私も乗ってみたいわ、レイナルドは乗ったの?」
「ああ……プレオープンに招待された時に全部乗ったよ」
「良いわね、貴方だけ楽しんだのね」
「愛しいセラフィナ、そんな顔をしないで。今度、建国祭が終わったらゆっくり時間がとれると思うから二人でお忍びで行こう」
じとっとした目で恨めしそうに見つめてくるセラフィナの腰をレイナルドは抱き寄せコツンっと額を合わせる。
「絶対よ、約束ね」
小指を絡めあって約束を交わす二人のせいで部屋の中の空気が一気に甘くなる。
普段、凛とした姿のセラ姉様もレイ兄様の前では可愛らしい部分を見せるのだが、二人とも私の事を忘れていないだろうか?
そのまま二人の世界に入っていってしまいそうなのを軽く咳払いをして二人を現実に引き戻す。
「良かったですねセラ姉様、もしレイ兄様が連れて行ってくれなかったらレティと三人だけで行きましょうね」
「あら、それも良いわね。楽しそうだわ」
「えー」
セラフィナの切り替えにレイナルドは寂しそうだった。
お茶を飲み終え、そろそろお開きにしようと立ち上がる。
「ソフィ、今日はもう帰るには遅いから泊まっていきなさい、レティはシャルロッテの部屋に泊まらせるとライムンドから聞いている」
「はい、そうさせてもらいます」
「そうだ、子供達がソフィとレティに会いたがっているから明日帰る前に良かったら会っていってくれ」
「まぁお二人が?私もお会いしたかったから嬉しいです」
「昼餐を皆でとれるように手配しておく」
「楽しみにしてます」
「今日は疲れただろうからゆっくりおやすみ」
「レイ兄様、セラ姉様おやすみなさい」
セラ姉様におやすみなさいとチークキスをして王城内にある小さい頃から過ごした部屋へと向かった。




