11.責任
朝になると川で身体を清めて、シュトリさまが貸してくださった服に腕を通した。
素足がほとんど隠れていない様子を見て、シュトリさまは言った。
「それでは落ち着かないだろう。今日は人里のあるほうへ行ってみようか」
「人間のところ……?」
悪魔は人に害を与えると聞いた。
そんな私が近寄ってもいいのだろうか。
「今のツムギにちょうどいい服と、お菓子でも買ったらすぐに離れるさ。僕以外に君を長く見せたくない」
そう言われても怖くて、シュトリさまの服の袖を掴んだ。
今の私を助けてくれるのはこの人だけだ。
「ツムギ」
「はい」
「昨日教えたこと、できる?」
「……?」
首をかしげると、シュトリさまはご自分の唇に触れた。
「練習して上手にならないと」
「……。できません」
「どうして?」
「よく分かんないけど、そこで触れ合うと落ち着かなくなります」
シュトリさまは目を細めた。
まだ黒くなった髪も、まつ毛も、シュトリさまじゃないみたいで変な感じがする。
「落ち着かなくなる、ね」
「ごめんなさい。大人になったのに、何でもできなくて……」
「焦らなくていいんだよ。ゆっくり育てていこうね」
育てるって何を?
分からないけれど、シュトリさまが教えてくれるみたい。
「あの、シュトリさま」
「どうかしたかい?」
乱れた前髪を直してくれる指を見つめた。
「一晩考えました。私が落ちこぼれすぎて、この方法でしか大人になれなかったのでしょうか。だとしたら、シュトリさまはその身を犠牲にしてまで私の願いを叶えてくれたのかなって……」
髪に触れていた指が私の唇をなぞった。
「そんな難しいことを考えていたの?」
「そうですね……?」
言われてみれば、身体が小さい時なら気づかなかったかも。
「僕の心配までしてくれるなんて、ツムギは偉いね。もし責任を感じているなら……僕から離れないでね」
責任という言葉に胸が痛くなった。
ごめんなさい、シュトリさま。
お側を離れません。
頷く私に、シュトリさまは安心したように微笑んでいた。




