第四話 王宮
王宮の一室にて。
「なんで呼び出されたか、わかっているだろうな? レオナール」
「全く心当たりがないですな!」
レオナールはフリードリヒ・ユーラヴァレオン王と相対していた。
椅子に座ったまま胸を張って答えるレオナールに、フリードリヒはガックリと項垂れた。
「……王宮の建物への不法侵入、器物損壊、暴力行為。これらに心当たりは?」
フリードリヒが白い目でレオナールを見る。
ピュロロロ〜。
下手くそな口笛。
必死に誤魔化そうとするレオナールがいる。
フリードリヒはため息をついた。
「……いいか、いくらお前でも今回の件、全ては庇えないぞ。特に扉を壊した件と、近衛を殴った件は正式に処罰させてもらう」
「扉は最初からひび割れていた、だからちょっと押しただけで壊れてしまったのだし、近衛は明らかに訓練不足だった! 減刑を求める!」
「公爵閣下、それは無理があるかと……」
宰相であるノーティー・ブルーバックス侯爵が呟く。
「ぐぬぬ……」
レオナールが苦い顔をする。
「諦めてください」
ノーティーの宣告。
ふん!
鼻息を鳴らすレオナール。
口を開こうとした時、レオナールが家から出る前に、エリナリーゼがレオナールに告げた言葉が蘇った。
「しっかりと反省して、陛下の言うことを聞いてくださいね。お父様」
レオナールは口を閉じた。
そして、顔を顰めながら、ゆっくりと頷いた。
「では、ヴァレンシュタイン公爵には正式に修繕・治療費の支払いを命じる」
「……しょうがない」
頬を膨らませるレオナール。おじさんがやっても全く可愛くないのだが、レオナールは気が付かない。
「さらに、今回の件の調査対象者及び関係者に接触することは禁止とする」
「馬鹿な!」
レオナールが机を力任せに叩く。
「おい、机を壊すな」
「私が調査をやらなくてどうする! 娘の事を侮辱した奴は全員血祭りにあげなければ」
「……だから禁止するのですよ」
ノーティーのツッコミはレオナールには聞こえない。
「いいか、レオナール。これは罰だ。こちらできっちりと調べるからお前は我慢するのだ」
レオナールは竜すら視線で殺せるほどの殺気を込めてフリードリヒを見つめる。
しかし、フリードリヒは動じない。
数秒が経った。
口を開こうとして、レオナールの脳裏に再び娘の言葉が蘇る。
「……わかった。ただし、不正やミスがあった場合は調査に参加するし、接触もするからな」
「しょうがない、それでいいだろう。しかし、まずは報告してくれ。明確なミスがあるとわかったら、参加を認めよう。明確なミスがない限りは接触禁止だし、調査も禁止だ。わかったな?」
「わかった」
「では、話は以上だ」
立ち上がり、部屋から出ていくフリードリヒ。
レオナールはその後ろ姿をじっと見ていた。
その拳はギュッと握りしめられていた。
♦︎
「昨日の話聞いたか?」
貴族学院では、誰も彼もが、昨日の事件について噂していた。
「まさか公爵家の令嬢であるエリナリーゼ様が婚約破棄されるなんてね」
「何があったのでしょうね……」
空いているエリナリーゼの席。
エリナリーゼが欠席していることもあり、エリナリーゼが婚約破棄されたことは、学院中にあっという間に広がっていた。
しかし、昨日すぐに参加者に緘口令が敷かれていたので、誰も昨日何が起こったのかの詳細を話していなかった。
「うう……怖かったです」
そんな教室の中心にいたのは、ミリアだった。
ミリアは事情聴取を受けていた関係で、緘口令が敷かれていたことを知らなかった。
というのも、緘口令は、まず夜会会場に残っていた者へ口頭で命じられており、正式な通知は今日家に届けられていたのだ。
「公爵閣下が突然来たかと思うと、暴力を振るわれて。反論する殿下を、力で無理やり黙らせましたの。私、震えてしまって……」
そう言ってミリアは肩を震わせ、下を向く。
「……」
ここで下手なことを言えば、公爵家が敵になる。
ミリアを取り巻く学生たちは、新しい情報に耳を傾けながら、どう反応するか考えていた。
その時だった。
ばさり。
クラリッサ・ヴァルトハイム侯爵令嬢が扇子を広げた。
クラリッサはチラリと、空の席を——エリナリーゼの席を見た。
そして扇子で口元を隠すとつぶやくように言った。
「私も同席していた監理委員会では、エリナリーゼ様は瑣末な記載ミスを理由に人前でミリア様に退出を命じていました。あのような扱いをする方なのだと、その時に思いましたわ」
教室が静まり返る。
「エリナリーゼ様と親しいクラリッサ様が仰るのなら……」
貴族たちが頷きあう。
「……そうだ! ヴァレンシュタイン公爵家は碌でもない!」
アルフレッドと親しいギルベルト・オーヴァーシュタイン伯爵令息が口火を切ると、周りの学生たちの視線が、ミリアに同情的なものに変わる。
クラリッサはその様子を黙ってみている。
「きっとエリナリーゼ様が学院に来たら、私を目の敵にするでしょう。私、それもとても怖くて……」
ミリアの頬から涙が溢れる。
「大丈夫だよ。俺たちが守る」
「ああ、公爵令嬢だろうと、好き勝手させない」
周囲の男子学生たちがこぞってミリアを励ます。
「ありがとうございます」
俯いて顔を覆って泣くミリアの口元が、歪んでいたことに気が付く者はいなかった。
♦︎
エリナリーゼが登校したのは、次の日だった。




