19.鳥さん
「今日はお庭の掃除をするのです!」
シュトリさまが起きるよりも早く、眠い目を擦りながら庭へと出た。
大きなお屋敷だけあって、庭も広々としていた。荒れ放題だったせいで花はないけれど、残されていた木には果物が実っている。
書庫から持ち出した本によると、ラズベリーやレモンの木のようだ。地上には驚くほどたくさんの食べ物があるらしい。
草を抜いていると、白いものが動くのが見えた。
「鳥さんなのです!」
手のひらほどのサイズで、つぶらな瞳が可愛らしい。
私はそっと話しかけてみた。
「どこから来たのですか? ひとりぼっちなのですか?」
「……」
「なるほど、分かりません。でも、天使みたいな羽根で素敵なのです!」
このお屋敷に来てから、初めてシュトリさま以外の生き物に会えた。
それがうれしくて、ついつい望んでしまう。
「私とお友達になってくれませんか? また遊びに来てほしいのです」
小鳥は首を傾げるように動いて、高く飛び去っていった。
「あっ……。また来てくださいね、約束なのです!」
見上げた空は太陽が眩しくて、きっと気持ちがいいだろうと思った。
「……そういえば。この羽根になってから、飛ぶ練習をしていません」
移動はシュトリさまの羽根か、自分の足で歩くことだった。
こんなに大きな羽根なら、もしかして自由に早く飛べるかもしれない。
うずうずして、我慢できなくなった。
肩幅くらいに足を開いて、息を吸った。
小さな羽根をパタパタと懸命に動かしていた、あの感覚。
思い出して――飛べ!!
羽根を大きく動かすと、身体が浮いた。
「きゃー!」
引き上げられるように身体は空へと舞い上がった。
けれど、羽根は上手く動かせない。手足をバタつかせても、思う通りにはいかなかった。
「駄目なのですー!」
今度は急降下していった。
バサバサバサ……。
木に引っかかり、そのまま枝を折りながら地面へ落ちた。
「痛い……」
小さな身体だった頃よりも下手になっている。
涙目になりながら起き上がると、パキッと枝を踏む音が聞こえた。
「ツムギ……?」
シュトリさまが驚いたような顔をして、私の全身を見た。
「傷だらけになってるけど、どうしたの?」
「シュトリさまぁ!」
私はシュトリさまの胸に飛び込んだ。
溢れ出る涙は止まらず、声を詰まらせる。
「怖……かったのです……! 手足も痛いし、背中も痛いのですー!」
「うん、手当てしようね」
「飛べ……なくなってしまいました……ぐすっ」
「大丈夫だから、泣かないで」
私の身体を抱きかかえたシュトリさまは、あやすように背中を撫でてくれた。
少しでも動けば、唇同士がぶつかりそう。
「……あ」
シュトリさまとの距離に戸惑っていたはずなのに、私から近付いてしまった。
「どうかしたかい?」
「……なんでもないのです」
「まだ体調が良くないのかな?」
シュトリさまは髪についた葉っぱを取ってくれた。
「実は僕もまだ眠くてね。一緒にお昼寝しようか」
「子どもじゃないのです」
「分かってる。怪我をしてるから休むんだよ」
昨日は逃げたのに、またシュトリさまと同じベッドで寝ることになった。
鼻をくすぐる芳香にドキドキして、とても眠れないのにな……。




