15.僕の隣で眠るんだよ
鮮やかな花が揺れる中、私は自分の身体を抱いてうずくまった。
……怖かった。
あの悪魔も、攻撃を加えるシュトリさまも。
「大人になっても、私は足手まといのままですね」
「どうしてだい?」
「シュトリさまに守ってもらってばかりです」
シュトリさまは腰を下ろし、摘み取った一輪の花を私の耳に掛けた。
「僕がツムギのことを足手まといって言ったかい?」
「……いいえ」
「守りたくて守っているんだ。問題は何もないよ」
「でも……」
大人になってやりたかったこと。
私はまだ何もできていない。
「天使じゃなくなっても、人の役に立てる方法はないのでしょうか?」
顔を上げ、シュトリさまの瞳を見つめた。
まだ見慣れない私がそこにいる。
「シュトリさまなら、いい方法をご存知ではないですか?」
「どうして、それにこだわるんだい?」
「それは……そう教えられてきたからです」
そよ風が頬を撫でていく。
まるで天界みたいに綺麗な場所だ。
「ツムギは、これからの生き方が分からなくて困ってるんだね」
「はい」
「では、どうしようか」
シュトリさまは少し黙ってから、口を開いた。
「まずは僕のために動いてみる?」
「どういうことですか?」
「家を見つけるから、そこで僕のために毎日の生活を整えて。掃除をしたり、布団を干したり。そんなことでいい」
「そんなことでいいのですか?」
まだ子ども扱いされているのかな。
少し不服に思ったことを察したのか、すぐにシュトリさまはフォローした。
「僕は、ツムギ以外は家に入れないつもりだからね。できるのは君だけだよ」
私にしかできないと言われると、頑張らなくちゃって思うけど……。
「もっと役に立ちたいのです!」
「それは段々とね」
「だんだん……」
「目の前のことを頑張る。よそ見はしない。……お役目だってそうだったでしょう?」
そうだ。私はそれでいつも失敗してきた。
まずはシュトリさまのお役に立ちたい!
「頑張ります!」
「うん、外には出なくていいからね。家の中を住みやすく整えてね」
「私にできることを、コツコツと頑張るのです!」
やっぱりシュトリさまは色々考えているんだ。
きっと、人間のためにできることも、見つけてくれると思った。
* * *
数日が経ち、シュトリさまは森の奥深くにある家を見つけてきた。
大きなお屋敷だけど、ずいぶんと使われていないようだ。
家具はそのままで埃を被っているし、カーテンも千切られたような跡がある。
「ここはね、人間の生活する場所からは遠いんだ。魔界の入り口に近いから、寄り付かなくなったんだろうね」
「魔界ですか?」
「僕たちには用がない場所だよ。ちょうどいいのがここだったんだ」
これを綺麗にするには、時間が掛かりそうだと思った。
どこから手をつければいいのだろう。
落ちていた本を拾い、表紙に描かれていた猫を指で撫でる。
「あの、シュトリさま」
「なあに?」
「いつか、子猫さんを飼いたいのです!」
天界にはいなかった。
あんなに可愛い生き物がいれば、シュトリさまも癒されると思う。
「僕たちの家で?」
「はい!」
「いい子を見つけることができたら、かな」
シュトリさまは珍しく歯切れが悪かった。
「子猫はお嫌いですか?」
「別に。ツムギはまず、僕のために生活を整えてね?」
「それはもちろんなのですー!」
シュトリさまに教わって、まずは寝室を整えることになった。
「もともとは辺境の男爵が住んでいたのかもしれないね。使用人が使っていたような部屋もある」
「シュトリさまはどの部屋にしますか?」
「主人が使っていたところがいいんじゃない? 一番大きなベッドがある」
「なるほどなのです!」
格納庫からほうきを見つけてきた私に、シュトリさまは付け加えた。
「寝室は二人で使うからね?」
「え?」
「ツムギは僕の隣で眠るんだよ」
並んで眠る様子を想像して、すぐに首を横に振った。
「それは駄目なのです!」
「どうして?」




