3-4 宝石のありか
翌日。
幸いな事に雨が止んだ朝。
シレーヌはアスターと共に温室に訪れていた。早朝ということもあり、温室には誰もいない。
「可笑しい所あるかな?」
白を基調とした温室は、植物園というには緑が少ない。花が剪定されて並ぶ姿は美しくはあるが、宮廷の温室に比較すると質素に見えた。
こればかりは管理者の違いだろう。
「窓が空いているな……ふむ」
「犯人わかったの?バレット」
「いや、確信までは至ってない。予想だ」
温室を一通り見て回ったシレーヌたちは、外へ出る。
ぐるりと大きな建物を一周し、地面に落ちていたあるものに目がいった。
「アスター」
「どうしたのバレット」
「これ見ろ」
アスターは温室の近くに落ちているソレを見て、シレーヌの考えを理解したようだ。
聖女候補は察しがよくて助かる。
「あたし、さがしてくるね」
「私は校舎側の方を見てくる。ある程度見終わったら温室前に集合だ」
シレーヌの予想通りならば近くに犯人の手掛かり……があるはずだ。
「それで、なんの用?」
語気の強いハンナが、チラリとシレーヌを見る。
苛立たしげというよりかは、焦りの見える様子だ。
昼休み。
二年生の教室までハンナとミラーを呼び出したのは犯人を見つけたからだ。シンとシレーヌの呼び出しに二人は大人しく着いてきた。
「犯人が分かった」
「本当!?どこのどいつよ」
「落ち着いてください。キディアとガラシア様が連れてきますので」
シンの冷淡とした声にハンナは視線を逸らし、腕を組んだ。
よほど、婚約者から貰った髪飾りが大切なのだろう。
一方でミラーは他人事の顔をしていた。容疑を一時的にでも掛けられたのに、あまり気にする様子はないあたり流石だ。
「シンちゃーん、シレーヌちゃーん、持ってきたよ〜」
「代わりのものも、作ったから一旦は大丈夫」
薬草の林から現れたゼロスとアスター。
ゼロスの軍手をはめた両手には溢れんばかりの巣が持たれていた。
「巣?これは?」
「烏の巣だ。中を見ろ」
シレーヌの言う通り、ハンナが素の中身を覗けば宝玉が二つ。陽の光を帯びて反射する。
「万年筆と、髪飾り!」
ハンナが中にある髪飾りぬ手を伸ばそうとした所、ゼロスは両手を上げて回避した。
「ちょっと」
「鳥はねぇ菌をいっぱい持ってるからさ、咥えたもんは消毒した方がいいですよ〜」
取り下げた巣をアスターに差し出す。二枚の布でそれぞれを取り出し包んだ後、髪飾りをハンナに渡した。ハンナは大人しく受け取ると、安心したのか目元に薄らと涙が浮かぶ。
「宝石はアルコールで変質する可能性がある。きをつけろと使用人たちには一応言っておけ」
ハンナに釘を刺せば、コクコクと首を縦に振った。
烏はキラキラしたものが好きだ。それだけでなく、赤にも反応する。
以前アヴィスが貰ったという小さな硝子細工を窓辺に置いていたが、窓を開けていた隙に烏に盗まれた事があった。
アヴィスは対して気にしなかったが、シレーヌは未だにプレゼントした主に申し訳なく思っている。
「わたしは何故呼ばれたの?」
シレーヌに視線を向けるミラー。
「当事者だったからな。一応解決した事は知っておいた方がいいだろう。それに、個人的に聞きたいことがあってな」
「わかった」
冷たい風が肌を掠める。
シレーヌは身震いをして、二の腕を摩った。
寒い時期はやはり嫌いだ。
ココアでも飲みたくなるとシレーヌは寮のキッチンを思い返した。残念ながらパウダーは無かったはずだ。
「犯人は見つかったみたいだね」
この場にいた誰でもない、甘い声の持ち主が現れる。
灰銀の髪を持った美丈夫であった。背丈はシレーヌより二十センチ以上は高く、ゼロスよりも高い。
体格こそ良いが、その上にある顔立ちは女性ウケする甘いマスクであった。
「キディア、万年筆見つかったかい?」
「はぁい。こちらですよ」
アスターから渡された布を捲り、中身を確認する美丈夫。
「ありがとう」
話で聞いていた人物の予想とは全く違った。
なにより、宝飾が施された万年筆が入学祝いとなれば勝手に貴族だろうと予想していたが、胸にバッジはない。
「ジョリー様……」
シンがポツリと呟いた。
「久しぶりだね、シン」
どうやら、シンと美丈夫は知り合いらしい。




