6.ケーキが美味しかったお礼なのです
「頑張るって決めたのに、さっそく痛いのですー!」
地上に華麗に降り立つつもりが、羽根をしまうタイミングを間違えて膝を擦りむいてしまった。
涙目になりながら道路の脇にうずくまっていると、近くを通りかかったおじいさんが声をかけてくれた。
「すぐそこに家があるから、ちょっと寄ってお行きなさい」
おじいさんは、古い一軒家の縁側へと私を連れて行った。
そこにはおばあさんも一緒に住んでいて、ケーキとジュースを出してくれた。
「ケーキなんて初めて食べるのです!」
白いクリームに赤いイチゴがのっている。
ずっと美味しそうだと思っていた。
「孫のために買っていたんだけど、風邪を引いて来れなくなってしまってね。たくさんあるから、遠慮せずに食べてね」
「たくさん!」
「お誕生日のお祝いをね、するつもりだったの」
縁側から見える部屋の中には、折り紙で作った飾り、プレゼントなのか大きな箱が用意されていた。
「せっかく用意したのに、お祝いできないなんて悲しいのです……」
「そうね。プレゼントだけでも届けられたらいいけど、私たちでは届けられなくてね」
おばあさんが寂しそうに言って、おじいさんも目を伏せた。
甘酸っぱいイチゴを噛みながら、ここにシュトリさまがいたらどうするだろうと考えた。
たぶん、『ツムギのお役目はそれじゃないでしょう』と言う。
でも、『ツムギがそうしたいなら、手伝うよ。二人ならすぐに終わるから』と言ってくれる気がする。
今日は一人だけど、プレゼントを届けるくらいなら私もできる。
「ケーキが美味しかったから、お礼なのです」
誰も聞いていないのに言い訳をして、私は一人で頷いていた。
* * *
大きな箱を抱えて、小さな羽根で空を横切っていく。
「重いのですー!」
もともと飛ぶのが下手なのに、これでは随分と時間がかかってしまう。でも、一度決めたことだから投げ出せない。
「守護する予定のない子だから、魂のオーラが分からないのです……」
ヒントはおじいさんたちから聞き出しているけど、お孫さんは都心のマンションに住んでいるらしい。
「とりあえず人間になって、今日が誕生日のユウジくんを探すのです!」
公園で遊んでいる子どもたちに聞き込みをしよう。
大人は私の話を、真剣に聞いてくれることが少ないから……。
「あの、聞きたいことがあるのですー!」
サッカーボールで遊んでいた男の子たちに声をかけた。みんな背丈は私と変わらない。
「どうした?」
「誰?」
「……え? 天使?」
人間の姿になっているはずなのに、バレてしまった……?
天使と口にしていた男の子は、頬を赤く染め「かわいい」と呟いた。
「お誕生日のユウジくんを探しています。知りませんか?」
首を傾げながら聞くと、男の子たちは知らないようだったけど面白がった。
「知らないけど、探してやるよ!」
「同じ学校の奴かな?」
「かわいい子が困ってるなら……」
人間の男の子たちはすごい。
公園にいた大人にまで聞き込みを始めてくれた。あっという間に何十人もの人を巻き込んで、ユウジくんの捜索を手伝ってくれた。
「そこの大きなマンションに住んでいるらしい」
「本当ですか!」
日も暮れ始めた頃、とうとうユウジくんを見つけた。
天使の姿でベランダから中を覗いてみると、ベッドの上でお粥を食べていた。
「誕生日なのに、良いことが何もないよ」
愚痴を聞いているお母さんも『そうねぇ』と元気がない。
「おじいちゃんたちもケーキやプレゼントを用意して待っていてくれたのにね。元気になったらお祝いしましょう」
「やだやだ! 欲しかったゲームを買ってもらったのに! 漫画もいっぱい買ってくれたって言ってたのに!」
「しょうがないじゃない」
私は二人に気付かれないように窓を開け、プレゼントを部屋の中に置いた。
「お誕生日、おめでとうなのです!」
これで少しでも、楽しいお誕生日になってくれたらうれしい。おじいさんたちにもお礼ができる。
夕方六時を知らせるチャイムが聞こえてくる。少し寂しくなるようなメロディだ。
「……ああ! 六時までに役目を果たせと言われていたんでした。どうしましょう!?」
慌てて羽根をバタつかせるけれど、ユウジくんを探すのに疲れて元気が残っていない。
夕日が完全に沈むと、頭上から天の声が聞こえてきた。
脳内に直接響くから、聞こえているのは私だけだ。
『製造番号 00328。個体名・ツムギ。今回の任務は失敗とする』
「ああ……待ってください……!」
私の叫びは天まで届かなかった。
また失敗でした……。




