27.帰れない
紹介してもらった獣医はトーマスさんという人だった。
レンガ造りの病院の中には、ケージに入った動物たちが並んでいた。
「初めて見る鳥だけど、衰弱しているのか大人しいな」
トーマスさんは出血量を心配していた。
傍らで祈っていた私に声が掛かった。
「どういうことだ? 羽根に血はついているが……傷がない」
「え?」
「薄っすらと跡はあるのに、もう塞がっていると言ったほうがいいかもしれない」
私は首を傾げ、恐る恐る尋ねた。
「鳥さんは大丈夫ということなのですか?」
「これなら怪我の治療は必要ない。ただ、弱っているようだから、今晩はうちで預かろう」
「良かったのです! お医者さまが診てくれるなら安心なのです」
胸をなで下ろしたのも束の間、治療費の問題が浮上した。
「ごめんなさい。私はお金を持っていません。でも、お屋敷に帰ればシュトリさまにお願いできるかも……」
「屋敷? 聞かない名前だな」
「私たちは最近住み始めたのです」
できればシュトリさまに頼らずに解決したいけれど、対価になることも思いつかなかった。
「治療費なんて別にいいさ。……それよりも、この鳥を譲ってもらうことはできないか?」
「どうしてなのです?」
そんな話になる理由が分からなかった。
「珍しい鳥なんだ。専門機関での調査や、論文にだってなる」
「……?」
「お嬢さんはよく分かっていないようだけど、これは大発見かもしれない!」
鼻息を荒くしてトーマスさんは語った。
「鳥さんは、譲る譲らないじゃなくて、お友達なのです」
この子と会えなくなるのは嫌だと思った。
「悪いようにはしないと約束する! だから一晩考えてくれないか。今日は空いている部屋に泊まっていいから」
「もう遅いから帰れないだろう?」と言われて、今の状況に気付いた。
そうだ、屋敷がどこにあるのか分からない。
シュトリさまが心配しているはずだ。
「ど、どうしましょう!」
私は頭を抱えて、おろおろとその場で動き回った。
探してくれているかも。でも、闇雲に探すお方ではないと思う。
屋敷で待っているとしたら、すぐに帰ったほうが良い。
「でも、鳥さんが……」
泣きそうになる私の様子を見て、トーマスさんは哀れに思ったのか、小鳥を同じ部屋で寝かすことになった。
異変があったらすぐに教えてくれと念を押された。
「鳥さんが無事で良かったのです」
ケージの中で眠っている姿を見て、ホッと息を吐いた。
自分の状況はちっとも解決できそうもないのに。
不安を抱えたまま、夜は更けていく――。




