16.私はもう大人なのです!
「落ち着かないし、二人だと落ちちゃう」
シュトリさまにはゆっくり寝てもらいたいのに、私の寝相が心配だった。
「僕の側から離れるの?」
「そういうことじゃないのです!」
「落ちないよ。僕がずっと抱いておくから」
「ん?」
もしかして、また子ども扱いされている?
「シュトリさま! 私はもう大人なのです!」
「知ってるよ」
「大人はそんなふうに寝ないのです!」
寝かしつけてもらうことなんてしない。
頬を膨らませていると、シュトリさまは表情を和らげた。
「大人として接していいなら、そうするけど。いいんだね?」
「もちろんなのです」
「ツムギにはまだ早いと思うけどね」
「……?」
また唇と唇で触れ合って、シュトリさまは「はやく大人になれるといいね」と笑った。
……もう大人なのに!
* * *
念入りに床を磨き、窓も綺麗に拭いた。
少しずつ変化していく様子は、ストーンを集めていた時のような達成感があった。
「そういえば、私が集めていたストーンはどうなったのでしょう」
デッキブラシを持つ手を止め、窓から空を見上げた。
なかなか集まらなかったけど、一つ一つに思い出があった。ただの石とは思えない。
「ノイルたちは怒っているのでしょうか」
ぽつりと呟いて、花園で遊んでいた日のことを思い出した。
シュトリさまの前では、寂しい顔なんて見せては駄目だ。デッキブラシを持つ手に力を入れて、黙々と床を磨き続けた。
どれくらいの時間が経っただろう。
日も暮れた頃、別の部屋にいたシュトリさまが私を呼びに来た。
「こっちにおいで、ツムギ」
「なんですか?」
「まだ部屋があったよ」
積み重なった家具の奥に、ドアを見つけたそうだ。
中に入ってみると、そこには大量の本があり、棚に収まらないものは床に積み重ねられていた。
「ここの主人の趣味かな。今では貴重なものもあるのかもね」
「すごいのです! こんなにたくさん、初めて見ました!」
難しそうな本以外にも、絵本まであった。
「シュトリさまにいただいた絵本はないのでしょうか?」
「あれと同じものはなさそうかな」
「そうですか……」
シュトリさまが窓を開けると、ほこりが舞って咳き込んでしまった。ここもお掃除が必要だ。
「あの絵本がお気に入りだったのかな?」
「はい。何度も読みました」
「街に買い出しに行った時に探してみるよ」
文字を読むのは苦手だけど、ここにある本を読んだら知識が増えるのかな。
悪魔のことも人間のことも、天使のことさえ……私は知らないことが多すぎる。
そういえば……。
「シュトリさま。つがいって何ですか?」
手に取って開いたばかりの本を、シュトリさまはパタンと閉じてしまった。
そして、こちらを向いたかと思えば、にっこりと微笑んだ。
「パートナーがいたとして、お互いにとって一番大切な人のことだよ」
「パートナーですか?」
「そう。ツムギが読んでいた絵本の、王子様とお姫様が分かりやすいかな」
私は首を傾げる。
「……悪魔さんに、シュトリさまは私のことをつがいと言っていました」
「うん、そうだね」
「私がシュトリさまのパートナーなんですか?」
不思議だと思う。
シュトリさまは、天界でも上位の天使だったとノイルたちから聞いている。それなのに、パートナーが私ではおかしくないだろうか。
「シュトリさまは、私で満足なんですか?」
胸に痛みを抱えながら必死に問えば、シュトリさまは眉を寄せた。
「純粋すぎるのも、問題なのか」
「えっと……?」
「疑ったことすら後悔するくらい、深く愛してあげるね」
息を呑んだ。
シュトリさまの雰囲気が違う……?
「ごめんね、怖がらせるつもりはないからね」
あれ?
気のせいだったのかな?
一瞬感じた違和感はすぐに消えてしまった。




