4-4 薄曇りの日常
十月も後半を迎え、日照時間が少なくなる。
となると冷え込む時間が増え、シレーヌは嫌気がさしていた。
シレーヌは、見た目や性格に反して寒い時期が嫌いだ。こういった日は温かいミルクでも飲んで部屋で休んでいたい。
「生徒会役員に誘われたって噂になってたよ〜、シレーヌちゃん」
ぬるりと現れたゼロスがシレーヌに声をかける。背丈が同学年の中でも頭一つ抜けて高いゼロスであるが、動作一つとったら、あざとさがある。ゆったりとした動作で余裕が見えることと、話す時に顔を近付けて首を傾げるものだから、女子生徒の中でも人気はある。
シレーヌが菓子を上げた時食べている姿は餌を貰った犬と同じレベルの可愛さだと言われているゼロス。何故か貴族令嬢に好かれやすいが、おおよそペットのような扱いだ。
「何故知っているんだ」
「教えてもらったんだ〜、シレーヌちゃんが上級生籠絡させたって」
「は?」
「にしても良くやるよねぇ。相手はあのベイリー公爵令嬢なんだか」
シレーヌはゼロスの口に生チョコを差し込み黙らせる。目を輝かせたゼロスはそのままちょまちょまと生チョコを食べ始めた。
「犬ならチョコはあげられんな」
「?」
大型犬に揶揄される男を嘲笑し、シレーヌは箱詰めした生チョコを差し出す。
甘いものが好きなのかゼロスはシレーヌの作る菓子に目が無い。特にチョコレイトの類には食い付きが良いように思えた。
「……ふは」
幼い頃から餌付けをしたノアを思い出し、シレーヌは吹き出す。手で口を抑え、抑えるが微かに漏れる笑い声にゼロスは疑問符を浮かべた。
「生徒会役員なるの?」
「ならん。興味無いし、放課後は自由に動きたい」
「好きだねぇ。珍しいよぉほんと」
「それは自覚している」
「食べられれば、なんでもいいじゃん」
「私はそうではない」
アリーオン王国では食は最優先事項に当てはまらない。キッチンが汚れるし、最低限栄養は摂取する程度だ。
勿論例外はあるとはいえ、食事よりも日頃の生活を豊かにする事に焦点が当てられる。
それでも、シレーヌは誰かに作ったものを食べてもらうという行為が好きであった。勿論作るのも、買い物をしながらメニューを考えるのも、食べる姿を眺めるのも。
稀有な性格だと自覚はしているシレーヌだが食べることこそが至高だという考えなのだ。
変わり者だと言われようが、これだけは変わらない。
「でも、シレーヌちゃんが作る料理は美味しいから二番目に好き」
「なんだと。一番じゃないのか」
「そりゃそうだよ〜」
「そうか」
ショックを受けているシレーヌに、ゼロスは微笑ましげに目を細める。
この男は平然とこのようなことを言うデリカシーの無さがある。二番目だろうと言わなければいいのに。
「アスターならば世界で一番美味しいと言ってくれるな」
「重いねぇ」
「まともに食べん奴が自ら強請るんだぞ?言うに決まってるだろ、拘りないし」
「誰にでもポンポン言い出いそうだねシレーヌちゃんの中のアスターちゃん。動物とかだと思ってる?」
アスターの淡白さで、褒め言葉を向けられれば満更でもない。シレーヌも嬉しくて、つい作りすぎてしまうだろう。
もし仮にだ。聖女候補という事を抜きにしても、あっさりとしており、他人に興味のない評価の高い人間から賞賛されたのなら。誰でも勘違いをしかねない。
「……アスターは大丈夫だろうか」
白魔法の使い手であるアスターにその心配は無用だろう。華奢に見えて、物理では多くの者は勝てない実力の持ち主だ。
シレーヌは深く溜息を吐きながら、憂いを帯びた瞳で外へと視線を向けた。
薄暗い雲が空を覆っている。




