4.僕が手助けしてあげようか?
心地よい温かさを感じながら、私は眠りから覚めた。
輝く羽根に包まれて、何が起きているのか分からなかった。
「おはよう、よく眠れたね」
「シュトリさま?」
羽根が広がり、木の上にいたことが分かる。
下までの高さを見て、思わずシュトリさまに抱きついた。
「ふふ。絶対に落とさないよ」
「離さないでください! 怖い!」
「もし落ちても、落ちる時は一緒だから」
シュトリさまくらい大きな羽根ならば、落ちても平気だろう。でも、私はうまく飛べるか分からない。
「それにしても、どうしてこんなところにいるのですか?」
「ツムギと二人で話したかったからね」
「お話?」
首を傾げると、シュトリ様の薄い唇が弧を描いた。
「次のお役目が決まったみたいだよ」
「もう?」
私は唇を結んだ。
また失敗したらどうしよう……。
「ねえ、ツムギ」
「はい」
「こっそり、僕が手助けしてあげようか?」
私はシュトリさまのお顔を見つめた。
慈悲深く、柔らかい微笑み。シュトリさまって本当に優しいお方だと思う。
「本当に? でも、そんなことをしていいのですか?」
「悪いって誰か言ってたかな?」
「……。言われたことがないのですー」
考えてみれば、手伝っては駄目って聞いたことがない。
一人で頑張らなきゃって思っていた。だって、みんなそうしていたんだもの。
……あれ? ルールはどうなんだろう?
初めて芽生えた疑問に、シュトリさまは答えてくれた。
「上位の僕が許可するんだ。何も問題ないよ」
「なるほど!」
「でも、ツムギと僕だけの秘密にしてね」
「なぜ?」
「みんなに手伝ってと言われたら、大変でしょう?」
私は納得して頷いた。
シュトリさまがいれば、心強いな。
* * *
数日後、私は人間の姿になって地上へと降り立った。
何度来ても、天界とは違う街並みに戸惑う。曲がり角で立ち止まって、猫ちゃんが「ニャア」と鳴いているほうへと踏み出した。
「ツムギ、そっちじゃないよ」
人間の姿に変化したシュトリさまが、私の肩に手を置いた。
「ありがとうございます。また道に迷ったのですー!」
「今日は僕がいるから大丈夫」
「まさかシュトリさまが一緒に来てくれると思いませんでした!」
いつもなら宮殿に用意された部屋の中にいるお方だ。
こうして地上にやって来ることはないだろう。
「一緒におでかけ、楽しいね」
「はい! でも、お仕事なのです」
普段と違うからワクワクするけど、ちゃんと頑張らなきゃいけない。
「今回は迷子になっている七歳の男の子を探します。遠足の登山というもので、みんなとはぐれちゃった可哀想な子なのです」
きっと泣いているだろうから、早く帰れるようにしてあげないと。
私のお仕事の難易度は、だんだん下げられている気がするけど、頑張ることには変わりがない!
「暗くなる前に急ごうか」
そう言って、シュトリさまは目的の山のふもとまで一瞬で飛んで行った。上位ともなれば、瞬間移動すら人間の姿でできてしまうらしい。
「シュトリさま、すごいのです!」
「ふふ」
「男の子の魂の光を探すのです」
私は目を閉じて、意識を集中させた。
人間にも、天使にも、魂の光がある。
私は個体の区別しかできないけど、上位になると見え方が違うらしい……。
以前、シュトリさまは『ツムギの魂は誰よりも温かくて綺麗だよ』と言ってくれた。お情けでも褒められている気がしてうれしかった。
「あっちかな」
見つけた方向へと歩いていく。
草をかき分け、進んでいくと小さな川のせせらぎを見つけた。
「うさぎさん!」
ぴょこんと現れた白い身体に、私は目を輝かせた。
「ツムギ。今の役目は?」
「そうでした!」
「せっかくだから、その子に聞いてみようか」
「ん?」
シュトリさまは、うさぎの赤い目を見つめた。
すると、うさぎは背を向けて、ぴょこぴょこと動き始める。少し進むとこちらを振り返り、また動いては同じことを繰り返していた。
「ついてきて欲しいのですか? ……でも、うさぎさんと遊んでいる暇はないのですー!」
「あのうさぎを追えばいいよ。きっと、男の子と会えるから」
「そうなのですか?」
ぎゅっと拳を握りしめて、うさぎを見失わないように追いかけた。
私の身長よりも大きな草を掻き分け、たどり着いたのは見晴らしの良い岩場だった。
リュックサックを背負った男の子が大きな声で泣いていた。
「見つけました!」
「これでもう安心だね。お友達のところへ返してあげよう」
「はい!」
男の子に声をかけ、無事にお父さんたちのところまで送り届けた。こんなにあっさりとお役目を終えたのは初めてかもしれない。
「シュトリさまはすごいのです!」
「うさぎを見つけたのはツムギだよ。頭のいい子を見つけられて偉いね」
新しいストーンも増えて、シュトリさまも褒めてくれる。
とても嬉しかった。




