↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/31

23.デートしたいのですー!

 朝になると何もなかったように庭は綺麗になっていた。

 シュトリさまが持っていた剣だけが転がっていて、刃こぼれしていた。


「夢ではないのです」


 しゃがみ込んで剣を眺めると、シュトリさまがいつの間にか背後に立っていた。


「刃先には触らないでね。それは魔物の殺傷に特化して作られているようだから」


「え?」


「この家にはそういう類のものがいくつかあるようだ。魔界に近いだけはあるね」


 急に置いてあるものが怖くなった。

 書庫に伝承の本はないのでしょうか……。


「シュトリさま、今日はお散歩に連れて行ってくれませんか?」


「散歩?」


「私は飛べないので、その羽根で周辺を見てみたいのです」


 魔界と言われる場所は近いのか、人間たちが生活するところまでどのくらいか、他にどんな動物が生息しているのか。

知っておきたいことはたくさんあった。


「昨日襲撃されたばかりだよ?」


「それは分かっているのですが」


「僕はツムギを危険な目に合わせたくない」


 心配してくれているのが分かるから、私は眉を下げて何も言えなくなる。

 シュトリさまは大きな手を差し出してきて、微かに口角を上げた。


「デートのお誘いっていうなら、断れないかな」


「へ?」


「もっとおねだりされたら、いいよって言うかもね」


 目の前の手と、面白がるような表情を交互に見比べた。


「デートって、人間の男女がしてるやつですか?」


 お役目の時に何度か見かけたことがある。

 今思えば、あれは親密な二人だったようにも見えた。


「それは知っているんだね」


「なぜ、そんな言い方をするのですか?」


「ツムギが大人扱いしてほしいって言ったでしょう?」


 喉の奥がキュッと引きつった。

 思いもよらない返事に、後ずさる。


「そ、そうなのですけど……。それは……あの……」


「どうしたの?」


「大人扱いってそういうのじゃないのですー!」


 私が手を大きくバタつかせていると、シュトリさまの口から「ふふっ」と笑い声が漏れた。


「さあ、どうする? 僕と出かけたい?」


「……うう……」


 外には行きたいけど、おねだりをするということは……。

 涙腺が緩み始めたことにシュトリさまも気付いたようだ。


「そこまで困らなくてもいいんだよ。一緒に空を飛んで、湖で休憩をして、森で木の実を拾ってくる。デートなんてそれくらいのことだよ?」


「え、そうなのですか?」


「ツムギが楽しいことをするだけだよ」


 なんだ、そうなんだ。


「シュトリさまとデートしたいのですー!」


「ツムギは可愛いね」


「連れて行ってくれますか?」


「僕から絶対に離れないと約束できるなら、いいよ」


 心配事がなくなって、私は安心して頷いていた。


 *   *   *


 屋敷からほど近い森の中で、私は足元に落ちた木の実に夢中になっていた。


「これはどんぐりさん! こっちは松ぼっくりなのです!」


 見覚えのある形を見つけるのが楽しい。

 シュトリさまは大きな切り株に腰掛け、静かに見守ってくれていた。


「すごいね。お勉強の成果かな?」


「いいえ、昔覚えたのです!」


 図鑑ではなく、お役目で地上に降りた時のことだった。


「そんなに前から?」


「はい。いつも教えてくれるおじいさんがいたのです」


「いつも?」


 シュトリさまが目を丸くしているのを見て、私も同じ表情になっていたと思う。


「……あれ? いつも、おじいさんが私に教えて……。なんでだろう。いつの間にか会えなくなっていたことを、忘れていました」


 思い出そうとしても、おじいさんの顔はおぼろげにしか思い出せない。私が道に迷ったり、失敗したりするとお菓子をくれていた。


「まるでシュトリさまみたいに優しい人でした」


「……そう」


「忘れていて、ごめんなさいなのです……」


 急に寂しくなって、シュトリさまのところへと駆け寄った。


「落ちこぼれだと思っていましたが、ここまで駄目だったなんて」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。