2.早く大人になってね
ふかふかのベッドの上で、王子様とお姫様の絵本をめくった。
人間界で手に入れたという、シュトリさまがくれた絵本。
「二人は永遠の愛を誓い、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
字を読むのは得意じゃないけど、何度も読めば覚えてしまう。本を閉じて、天井を見つめた。
「寝てるだけなんて、暇なのです……」
ごろごろと寝返りを打ち、誰か遊びに来てくれないかなって思っていると窓がノックされた。
「どなたですか?」
両開きの窓を開くと、大きな羽根がバサリと動いた。
ノイルたちの羽根とは色合いから違って、一目で誰か分かってしまう。
「シュトリさま!」
白銀の睫毛に縁取られた目に、私の姿が映り込む。
シュトリ様の顔はとても近くにきていた。
「やあ。具合が悪いって聞いてね」
「お見舞いに来てくれたんですか?」
お忙しい方なのに、わざわざこんな辺境まで?
シュトリさまは微笑む。
「入ってもいいかい?」
「どうぞ。何もありませんけど」
小さな体の私でも手狭な家だ。
座ってもらう場所なんてベッドくらいしかない。
「ごめんなさい、こんなところで」
「いいよ。おいで、ツムギ」
手招きをされ、シュトリさまとベッドの上に並んで座った。
「見た目は悪いところがないようだね」
「はい、元気なんです。でも、みんなの言うとおりに寝ていたのです。褒めてください!」
「うん、ツムギは素直でいい子だね」
落ちこぼれの私なのに、シュトリさまは下位天使にも優しくて、とってもかっこいい。
人間の言う眼福ってこういうことなのかな。
「ほら、お見舞いの飴だよ」
「ストーンそっくり!」
シュトリさまが取り出したのは、お星さまみたいな形の飴で、天界では貴重なものだった。
「全部口に入れたら、ツムギの小さな口の中を傷つけてしまうかもね」
「そうかな?」
「少しだけ舐めてごらん」
白い指が飴を摘み上げて、私の口元へと運んでくる。
シュトリさまの視線に促されるがまま、私は舌を出して舐めてみた。
「ミルクを飲んでる子猫みたいだね」
「おいしいけど、食べづらいです」
飴を手のひらに置いたシュトリさまは、私に尋ねた。
「砕いてもいい?」
「どうやって?」
「簡単だよ」
その様子をじっと見つめる。
シュトリさまの唇が何かを呟くと飴が弾けた。
私の口でも食べやすく粉々になった。
「最初からこうしていれば良かったような?」
「それはもったいないでしょう」
小さな欠片が口に運ばれて、私はその甘さに頬が緩んだ。
「小さくしなくても食べれるくらい、早く大きくなってね」
……私もそうなりたいです。




