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18.シュトリさま、近いです

 私は本を持ったまま、ウロウロと室内を歩いた。


 シュトリさまとやっていたことは、愛し合う恋人の儀式らしい。


「シュトリさまが言っていたパートナーって、これなのですか……?」


 絵本の王子様とお姫様はこんなことしてなかった!


「ノイルだって、天使は恋をしないって……」


 窓ガラスに黒い翼が映り込み、私は叫び出しそうになるのを我慢した。

 もしかして……。


「悪魔になったから?」


 シュトリさまに、私を好きだと思う欠陥ができてしまったの?


「どうしましょう……」


 気の迷いだとしても、シュトリさまは私のことを好きで、接吻をしたいみたいだ。

 これを受け入れるということは、私もシュトリさまをそういう目で見なくてはという……。


 まさか、責任を取れってこういうこと?


「そ、そんなことが許されるのですか!?」


 あのシュトリさまを?

 ……いけない気がする。


 特別な御方なのに、悪魔になったせいで関係がおかしくなってしまった。


「子猫みたいなものじゃなかったんだ……」


 愛してくれると言っていたけど、その愛が恋人に向けるものだと思わなかった。

 私は本を抱いたまま、途方に暮れてしまった。


 *   *   *


 荷物を抱えて、シュトリさまが帰ってきた。

「おかえりなさい」そう出迎えなくてはいけないのに、私は掃除が忙しいふりをした。


 頑固な床の汚れを雑巾で擦った。

 全然落ちないそれは、『つがい』という言葉が頭から離れない私みたい。

 消したいのに消せない。


「ツムギ?」


 シュトリさまのほうから、私がいる台所にやって来た。

 床に座り込んだまま、顔を上げることはできなかった。


「何か怒ってる?」


「いえ……」


「遅くなってごめんね。でも、ツムギが持っていた絵本を見つけたんだよ」


 雑巾を握りしめる。

 またあの絵本に出会えたのは嬉しい。でも……。


「ごめんなさい……せっかく見つけてきてくれたのに。今は読めないかもしれないのです……」


 きっと探し回ってくれたと思う。

 シュトリさまのような立場の方に、そんなことをさせていいはずがないのに。


「どうしたの?」


「……」


「迷惑だった?」


「それは違います!」


 勢いよく顔を上げれば、いつの間にかシュトリさまは目の前にいた。芳香が漂って、私の視線は落ち着かなくて揺れる。


「シュトリさま、近いです」


「そう? いつもと変わらないよ」


「近いのです……」


 唇を噛んでいると、シュトリさまがそこに触れた。

 冷たい指にこじ開けられる。


「駄目だよ、傷つけちゃうから」


「……」


「ほら、少し血が出てる」


 頭の中が真っ白になって、心臓が激しく動いた。

 本当にシュトリさまは、こんな距離だった……?

 意識したことがなくて分からなくなる。


「顔が真っ赤だね。今日は無理せずに休んでいなさい」


「……はい」


 体調を理由に、今日は一人で寝たいと逃げることにした。

 明日からはどうしよう……。


「寂しいから、早く元気になってね」


 シュトリさまは優しく微笑むけど、元に戻ることはできないかもなのです……。



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