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カラミティ・シークレット  作者: 雪村蓮
第2章:列車編
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2-9 不安の種火

「ありがとうございました」


 教材をアタッシュケースに詰め込んだシレーヌは、重たい荷物を浮遊魔術で浮かせながら帰路に着く。


「ガラシア様」

「同じ学校に通うんだから様付けいらない。あと、ガラシアと呼ばれても反応できない時あるから名前で呼んで」

「そうか、わかったアスター」


 名前を呼べば、アスターは満足気に笑う。存外大人びた笑みを浮かべるアスターを意外に思いながらも質問を投げかけた。


「そういえば何故貴様はあの場に現れたんだ」

「司祭が派遣させたの。最近は騎士団の人達と一緒に魔獣を狩ったり、事件の対応をしてるの。今回もその一つ」

「なるほどな」


 司祭なりの手配なのだろう。

 聖女候補の社会見学と体験。


 随分前に見かけたが、企事に無縁そうな無害な顔の割に政治に関与する立場なだけはある。 


「早く帰ろ。寄り道したら怒られる」

「そうだな……ん?」


 シレーヌが視線を向けた先、何やら騒がしい音が聞こえる。

 曲がり角をぬけた先の広場では露店が並んでおり、老若男女が和気藹々としていた。


「今日はマーケットの日だった」

「ふむ、そうか」


 所狭しと並べられた屋台には、人集りが出来ていた。聞こえてきた音の正体は人混みと、中央で演奏する音楽家たちのものだろう。

 民衆音楽に道行く人は楽しげに聞き入る。


 シレーヌも釣られるようにアスターの手を引いてマーケットの中へと足を踏み込んだ。


「ちょっとくらいならいいだろう。甘いものは好きか?」

「だ、だめ。言うこと聞かないといけないよバレット」

「すぐ戻るから平気だ。で、どうなんだ?」


 アスターが強い力で引き止めるが、シレーヌはあっけらかんと笑う。


「好きかどうか、よくわからない」


 シレーヌはアスターの回答が納得いくものではなかったのか、足を止める。

 こういう時はどれを買えばいいのだろうか。


 露店には何度か足を運んだことがある。ここではなく、アヴィスの仕事で寄ったついで程度だ。

 甘いものが好きなアヴィスは、よく露店で飴細工を買ってくれた。


「それじゃあとりあえずふたつ買うか」

「え」


 入口から比較的近い店に目をつけて、店主に声をかける。

 美術品の如き精巧な飴細工にアスターは感嘆の声を漏らした。


「飴細工といってな、知ってるか?」

「しらない」

「基本鑑賞目的のものが多いんだ。だが露店のものは食べることを目的にしてる、これはレインバタフライの飴細工だな。露店のものにしては綺麗だ」

「レインバタフライは知っている。雨が降る時、空に舞う蝶」


 アスターはまじまじと飴細工に視線を合わせた。


「見事なものだな店主」

「はは!あんがとよ嬢ちゃん。買っていくかい?」

「二つ頼む」

「あいよ」


 串を手渡しで渡され、シレーヌはそのうちの一本をアスターに渡した。恐る恐ると串に触れるアスターは、両手で受け取った。


「食べながら少し話すか。交渉で遅れたとでも言っておけば大丈夫だろう」

「あ、お金」

「護衛の代価だ。安いものだが気にするな」


 アスターは納得した表情を見せて、飴細工に目を向けた。


「人通りの少ないところがいいだろう。壁際で食べるぞ」


 そのまま二人は騒がしい中央ではなく、静かな入口の方へと戻った。


「どう食べるの?」

「舐めたり、噛んだりだな。まぁ最初は味を楽しむのに舐めた方が」


 シレーヌの説明の途中で、ガリガリと飴細工に噛み付くアスターの姿に司祭の言っていたことがわかった。貴族の振る舞いでは確かにない。


「ところで、今回の誘拐事件。貴様はどう思う」

「ガリガリ、ボリボリ」

「……聞くだけ聞いていてくれ」


 満足して貰えたのならいいだろう。

 シレーヌは豪快に噛むアスターを尻目に話を続けた。


「誘拐事件、間違いなく魔術師が関与しているだろうということだけは判明した。誘拐方法も、あの魔術式を使ったのだろうな。媒体に何かしらを利用しただろうが、魔鉱石は一般流通で通っていない」


 モンドを狙ったのは、媒体として価値が非常に高いだろう。純度の高い魔鉱石には、魔力が多く錬金術で使用される。

 学園や宮廷、研究室などでの利用はされているが流通に関しては検閲が非常に厳しい。貴族でさえも、個人使用は法で禁止されている。

 簡単な話、魔術師が足りない魔力を補う事が可能な代物だからだ。


「おそらく狙いはモンドだったのだろうな。副産物でアリアも、という魂胆だったんだろう。子供に持ってこさせたのは、咄嗟に逃げ出す事ができないと踏んだのか、それとも子供の方がよかったからなのか」


 しかし問題は何故首都まで呼び寄せたからなのか。モンドが欲しいだけなら、ゼー地方でのどこかでも良かったはずだ。


「首都になにかしらあるのか?それとも縛り……犯人の狙いが全くわからん」

「……大量の人と魔鉱石、生贄にでもするんじゃないかな」

「いけ、そんなこと軽々しく言うなっ」


 アスターはあっけらかんとした様子で呟く。

 何故怒られたのかわからないと言った様子なので、シレーヌは深々と息を吐いた。


 証拠隠滅を早く済ませようと、飴細工に口をつける。

 砕けた飴細工のような、悲惨な結末を迎えなければそれだけで十分だ。

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