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連続猟奇自死事件に関わる記憶の補完  作者: 嫗 熊猫


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⑸ 訪問先の患者家族 ~残された母の憤懣録~

※この作品には残虐性や出血を想起する表現が含まれます。

苦手な方や15歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

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 うちは長男、次男、長女の三人兄弟です。

長男と長女はすでに家庭をもって巣立っています。

次男は小学三年のころの引越しを機に不登校になって…部屋に引きこもって私たち家族と口も利かなくなってしまいました。

最低限の食事や排せつなどは自分でできますが、ほかは私が…あの子が寝ているすきに体をふいたり部屋の片づけをしたりしていました。


 主人とわたしはあの子のことでずっと意見がわかれていて…長男と長女が巣立ったのを機に離婚しました。


顔を伏せ居心地悪く腕をさすりながらも、一度口を開くと堰を切るように言葉が出てきた。


 長男とあの子は一つ違いの兄弟で、よくケンカもしていましたが、あの子の方が強くて長男の方が泣かされることが多かったです。

でも優しいところもあって、妹である長女が4つ違いで生まれてからはおむつを替えてくれたりしてよく面倒を見てくれていました。


 小学校に上がるとすぐ、遠くの地区にお友達ができて、その子たちに合わせて遊ぶ場所も遠くに行くようになってしまい、妹とは遊ばなくなりました。

私が何度言い聞かせてもその子たちと遊ぶのをやめてくれなくて。


………夫の転勤が決まった時にはあの子たちと引き離せると思って安堵しました。でも、あの子にすぐに伝えてしまうのはためらわれて…

引越しの日の一週間前まで子供達には伝えずにいました。


 引越しのことを伝えた時には長男と長女もそれなりに残念がってぐずりはしましたが、あの子は抵抗が激しくて。

伝えた翌日にお友達のところに相談に行ったみたいなんです。


 きっと家出を企んだんでしょう。

 その日、駅前の神社にまで足を延ばして、そこで行方不明になったことにしようとしていたみたいなんです。

結局怖くなったのか、隠れるのをあきらめたようで、警察官に連れられて帰ってきました。


 警察官の話では、一緒にいた女の子が泣きながら駅に駆け込んできて、神社の裏の洞窟に誰かに引っ張られて入ってしまったから助けてほしいと言ってきたらしくて、駅員さんが交番へ連絡してくださったそうなんです。


 交番から急いで駆けつけて、その女の子と一緒に神社に行ってみたらあの子は境内でぼんやりと立っていて、洞窟は見当たらなかったらしくて…。

まだ小学校の低学年の子たちが考えることですから色々矛盾していても本人たちの中では問題なかったのでしょう。


 連れられて帰ってきたあの子は不貞腐れている感じで私たち家族とは全く話をしませんでした。

……その時はただすねているだけだと思っていたんです。

でも、その後何日たっても口をきかなくて、ほかの二人もまだ幼かったですし、引越しの作業もあったので…叱りはしたもののしばらくは放置していました。


 でも、転校先の学校に連れて行っても返事すらしなくて、抱きかかえて学校へ送迎していましたが、クラスの子にさえ反応しないあの子の様子に先生からは支援学級へ移るよう言われる始末で。

あの頃はまだうちの子はすねているだけだと思っていて、障害があるわけではないからと断っていたんです。


 そんな状態が二ヶ月もつづくと、さすがに心配になってきて…あの子が口を利かなくなったのはあの日に神社で何かあって、頭を打ったりしていたんじゃないかと考えました。

それからはいくつも病院を渡り歩いて検査をしてもらいました。

でも、どの病院でも脳にも体にも特に異常は見つからなかったんです。

精神科への受診を勧められたこともありましたが、その時はあの子が精神を病んでいるなんて受け入れられなくて拒否しました。


 そうこうしているうちに体が大きくなってしまって、病院や学校へ連れていくこともできなくなって…主人があの子を部屋から引きずり出したりして滾々と言い聞かせたこともありましたが、状況は何も変わらなくて、結局部屋に閉じこもったあの子の世話をしていました。


 そんな状態だったので、長男と長女はほとんどあの子と関わらずに育ってしまって、兄弟の絆も希薄なんだと思います。


 主人と別れて、私に何かあった時には親類を頼ることができるように実家に近かったこの町に戻ってきました。


 離れていた間に駅前の再開発があったらしくて帰ってきたときにはすっかり景色が変わっていました。あの子が行っていた神社も移設されたらしくて以前の場所にはありませんでした。

 環境が変わったことであの子に変化がありました。以前は夜にトイレに出てくる以外ずっと部屋にこもっていたのに、引っ越してからは日暮れから2時間くらい外出するようになりました。

後をついて行ってみると駅前の神社の跡地に行ってみたり、その周辺を廻ってみたりしていました。

何のために行っていたのかはわかりませんでしたが、あの子が外に出てきたことがとにかくうれしかったんです。


 だけど、あの子を一人置いて外で働く時間が限られてしまって、貯金を切り崩して生活していましたが、それもずっと続けられるわけではないので…何とかしようと長男と長女に相談しました。


 その時に長女から支援窓口へ相談するよう提案されたんです。訪問看護やヘルパーさんの派遣などができるようになるとかで。

それで相談窓口に行ったんですけど、精神障害の申請が必要だと言われて、そこで初めて精神科を受診することになりました。

はじめのうちは私が行って説明したりしていましたが、本人を診たいといわれて、連れていくことが難しかったので、訪問診療にしてもらいました。


 先生からは統合失調症だろうと言われました。

先生が診てくださったとき、ぶつぶつと独り言を言っていたらしいのです。


私は聞いたことがありません。


 なので、診断に納得はできませんでしたが、申請のために病名が必要だったので…診断書をもらって申請手続きをしました。

 その後、申請手続きの関係でいろいろな人が家に来ましたが、あの子にきちんと向き合ってくれる人はいませんでした。


 訪問看護師達が最初に来た時もあの子に何か言ったみたいで、クッションとかを投げつけていました。

 以前、無理に外に出そうとしたり学校に連れて行こうとしたときにはそんなこともありましたが、最近は落ち着いていたのに…


 だけど、仕事に行くためには看護師やヘルパーに頼るしかなかったので仕方なく受け入れました。

 訪問看護の二回目は所長さんが一緒に来てくださったので、少なくとも所長さんは真剣に考えてくれていると思ったんです。


 でも、三回目は初回から来ていた看護師が一人で来たので、嫌な予感がしていました。

 その日はヘルパーも来る予定で私は仕事へ出掛ける準備をしていたんです。あの子の部屋へあの看護師が入って行って…

そのすぐ後に何かが床に落ちたような大きな音がして、看護師が何か叫びました。

 私が駆けつけると部屋の鍵がかかっていて扉があかなくて、必死に部屋の扉をたたいてあの子の無事を確かめようと呼びかけましたが、中では看護師のものかあの子のものかわからないうめき声や、床をたたくような音がひっきりなしに聞こえてきました。


そうこうするうちにヘルパーがやってきて…警察に連絡されました。


 警察が来る頃には音も止んでいて、警察と救急隊員が扉を壊して部屋へはいったところ、あの子がうずくまった看護師を見下ろして、左手に何かを握っていて、右手は自分の耳に入ったペンを握っていました。

そのまま二人とも病院に連れていかれましたが、うちの子は病院についた時には死んでいました。

 そのせいで、あの子が看護師に暴力をふるって顔や手足に重傷を負わせただけではなく、あの子が自殺をしたと判断されてしまいました。


 あの子は優しいいい子なんです。もし暴力をふるったのだとしても看護師に何かをされて抵抗するためにやったはずだし、ましてや自殺なんて…私を残して逝くなんて考えるはずないんです。


だから私はあの看護師が私の息子を殺したと思っています。


ーなんのお咎めも無いなんて間違っているんです。


すべてを吐き出し切った私の声はかすれてしまい、ざらざらとした音で最後の言葉をつぶやいた。




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