4-5 おそろしい女の子
生徒会役員の募集で、アスターが推薦を受けたという話はすぐに広まった。それと同時に、シレーヌが生徒会役員の推薦を蹴ったという話も。
まとわりつくような視線が向けられる昼休み。
生徒会役員の説明会でアスターが不在にしている為、シレーヌは一人で図書室へと訪れていた。
ガレットから貰った本だけでなく、学園の書籍も手に取ろうと思い立ったからだ。一学生としては勤勉だと褒められるべき行為だろう。
「調子乗っているんじゃなくて?」
決して上級生に言い掛かりを付けられるためでも、騒ぎを起こす為でも無かった事は確かだ。
扇で口元を隠している女子生徒は、派手な印象を持たせる化粧を施している。後ろで控えるのは幼さの残る顔立ちのツインテールの女子生徒と、雀斑がチャームポイントな細身でショートヘアの女子生徒だ。
「貴女、アルテミス様からの声掛けをお断りしたみたいね」
「ああ、したが」
「平民風情が?あのアルテミス様からのお誘いを?身の程知らずにも程があるんじゃないの」
ツインテールの女子生徒、エリーが突っかかってくる。シレーヌの淡々とした返答に眉を寄せ、顏を歪めた。
「大変名誉な事なのに、ねぇ。世間知らずにも程があるわ」
クスクスと小馬鹿にしたような笑い方でシレーヌを見下げる派手目の女子生徒、ダリアは女子特有の面倒臭さが滲み出ていた。
「興味がなかったから断っただけだ。話がそれだけなら失礼する」
「ちょっとッ話はまだ終わってないわよ」
「まだ、なにか?」
ダリアが語気を強めながらシレーヌへと詰め寄ってくる。しかし、自分より遥かに背丈が良く、素で気が強そうな顔立ちのシレーヌに近付いた事で一瞬のたじろぎが見られた。
シレーヌは視線を落とし、ダリアと、後ろでオドオドとしているエリーとマリアに視線を向けた。
「……はぁ。それで他に要件があるのか?」
威圧感のある声色だ。
それに怯えたのは細身のマリアで、エリーのスカートの裾をつまんでいる。目を伏せ、決してシレーヌと視線を合わせないようにしていた。エリーも寄り添うようにマリアに一歩近付く。
シレーヌは勘違いをされやすい。
世話好きなのだが、口調や顏の影響で一人が好きだと思われがちである。また、美人で愛想がない故に無口だからつまらなく人間味のない造り物だとも誤解されることも少なくない。
整った顔立ちの人間は時として恐怖心を煽る。
ダリアは下唇を噛みながらシレーヌを睨んできたが、最初の勢いは消えていた。所詮は箱庭の娘であると、シレーヌは呆れた。
「生徒会に興味が無いだけで、アルテミス様を蔑ろにしたつもりはない。所詮はただの平民である私には身分不相応な役割だしな」
適当な言葉選びだったが、シレーヌが身の程を弁えていると捉えたのかダリアたちの目には光が宿った。
「それならいいのよ」
シレーヌはダリアたちの単純さに、胸が擽られた。
表情がコロコロと変わる少女たちは、大人なんかより遥かに可愛らしい生き物だ。シレーヌは頬を緩ませ、先輩を見つめる。
「……ふふ、可愛いな」
話は戻るがシレーヌは美人である。
そのせいで色々とあり顔を隠す生活を送っていた時期もあるくらいには人を狂わせる風貌をしている。
「?顔色が悪いが大丈夫か」
「ぁ、あ」
人を狂わせる顔なだけではない。仕草ひとつ、目線ひとつで取り憑かせるような何かを持っている。それはオーラと言うべきか、滲み出る色香からくるものか。
無邪気さや抗えぬ魅力かもしれない。
「ああ、顔色が悪い」
「っぁ……は」
何に惹かれ、ツボを押されるのか。それは個人により様々だが、いうなれば信仰対象へ向けるそれに近しいものだ。
依存か崇拝かは、個人により異なる。
しかし普遍的でも、超人的でも、人を惹きつける何かを持つ人間は一定数いる。
「体調が悪いなら休んだ方がいい。保健室に行った方がいいと思うが、歩けるか?」
「う、ううう……っお、覚えてなさい!いく、いくわよ二人ともッ」
扇を強く握りしめたダリアが取り巻きを引き連れしっぽを巻いてその場から去る。
逃げた姿に、シレーヌは元気そうだと安堵した。
「時間を取られたな。早く本を探さないと」
何事も無かったかのように、シレーヌは目的の本を探しに向かった。
シレーヌ・バレットは、恐ろしい女だと後に語られる。
料理が好きで、世話をするのも嫌いではない、魔術も勉学も少し人より優れているだけの少女。ただ一つ、顔立ちが人離れした美しさを持っているだけの、普通の子供なのにも関わらずだ。




