4-9 芽吹き
「魔術の構築式が違っているぞ」
「……ここ?」
「ああ」
中間試験の範囲は、言語、国史、数学、化学、魔術学の五つである。二学期からは選択授業の科目も追加されるが、教師陣によって難易度が変わるため、成績加点はされど、順位に影響することはない。
「シレーヌちゃん、そこスペル違うよぉ」
「ん、ああ。ありがとう」
「お礼はクッキーがいいなぁ」
入学してから初めての試験だというのに、カルテットは纏う空気は普段通りである。
三人の先輩たちは少しだけ意外そうに顔を見合せた。
「意外と真面目みたいだな」
セドリックは珈琲に手を伸ばすと、少し目を見開いて再びカップに口をつける。
「ゼロスなんか特に、のほほーんとしてるから勉強してる時も同じかと思ったが」
「生徒会役員選抜に満点で合格したんだ、オンオフは切り替えるのが得意なんだろうね」
セドリックが興味深そうに四人を観察する。
噂だけでいえば、四人は目立つ生徒であった。聖女候補にその友人の美女、宰相の息子である堅物と、学年首席で入学した特待生。
それだけの面子が一緒になって行動すれば、良くも悪くも注目の的だ。また、全員顔がいいのが余計にタチが悪い。
「……にしても、バレットも強そうだな」
セドリックの発言に、アルテミスは瞬きを繰り返す。
「あの子が?」
お世辞にも鍛えているとは思えず、シレーヌに視線を向ける。
「嗚呼。なんていうだろうな。魔力濃度が濃い」
セドリックは特別な"目"を持っている。それは彼の出自が関与した能力であり、彼だからこそ上手く使えるとも言えるだろう。
「化けそうだな。まだ外れてないだけで、トリガーを上手く引き出せば魔術騎士団で活躍できそうだ」
「駄目よセドリック」
冷え冷えとした声色に、セドリックは肩を竦める。
そのまま視線をアルテミスに寄越せば、氷結の公爵令嬢と目が合う。
「駄目」
「珍しいな。アナタともあろうお方が、執着するなんて」
「口を慎みなさい、余計な言葉は身を滅ぼすだけよ」
「はいはい。肝に銘じてくおきますよ〜お姫さん」
お姫さんと呼ばれたアルテミスは、少しだけ頬を緩め、セドリックの手の甲を摘んだ。屈強な男はわざとらしく痛がる。
「仕事の手が止まっているぞセド」
「はいはい、やりますよ平民王子殿」
一時間ほどの時間が経てば、空も暗くなる。
すっかり冷え込むこの季節。シレーヌが嚔をしたことにより、勉強会の集中した空気が乱れる。
「もう五時半か」
「疲れた〜」
シンが呟けば、ゼロスが脱力をする。
窓の外は暗くなっており、学園内の洋燈がチカチカと光っている。まだ学園に残っている生徒は多くいるが、そろそろ帰宅を促すべき時間だ。
「さぁ、そろそろ時間だし一年生たちは帰った方がいい」
ジョリーの言葉を皮切りに、一年生たちは素直に頷いて帰り支度を始める。
「送るか?」
「大丈夫ですケラヴノースさん。シレーヌはあたしが送ります」
「帰る場所一緒だろう」
「まぁ、アスターが一緒なら大丈夫か」
胸を張るアスターに、セドリックが苦笑する。
「それじゃあ気をつけて帰れよ」
「夜道にはくれぐれも気をつけなさい」
「寄り道しないようにね」
見送る先輩に頭を下げ、一行は生徒会室を後にする。
「案外上手くいっているんだな」
「皆いい人たちだから平気だよ」
「うんうん、思ったより取っ付きやすいしね〜全員」
「失礼な態度はくれぐれも取るなよキディア」
「え、オレだけシンちゃん?」
「ちゃん付けはやめろ」
十月の終わりが近付く今日この頃。
平和な日常が変わらず訪れる一方で、燻り続けている。誰も気付かない所で、芽吹く呪いの種がじんわりと広がっていた。
魔女の厄災まで、あと少し。




