25.初々しいままだね
屋敷の中を整え、本で勉強をして、空を飛ぶ練習をする。それを繰り返す日々が流れた。
「このお家にも慣れましたが、まだ……キ、キスには慣れないのです」
今日も遊びに来てくれた小鳥に相談をした。
小鳥は金色の瞳でじっと私を見ている。
「いつも真剣に聞いてくれるので嬉しいのです!」
今回は一緒に何を読みましょう?
まだまだ読みきれないほどの本がある。
「鳥さんはどの本がいいと思いますか?」
本棚の前でしばらく待っていると、一冊の背表紙をくちばしで叩いた。
「わあ! 難しそうな本なのですー!」
革の表紙なので、高価なものかもしれない。
小さな文字がびっしりと並んでいて難しそうだと思ったけど、よく読むと旅行記というものらしい。
「見たことのない食べ物や、知らない場所のことが書いてあるのです。鳥さんは行ったことがありますか?」
「……」
「鳥さんの翼ならどこにでも行けそうなのです」
私はシュトリさまに運んでもらわなければ無理そうだ。
「選んでくれてありがとうございます。この本でお勉強するのです!」
少しずつ読み進めようと思ったのに、慣れてくるとページを捲る手が止まらなくなった。
青年がリュック一つで、世界中を巡って行くのが面白かった。
「熱心に読んでるね。もう寝る時間だよ?」
書庫にやって来たシュトリさまの言葉に、窓の外に目を向けると真っ暗になっていた。
「わわわ! ごめんなさいなのです」
「面白い本に出会えたんだね。見せてごらん」
「まだ四分の一くらいなのです!」
シュトリさまはページを捲ると、目を細めた。
「へえ、こんな本もあったんだね」
「旅先で出会う人達の様子も楽しいんですよ」
本を閉じると、シュトリさまは私を抱き上げた。
落ちないように首に手を回して掴まる。
「子どもじゃないから、自分で歩けるのです」
「君が相手をしてくれないから、これくらいさせてくれないかい」
「寂しかったのですか?」
どこか拗ねたようなシュトリさまを見て、少し驚いてしまった。
「僕は寂しがり屋だからね」
「そうは見えないのですー!」
ケラケラと笑っていると、シュトリさまは唇を合わせてきた。ほんのわずかな間だったけど、私は息を呑んだ。
「可愛くて、ついね」
「……」
「君はいつまで経っても初々しいままだね」
ゆっくりと寝室に向かって歩き始める。
ベッドに入り、眠りに落ちるまでの間、シュトリさまの口数は少なかった。




