4-3 美女イコール
放課後の寮のキッチンで菓子作りに励むシレーヌは、今日も今日とて黙々と作業をしていた。
「見てて楽しいですか?」
「ええ」
癖のない髪の毛を耳に掛け直した美女は、射抜くような目でシレーヌを観察している。
ガトーショコラの一件から謎にエンカウントするようになった先輩。未だ名も知らない相手であるが、シレーヌの作った菓子を余程気に入ったのか、こうしてキッチンに現れるようになった。
なんとなく、シレーヌはサバランを思い出す。
キッチンで菓子を作ってやった日が以前あったが、無言で見てくるのだ。手伝うか聞けば首を振り、シレーヌの手元ばかりを見てくる。
菓子を美味しそうに食べるので文句はないが、食べるのならば紅茶くらいは入れて欲しいものだ。
「あとは冷やすだけですので、作業は終わりです。出来上がったら食べますか?」
「貴方がいいのなら戴くわ」
「ダメなら声をかけません」
ブラックチョコ、ミルクチョコ、ホワイトチョコの三種の生チョコを試作がてら作った。
試作品を貴族の娘に食べてもらうのは些か気が引けたが、先輩があまり気にしていないのならばいいとシレーヌは判断したので、問題は無い。そう信じている。
「御礼は何がいいかしら」
「結構ですよ。作ったもの食べてもらっているだけですし。それに」
ガトーショコラを渡した後日。
キッチンにてクッキーを作っていたシレーヌの元に現れた先輩は、それはもう高級な茶葉をシレーヌに渡しに来た。
『今はこれくらいしか渡せないけれど、また後で良いものを選んでくるわ』
その茶葉で、一体幾つ宝石が買えるのか。
シレーヌは丁重に受け取ったが、それ以降怖くて一人で飲めずアスターの勉強時間の合間に飲ませている。
それ以降、彼女からは下手に御礼を受け取らないようにしている。
シレーヌは自らの料理の腕には自信がある。幼い頃から料理を作り、賢者たちに美味しいものを与えられてきたシレーヌは舌にもそれなりに自信があった。
だからこそ、素材で大きく差が出る事を知っている。菓子を作る上での適材適所はあるのだ。
「食べてくださる人がいると嬉しいですから」
父に初めて料理を作った時の事を鮮明に覚えている。料理本と睨めっこしたり店の人に相談したりして作ったオムレツ。
形も歪で、正直言えば味もさして美味しくはなかった。それでもアヴィスは、笑顔で完食をしてくれたのだ。
「……将来は料理人にでもなるの貴方?」
「今の所は特に決まっていません」
何になりたいか、夢を持った経験があまりない。
それはもう、昔ガレッドのお嫁さんとかそういったものは夢見ていたが、自分がなりたいものが想像できなかった。
そもそも、生まれながらに将来の進路などがほぼ決まった社会で自らのなりたいものと言われてもてんで難しい。
農民の子供は農民に、商家の子供は商人に、貴族の子供は貴族に。
代々続く家柄とはそんなものだ。
「そう。ねぇ、貴方」
「はい」
「生徒会役員に興味ないかしら」
人の縁とは誠に不思議なものだと、シレーヌは思う。
数多いる生徒の中で、偶々交流をしていた先輩がまさか次期王妃なんて、誰が想像ついただろうか。




