2-8 困った監視役
ルミナス王立学園の制服を主に取り扱う専門店「ハーゼンバウ」の鐘を鳴らす。
現れた客人に、スタッフである婦人が声をかけた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
化粧をした華やかな女性は、スーツを上品に着こなし客人を出迎える。姿勢を伸ばし、力強い目で捉える姿は圧倒的な存在感があった。この店のオーナーなのだろうと予想しながらシレーヌは頭を軽く下げ、入学許可証を取り出す。
「制服を作ってもらいたい。合格通知が遅くなってしまい、こんな時期で申し訳ない。料金なら払うので、急ぎでお願いできないだろうか」
「確認させていただきますわ」
モノクルを取り出して耳に掛けた婦人は、マジマジと書類に目を通す。仮にも王立学園。不届き者が紛れ込まないように資料の確認は義務付けられている。
「えぇ、間違いないですわ。それじゃあ採寸いたしますので奥までいらしてください」
「はい。それじゃあ少し待っていてくれアスター……アスター?何故ついてくる」
「ついて行かなきゃ何かあった時守れない」
「いや、流石に大丈夫だと思うが……」
アスターの目は真剣だ。曇りひとつ無い眼に、恥ずかしいからと拒否するのはこちらが自意識過剰なのではないかと錯覚させる。
婦人に視線を誘導させれば、ニコリと穏やかな笑みを向けられた。
「ガラシア様、布一枚で遮断はさせてもらいますわね。いくら乙女同士とはいえ、他人の身体を不躾に見るのはマナー違反ですもの。勿論私たち職人もですが」
婦人はそういうなり天井から垂れる布でシレーヌの姿を隠した。カーテンの裾が左右に揺れるのを観察していれば婦人は服を脱ぐように指示した。
身体を覆い隠す薄手のガウンを渡されたので、シレーヌは一人カーテンの中で着替える。
シレーヌも、こういった事にはあまり慣れていない。オーダーメイドで服を作る必要性はあまりなく、被服店での購入が主だからだ。
稀に賢者たちに服をプレゼントにするからと、目玉が飛び出るような服屋に連れていかれることがある。その時くらいだろう。
「はい、採寸をしますので失礼しますわ」
思えば女性陣は服をやけに作りたがった。
リーゼからは顔隠すのにフリルのあしらわれたフード付きのマントを。あれはシレーヌは毎度父の仕事について行く際に重宝した。顔を見られると、面倒な事になるリスクが格段と増える。
「肩幅失礼します」
カンパネラからは、お洒落なワンピースを貰った。紺の生地に白と金の刺繍が施された綺麗なもので勿体ないとなかなか着れないでいたら、服だって寿命があるんだからと怒られた記憶がある。
「それでは背丈を測りますのでこちらに」
ランスからは社交界に出る際のドレスを貰った。あの時ばかりは首を横に振って拒否したが聞いて貰えなかったのを覚えている。
オマケにアクセサリーまでプレゼントされたあの夜は、写真撮影会がアヴィスによって開かれた。
「はい、これで終了でございますわ。お着替えのほどどうぞ」
懐かしい記憶に浸っていれば時間はあっという間に過ぎ去り、シレーヌは婦人の言う通り着替え直す。
あの服たちは、残念ながら少しばかり胸元がキツくなりマント以外は着用が難しくなってしまった。元より去年と比べて六センチも伸びたシレーヌの背丈では少し不格好だ。
「待たせたな」
「別に平気。他に寄るところはあるの?」
「あとは教材類の回収だ」
「わかった」
アスターが首をこくんと振る。
素直に頷き、特に喋ること無くシレーヌの後を着いてくる姿に既視感を覚える。
はて、なんだったか。
シレーヌが思い出そうとしていると、婦人から声が掛かる。また後で思い出そうと、シレーヌは会計へと向かった。
「最短半年くらいね。妖精達もこの時期は活発に動いてくれるから、もう少し早めに出来るかもしれないわ」
「妖精?」
「使い魔よ。私、北の方の人間だからそういったものと縁があるの」
「なるほど。無茶な要求の対応、ありがとうございます」
「いいのよ。稀に入学直前に制服を忘れていたって駆け込んでくる子もいるくらいなんだし。お金が無いから稼いで遅れたって子もいるわ」
朗らかに笑う婦人に料金を払い、シレーヌとアスターは店を後にした。




