24.もうお互いしかいないんだ
「それを結びつけるのは違うよ、ツムギ」
「でも……」
「君はいつも頑張っていた。僕は見ていたから知っているよ」
頭を撫でられて、もう身体は大きくなったのに天使だった頃を思い出した。シュトリさまはよくこうしてくれていた。
「危なっかしいほど善良で、臆病なようで大胆で、君の笑顔は太陽のようにみんなを照らしていた」
「それは褒められているのですか?」
よく分からないものもあるような?
「僕がツムギを愛しいと思うところだから、褒めているんだよ」
「シュトリさま……」
愛しいだなんて恥ずかしいけど、心は温かくなっていた。
「堕天してしまった僕たちは、もうお互いしかいないんだ。悪魔になっても、僕は君のことをずっと愛おしく思い続けると約束する」
その眼差しを見ていると、悪魔になって生まれた欠陥だなんて思いたくないと思った。
シュトリさまが愛してくれること、むず痒いのに悪くないと思い始めている。
「……ちょっと喋りすぎたかな。今日はこれくらいにしておくね」
次の場所に移動するために、シュトリさまは私の腰を抱いた。森が見渡せるまでゆっくりと空を上がっていく。
「魔界はどっちにあるのですか?」
「そんなことを知りたいの?」
何でもない木々が生い茂っているようにしか見えなかった。
「どのくらい近いのか知りたいのです」
「教えるけど、一人では絶対に近寄っては駄目だからね」
静かにするように言われて、口元を両手で覆っておいた。
シュトリさまは森の中を進み、やがて洞窟が見えてきた。
「ここは空気が美味しくないのです」
「あれが魔界の入り口の一つだよ」
奥深くまで入ると、地下都市のような場所があるのだそうた。
「一つということは、他にもあるんですか?」
「そのとおり。すべて同じところに繋がっているみたいだよ」
「すごいのです……」
悪魔のほうがより人間に近い場所にいるんだ。
「僕も正確には把握してないんだ。興味もない」
「シュトリさまにも知らないことがあるのですね」
なんでも物知りな方だと思っていた。
「元天使が詳しいほうがおかしいでしょう?」
「たしかになのです!」
シュトリさまは洞窟に背を向けて、来た道を戻っていく。
よく見るとこの辺りには動物もいないみたい。
「次はどこに行こうか? そろそろ僕たちの家に帰るかい?」
「えっと、お屋敷から一番近くに住んでいる人間の様子を見たいです」
「魔界ならまだしも、人間の近くに行くのはやめたほうがいいと思うな」
「え……」
重々しい顔をしたシュトリさまは、私の腰に回していた手で背中を撫でた。こそばゆさに身じろぎしそうになる。
「ツムギの能力はまだ未知で、何が影響を及ぼすか分からないんだ。人間を傷付けたりしたくないだろう?」
「……はい」
今日の楽しかった気持ちは風船のようにしぼんで、視界が歪んだ。
「お家に帰りたいです……」
「いいのかい?」
「今日はもういいのです」
シュトリさまの胸に顔を埋め、落ちそうになる涙を隠した。抱きとめてくれるこの腕だけが、私と同じ堕天使だ。
……大人になっても、ままならないことが多すぎると思った。




