20.生きるのに楽になった
「……治ってる」
三日ほどで怪我は跡形もなく消えていた。
こんなに早く治ったことなんてないのに。
腕を眺めていた私に向かって、ソファーに座っていたシュトリさまは冷静に言った。
「もしかしたら、その姿になって治癒力が上がったのかもね」
「そんなことがあるのですか?」
「可能性としてはある」
これは、いい変化なんだよね……?
「シュトリさまは、堕天したことで何が変わったのですか?」
「僕かい?」
「能力が変わったと言っていたのです」
「よく覚えているね」
ソファーの背に頬杖をついて、シュトリさまは考える素振りを見せる。
「攻撃力は上がったかな」
「強い」
「迷うことも減った」
「……能力?」
「今の方が生きるのに楽になった」
「それは意外なのです……」
悪いことばかりじゃないのかな。
上位天使だったシュトリさまにも、悩みがあったなんて知らなかった。
「書庫に行ってきてもいいですか?」
「いいよ。好きな本を持ってきなさい」
「今日は動物さんの本を読むのです!」
少しずつ勉強をすることにした。
鳥の本を読めば、私も上手く飛べる気がしている。
廊下を歩きながら考えた。
私が一人前になれば、人間の助けになることもきっと増える。
悪魔でも、上手く接する方法を見つけられるかもしれない。
そのためには、まずは空を飛べるようになることが目標だ。
「あら?」
換気のために開けていた書庫の窓縁に、白い塊が見えた。
「鳥さん! 遊びに来てくれたのですね!」
そっと近づいて、つぶらな瞳に笑いかける。
「小さなお友達なのです。えへへ」
「……」
「鳥さんも本を読みたいのですか?」
「……」
「一緒に読みましょう!」
お喋りはできないけど、仲良くなれている気がする。
鼻歌交じりに動物図鑑を開いた。
「うーん、鳥さんのお名前が見つかりません」
白い鳥はいるのに、同じ種類が見つけられない。
人間でも、知らない鳥がいるのかも。
「あれ?」
じっと見つめていると、黒かった瞳が金色に変わっていた。見間違いかと確認しても、やっぱり色が違う。
「珍しい鳥さんなのです! シュトリさまにも見せたいです」
興奮していると、小鳥は助走をつけるように動いて、窓の向こうへと飛び立った。
「ああ……。今日はもう、さよならなんですね。また来てください!」
天に向かうように羽ばたく鳥に、私は声をかけた。
次に会えるのが楽しみになった。
図鑑を抱きしめてシュトリさまの元へと戻り、ソファーに飛び乗る。
「シュトリさま、聞いてください! 鳥さんが遊びに来てくれたのです!」
「鳥?」
「小さな体なのに、すごく上手に飛ぶんですよ」
思い出しただけで頬が緩んでいると、シュトリさまは眉をわずかに動かした。
「……ここに、鳥ね」
「また会えると思うのです!」
「そう」
シュトリさまは目を細めて「僕も会いたいな」と言った。
良かった。
シュトリさまにもお友達が増えると思った。




