4-6 信頼
「今日も先に行ってくるねバレット」
「気をつけろよ」
「うん、ありがとうね」
控えめに手を振るアスターは、朝早くから寮を出る。
ジョリーから役員選抜のために指導を受けているアスターは、学ぶ事が好きなためか苦な様子は見られない。
『教えるのが上手い人から教わるのが一番だからね』
拳を握って答えたアスターに、シレーヌは半端な返事しか返すことが出来なかった。
若干の下心こみでガレットから教わっている身からしたら、少しだけアスターが眩しい。
「……受かったら何を作るか」
ケーキあたりが一般的だろう。
ただ悩みどころはどんなケーキを作るかである。
アスターは以前よりも食事の量が増えたとシレーヌは感じている。
最初の頃は子供くらいの食事量であったが、シレーヌがプレートの上に乗せていけば無言で食べ続ける。また、間食のお菓子をシレーヌに求めるので胃が大きくなっているのは間違いないだろう。
ホールで作っていいだろうか。
シレーヌは本を睨みつけながら考えを巡らせた。ガトーショコラも反応は良かったが、些か華やかさに欠ける。見た目の可愛らしさでいえば、ロールケーキやタルトなどもありだろう。
「……色々作ってみるか」
きっとアスターならば、何を出しても喜んでくれるはずだ。こだわりがなく作りがいのない態度だが、毎回美味しいと短い感想を何度も零して完食してくれる。
シレーヌはそう経験則から信じて、身支度を始めた。
「信じて疑わないんだな、バレット」
感情の読み取れない目でシンがそう告げる。
シンの言う通り、アスターが受かる事をシレーヌの中では確定した事項であった。
言われてみれば、シレーヌは無意識にアスターへの信頼を寄せている。
「……確かにそうだな」
聖女候補というバイアスがかかっているかもしれないが、シレーヌはアスターならば出来ると確信していた。
不思議な事に、まだ出会って半年も経たない少女を、シレーヌは親友のように長い付き合いだと思っている。
まるで、学園生活を共に過ごし続けたような懐旧の情がシレーヌの心のうちにある。
「理由はわからんが、アスターとは今年であったばかりだと言うのに、旧知の仲のような感覚があるんだ」
「二人はあまり噛み合わないように思えたが、そうじゃないんだな」
「そうか?まぁ、否定はしないが凹凸のようなものだろう」
互いに足りるところが、互いの足りない所を補える。
アスターが食に対しておざなりな所や、常識知らずな所をシレーヌが対応できるように、シレーヌの弱さや着眼点のない部分をアスターが対応できる。
上手く噛み合うのだ。
シレーヌのアヴィスとガレッドがそうであるように。
「運命のようだな」
「貴様、そんなクサイ台詞吐けたのか」
「……忘れろ」
運命だとしたら、随分と出来すぎな筋書きだ。
シレーヌがアスターの監視役に抜擢されたのも、時計台で出会ったのも、同じ部屋になったのも。
「アスターは受かるだろう。努力を怠らない奴だしな。それに……」
「それに?」
「受からなければ、ケーキを作る免罪符が消えてしまう」
ニヒルに笑って言ってやれば、シンは珍しく口角を上げた。口から零れる小さな笑い声に、シンはブリッジを上げて誤魔化した。




