23.デートしたいのですー!
朝になると何もなかったように庭は綺麗になっていた。
シュトリさまが持っていた剣だけが転がっていて、刃こぼれしていた。
「夢ではないのです」
しゃがみ込んで剣を眺めると、シュトリさまがいつの間にか背後に立っていた。
「刃先には触らないでね。それは魔物の殺傷に特化して作られているようだから」
「え?」
「この家にはそういう類のものがいくつかあるようだ。魔界に近いだけはあるね」
急に置いてあるものが怖くなった。
書庫に伝承の本はないのでしょうか……。
「シュトリさま、今日はお散歩に連れて行ってくれませんか?」
「散歩?」
「私は飛べないので、その羽根で周辺を見てみたいのです」
魔界と言われる場所は近いのか、人間たちが生活するところまでどのくらいか、他にどんな動物が生息しているのか。
知っておきたいことはたくさんあった。
「昨日襲撃されたばかりだよ?」
「それは分かっているのですが」
「僕はツムギを危険な目に合わせたくない」
心配してくれているのが分かるから、私は眉を下げて何も言えなくなる。
シュトリさまは大きな手を差し出してきて、微かに口角を上げた。
「デートのお誘いっていうなら、断れないかな」
「へ?」
「もっとおねだりされたら、いいよって言うかもね」
目の前の手と、面白がるような表情を交互に見比べた。
「デートって、人間の男女がしてるやつですか?」
お役目の時に何度か見かけたことがある。
今思えば、あれは親密な二人だったようにも見えた。
「それは知っているんだね」
「なぜ、そんな言い方をするのですか?」
「ツムギが大人扱いしてほしいって言ったでしょう?」
喉の奥がキュッと引きつった。
思いもよらない返事に、後ずさる。
「そ、そうなのですけど……。それは……あの……」
「どうしたの?」
「大人扱いってそういうのじゃないのですー!」
私が手を大きくバタつかせていると、シュトリさまの口から「ふふっ」と笑い声が漏れた。
「さあ、どうする? 僕と出かけたい?」
「……うう……」
外には行きたいけど、おねだりをするということは……。
涙腺が緩み始めたことにシュトリさまも気付いたようだ。
「そこまで困らなくてもいいんだよ。一緒に空を飛んで、湖で休憩をして、森で木の実を拾ってくる。デートなんてそれくらいのことだよ?」
「え、そうなのですか?」
「ツムギが楽しいことをするだけだよ」
なんだ、そうなんだ。
「シュトリさまとデートしたいのですー!」
「ツムギは可愛いね」
「連れて行ってくれますか?」
「僕から絶対に離れないと約束できるなら、いいよ」
心配事がなくなって、私は安心して頷いていた。
* * *
屋敷からほど近い森の中で、私は足元に落ちた木の実に夢中になっていた。
「これはどんぐりさん! こっちは松ぼっくりなのです!」
見覚えのある形を見つけるのが楽しい。
シュトリさまは大きな切り株に腰掛け、静かに見守ってくれていた。
「すごいね。お勉強の成果かな?」
「いいえ、昔覚えたのです!」
図鑑ではなく、お役目で地上に降りた時のことだった。
「そんなに前から?」
「はい。いつも教えてくれるおじいさんがいたのです」
「いつも?」
シュトリさまが目を丸くしているのを見て、私も同じ表情になっていたと思う。
「……あれ? いつも、おじいさんが私に教えて……。なんでだろう。いつの間にか会えなくなっていたことを、忘れていました」
思い出そうとしても、おじいさんの顔はおぼろげにしか思い出せない。私が道に迷ったり、失敗したりするとお菓子をくれていた。
「まるでシュトリさまみたいに優しい人でした」
「……そう」
「忘れていて、ごめんなさいなのです……」
急に寂しくなって、シュトリさまのところへと駆け寄った。
「落ちこぼれだと思っていましたが、ここまで駄目だったなんて」




