29.そんな言葉で片付けないで!
シュトリさまを害悪として扱うのであれば、私も同じように扱われるべきだ。
「ノイルは、私がシュトリさまの言葉にどれだけ救われたか知らないのです」
「お姉様のそれは洗脳です」
「そんな言葉で片付けないで!」
私には今日まで育てた気持ちがある。
「ゆっくり育てていこうね」とシュトリさまが言ったとおり、積み上げてきたものは誰かに否定されるものじゃないと思う。
「ノイルが心配してくれる気持ちはうれしいけど、シュトリさまに黙って何かを決断する気はないのです」
「どうして分かってくれないのですか!」
悲しげに顔を歪ませるのを見て、言葉に詰まった。
話が平行線のままでいると、近くの木に雷が落ちた。
「きゃあ!」
縦に激しく割れた木が窓の向こうに見えて、恐怖で震えた。
「こんなに荒れるなんておかしい」
ノイルが警戒するように周囲を見た。
雨は上がり、風すらも吹いていない。先ほどまでが嘘のように静かな夜が訪れている。
コンコン。
部屋と廊下を繋ぐドアがノックされた。
「お嬢さん、起きているかな?」
トーマスさんの声だ。
小鳥の様子を見に来たのかも。
「寝てるのかな」
返事をしようとすれば、ノイルが私の口を塞いで「静かに」と囁いた。
「困ったな。迎えが来たようなんだが」
私はノイルの制止を振り切って、ドアへと走った。
迎えに来てくれる人なんて、一人しかいないと思ったから。
ドアを開けると、すぐそこに立っていた人の胸に飛び込んだ。
「シュトリさま!」
匂いも、抱きしめられる力強さも、間違いなくシュトリさまだった。――でも、顔を見上げる勇気はない。
勝手に屋敷を飛び出して、迷子になっていたなんて、怒られるに決まっていると思った。
「ツムギ」
感情を抑えたような声に、心臓が激しく脈打った。
駄目なのに、シュトリさまの背中に回した指は服を掴んでいた。
「――すみません。支度をしたらすぐに帰るので、少し席を外していただけますか?」
「え?… …ああ、はい」
シュトリさまはトーマスさんに声を掛けたようだった。
床を軋ませて、足音が遠ざかっていくのが聞こえる。
シュトリさまは私を抱いたまま、小さく息を吐いた。
「さて、この状況を説明してくれるかな。……ノイル?」




