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魔王様、顔怖いです。  作者: ふかづめ
弱者の戦い
58/142

第58話 豚と鬼

 拠点から雄叫びを持って飛び出し、自分を、そして仲間を鼓舞するようにしながら歩みを進めていく者達は、先頭を行くケンタウロスの暗い夜を照らす月明かりに輝く槍を目印にして乱れる事なく目的の場所へと前進を続ける。


 程なくして一つの大きな灯りを補足すると、そこから何をされても対応できるように注視をしながらも歩みを止める事はない。

 相対するオーガ達も流石に気づいており、既に戦闘態勢を取っている事は伺える。

 だがそれでも、先頭を行く女性が怖気づくような事は一切なく相手の真正面に堂々と構えた。

「オラトリ、あの中にシュテンとかいうのはいるか?」

「いえ、いませんね。数は姫様の言われた通りいるようですが、あの五人は別行動をしているかと」

 面倒だな、と呟きオーガ達に睨みを利かせるアナスタシア。


 現れた相手に対してオーガの一団から開口一番に出たのは敵意ある言葉でもなければ、恐怖でもない。蔑むような侮蔑の言葉だった。

「おい、見ろよ! ケンタウロスとリザードマン、あとありゃハーピーか? 雑魚共が群れて押し寄せて来やがったぜ!?」

「しかも全員が何か白いもんつけてんな! 『白旗です』ってサインか? どっちみち殺されるってのによ!」

 そう夜空に響くように声を張り上げ、大きく笑う青と黄色の肌をしたオーガ達。そして、その一団に目的の人物達がいる事に気付き、指を差して声を上げた黒い肌のオーガの発言で戦闘が更に目前に迫っていく。

「おい見ろ! 姫巫女の犬のオラトリだぞありゃ! あのメスガキやっぱりここにいるぜ!」

「てことはあの山のどっかにまた隠れてやがんな! アイツラ血祭りにしてその叫び声で呼び出してやろうぜ!!」


 いきり立つオーガの集団、その集団にアナスタシアが近づき声を張り名乗りを上げた。

「我こそはケンタウロスが戦士、白の馬蹄のウォック!! リーダーのシュテンとかいう奴はどこにいる!?」

「何だぁ!? 教える訳ねえだろ! てめえらは俺達が相手をしてやるよ!!」

 その言葉に表情はいつものように変わらないが、大きく笑い返したアナスタシアが再度相手に視線を移して口を開いた。

「ハッハッハ!! 貴様らのような雑魚では話にならんから言っている! 弱者から略奪しか出来ない塵芥《ちりあくた》は黙っていろ!!」

「んだとコラァ!! ぶち殺してやる!!」

 売られた言葉を買うように二匹のオーガが彼女に迫る。オーガ達は飛び出しながら腰の剣を抜刀し、二方向から同時に攻めるようにして一人が飛び上がりながら剣を振り下ろし、もう一人が大地から這いあがるように剣を振り上げた。


 アナスタシアがその同時攻撃を真っ向から、最小の動きと目にも止まらぬ速さでまず振り上げられた剣を持つオーガの眉間を槍で貫き、その背中から槍の穂先が飛び出している。そしてそれと同時に素早く右の手で剣を引き抜き、飛び上がったオーガが振り下ろしてきた剣を受け止めた。

 両者の腕力の成せる産物か、金属が出す悲鳴を鈍く響かせる。

「フッ、丁度良い道案内が出来たな。大人しく案内してくれれば命を拾えるかもしれんぞ?」

「アァッ!? 舐めてんじゃねえぞこのクソ駄馬がァ!!」


 その言葉を言い切った途端に、目の前のケンタウロスが高く振り上げた槍、頭を貫かれたオーガが突き刺さったままの槍をチラリと見たオーガは目の前の剣から途端に湧き上がってきた絶大な力で押され、体勢を崩された。


 後ろに仰け反るようにしてその強大な力を逃がしつつ、体を保とうと踏ん張ったところに天高く振り上げられた槍がオーガの肩に容赦なく振り下ろされた。

 その一連のやりとりを見ていた戦場全体に響いてしまったのではと思える程鈍く鳴らされた音が証明するようにオーガの頑丈な体の骨を砕き、その威力と重さで跪《ひざま》くように膝をつけられた。

「ガッァアアアアッ!」

 彼女は痛みを堪えるようにあげられた声を聞きながら、まず槍に刺さった状態の死体を薙ぎ払い振り払うようにして落とした。

 その作業が終わると目の前で蹲《うずくま》っているオーガの、砕け散った肩とは逆の肩をちらりと見てそこを深々と貫いた。

「ウワアァアアァアッ!!」

「案内をする気にはなったか?」

 痛みによって目が血走り、歯をぎしぎしと食い縛りながら睨みつけるオーガ。怒りによってその問いに悪態をつくようにして返した。

「ケツのでけえクソ駄馬がァ! 誰がテメエのいう事なんて聞くかァ!」 

「そうか」


 短く返すと、アナスタシアはそのまま槍を持ち上げる。穿《うが》たれた傷が更に抉られ先程よりも大きく叫び、激しく悶えるオーガ。その叫びを黙らせるように槍で突き刺したまま目前まで持ち上げると、自陣に戻りながらそのオーガに声を掛ける。

「案内する気にはなったか? 次はない。今ならまだ命を拾えるかもしれんぞ」

「わかったァ!! わかったからやめろォ!!」


 オーガの頑強な肉体の賜物か、アナスタシアがわざとそこを狙ったのか、理由は定かではないが出血の程度も、傷の大きさを考えればそれ程ではなく少しの時間なら猶予がある事がわかる。


 槍にオーガを刺したまま、彼女は自陣に合流して幾人かに声をかけた。

「よし! 作戦通りここはオラトリ、ペイトン、トレニィア達に任せる! シュテンとその配下の討伐へ向かうメンバーは私に続け!!」

 彼女はそう叫び走り出し、その言葉に事前の作戦で選出された者達も叫びながら続いて走り、飛び始めた。


 ――ペイトンサイド――

 嵐のように行われたケンタウロスの暴挙に、オーガ達は既に激情にかられ襲い掛かろうと走り始めている。それを眺めてペイトンが代表して声を張り上げた。

「槍隊は前へ! 遠距離部隊は撃ち込みつつ遊撃! 散り散りになるな、纏まって行動しろ!」

「剣隊、私に続け! 奴らを屠《ほふ》るぞ!」

 オラトリが続けた言葉で槍と剣を持つ者が相手を前方で待ち構え、その後ろからハーピーが空から守る弓と弩の部隊によってオーガが撃たれ倒れていく。だがその攻撃に怯む者はなく詰め寄せた一団と武器を交えたペイトンら。

 激しくぶつかり合うそれを見て闇に溶けるように動く影が二つあった。

それは妖しい真紅の光を伴った大きな影が一つ、そして二つ目の影が同じ肌の色の鬼が固まるようにしてオラトリに迫っていく。

「オラトリさん、この眼のお礼参りに来たよ」

 剣を抜き袈裟に振り下ろす黒い肌のオーガがそう呟いた。彼女は以前つけられた傷を隠すように眼帯をしている。

「フォニア、貴様では私には勝てんぞ」


 以前対峙した時とは違い、今は全てが充実した状態。更に先程託された武器でその攻撃を弾き返すオラトリは余裕を持って返すが、その言葉が終わるとフォニアと共に動いていた黒い肌のオーガ数人に囲まれた。


「今回は最初から複数でいくよ、また目を潰されたら堪んないからね」

「いいだろう、この武器に誓って私に敗北はない。姫様を苦しめた罰を受けるがいい」

 そう口にしていたところで、後方より音も無く横に払われた剣を屈《かが》むようにして躱《かわ》し、相手の体の中心に十手の柄を叩きつけ仰け反らせたところを返す刀で続けざまに武器を振り下ろし相手の脳を砕いたオラトリ。その一瞬のやり取りを合図に、黒い肌の一団が一斉に彼女に襲い掛かった。


 縦に下ろされる剣を紙一重で躱し、足を狙う攻撃を十手で防ぐ。再度死角から背を突くように伸びてきた剣を横に避け、伸びた腕を脇に挟むと一息でへし折る。

 一人、また一人と包囲の陣から欠けていくが、フォニアと呼ばれる女性がそれを気にする事はなく、自身も攻撃を仕掛ける。

 彼女は仲間が倒れる事を悲観する事なく楽し気に、まるで児戯のように両手に握りしめた短刀を使って敵の腕を狙って切り裂いた。

「フフフ、前と同じ場所を切ったかな? ごめんね、治ったばかりだろ」

「気にするな、こちらも同じ事をしてやる」

 彼女は守りを主体に後の先を取っていた構えを解き、距離を取ろうと軽快に下がった相手に一気に近づき憎まれ口に被せるようにそう口にした。


「うっ……!」

「これでお互い様だな、いや前回と違って潰れる目はないか」

 肉薄された事でオラトリの得物を警戒していたフォニアは眼帯の上から予想外の攻撃、拳で殴られて呻《うめ》き声が漏れた。その力が凄まじく、体ごと吹き飛ばされ地面を転がされたが彼女は更にそれを楽しむように笑顔を浮かべ即座に立ち上がった。


「フフフ、楽しいなぁ……。あーやっぱり巫女様裏切って正解だったよ! こんな気分が味わえるんだもの!」

 彼女はそう叫びながら全力で彼女に迫る。

 そして残っていた黒い肌のオーガ達も再度四方から攻め立てようとしたところで、一つの方向へ飛び出すオラトリはそのまま構えた十手を全力を持って振り下ろす。

 ぐしゃりと潰された命を気にする事もなく、次の標的へと向かった。

正面から突き進み攻撃を繰り出そうとすると相手はそれを待ち構えるように、武器を前に構えるが十手が武器目掛けて振り下ろされると同時にそれを手放し、オラトリの腕を掴み動きを封じる事に成功した。

「お嬢、今だ!!」

「ナイスッ!!」

 黒い肌のオーガが叫び、それに呼応するようにフォニアがオラトリの背中に逆手に持った短刀で切り払った。


 斬られた事に顔を少し曇らせたが、十手を手放すと掴まれた腕を掴み返す。そのまま全力を持って捻り上げた。激痛に喚く男性とそれに構わず次に致命傷を入れようと短刀を刺し込もうとするフォニア。

 オラトリは素早く目の前で叫んでいる男を突き出して、その凶刃を避けた。

 ほぼ致命傷と思われる位置に短刀が刺さると、男は少し呻いた後に静かになっていった。

「これで殆ど鉄鬼はいなくなったな? どうする? 続けるか?」

「勿論。こんな楽しい思いをさせてもらって巫女様には感謝してるよ、最高だね!」

 十手を拾おうとしたオラトリに向かい短刀を投げつけ、新たに逆手で携えている武器を抜いて再度迫るフォニア。

 オラトリはその短刀を左の掌で受け止め、逆の手で十手を拾い握りしめた。

「この武器は『悪を討つ武器』らしい。オーガという種族として見れば、お前達がやっている事は当然の帰結なのかもしれない。だが……」

 オラトリはそう呟いて迫る刃を十手で受け止め、全力で弾き返した。その勢いで後方に軽く体を飛ばされるフォニアは体勢を立て直し、再度跳びかかろうとした。


「だが姫様を苦しめる者は私にとっては『悪』だ! そんなお前達を許す訳にはいかない!!」


 跳びかかろうとしたフォニアが動き出す前に、既にそこを狙い済ませたように迫ったオラトリが握りしめた十手を一気に振り下ろした。

 逆手に持っていた二本の短刀で十手を挟み込むようにして受け止める為に構えたフォニアの武器は、オラトリの剣圧と鉱石の強度を持ってへし折られ、交差していた腕ごと頭を殴りつけ、勢いそのまま地面に顔を叩きつけられ大地に沈んだ。


「――成敗」

 彼女は十手を軽く振うと、ペイトン達の元へと駆けだした。



 ――オラトリがフォニアと対峙し、暫くしてからペイトン達は追い込まれていた。

 流石は戦闘を好む種族、数がほぼ同数という事もあり、更にペイトン達は戦力の中心をオーガのリーダーに差し向けるようにしていた為、苦戦を強いられていた。


 だが、ペイトン達は勿論オーガ達も気づいてはいなかった。

 青い肌、黄色い肌をした鬼達は闇の中で一人、また一人と消えてその命を散らしている。そして鬼の中で激しく動き回る真紅の光に気づいた者は大きく叫んだ。


「あ、アラクネだ!! おい、お前ら手を貸せ! 火をグアッ」

「……これで何人目……? 群れすぎで疲れる……。うわっ……?」

 闇から闇へと、静かに。だがこの戦場で誰よりも速く動き続けて相手の息の根を止め続ける彼女は、今あげられた声により気付かれ周囲に火を放たれてその姿を明るみに出された。

 仕留めた相手の数を語る夥しい返り血が、鋭い外骨格につけられた白い防具をその目と同じ真紅に染め上げている。

「アラクネだとォ!? 糞虫の分際で調子こいてんじゃねえッ!」

「やっちまうぞ!! 足狙え足!!」

 彼女はあえて避ける事も、その攻撃を返す事もせずに相手に自由を許した。

 彼女本来の体の色とは違うその白銀の装甲に向かって振り下ろされた剣が奏でる高く響く金属音、オーガの力が影響したのか、彼等の武器に致命傷とも言える亀裂が入る。中にはその剣圧によって剣が無残にも折れてしまった者もいる。


「か、かてえっ!! なんだこいつクソかてえぞ!!」

「剣が、剣が折れたァ!? おい! 他に武器はッガ……!」

 彼女は慈しむように血で染まる真紅の装甲を撫でると、一言呟きながら目の前のオーガを処刑する。

「ホリ……、いい仕事してるよ……。私頑張るね……」

 オーガの喉仏に足を突き刺したトレニィアは、使い物にならなくなった武器を投げつけ逃げようとするオーガの背中に一瞬で迫り、足を振り下ろした。

 小さな悲鳴が聞こえたと同時にその足を抜き、虫の息になったオーガの頭に再度足を振り下ろし確実に潰すと、視線をペイトンに移す。


 そこには数的に有利になった一団の中で、ペイトンが一際体の大きな青い肌のオーガと対峙していた。加勢しようとトレニィアは近寄るが、彼は相手と睨み合うようにしながらもそれに気づき、笑顔を浮かべて彼女に叫んだ。

「トレニィア殿! こいつは私に任せて他を頼みます! なに、コイツ如き倒せないようではホリ殿に顔向けできませんからな!!」

 トレニィアはそれを聞き、頷いて返すと再度闇に溶け込むようにして消えてしまった。


「豚が調子に乗るな!! 捻り潰してくれるわ!!」

 その言葉に頭に血を昇らせ、苛立つオーガに真正面から相手の体を目掛けて槍を突き出したペイトン、そしてそれを刃の腹で弾くオーガは叫びながら攻撃に転じた。

「雑魚が! 舐めるな!!」

 弾いた槍の柄を剣で叩きつけ、バランスを崩させると勢いよく剣を振り回す。オーガはペイトンの頭に刃を振り下ろし、更に腹、腕、足を斬りつけるように斬撃を見舞う。何度も振り抜かれた剣の乱舞で勝利を確信しているオーガは鼻で笑うように目の前のオークを見下した。


「フン、豚如きが調子に乗るからだ」

「甘く見るなよ!!」

 ペイトンがぎらりと目を輝かせ、叫びを上げながら一直線にオーガの肩を槍で穿つ。装甲によって守られたその体は深手を負うような傷を弾き、彼の命を守り続けている。

 あれほどの斬撃を浴びせ尚生きているという事実に困惑して、傷に呻く青い肌の鬼は、自身の体から噴き出る血を目の当たりにして再度怒りに身を任せ、槍を掴みペイトンを蹴り飛ばした。そのオーガの象徴たる力の入った蹴りをまともに喰らってしまったペイトンが武器を手放し、吹き飛ぶように地面を転がる。そしてそこへ更なる追い打ちを掛けようと一気に迫るオーガ。

 僅かにペイトンが立ち上がる速度が上回ったが、それでも目の前のオークが腕を上げガードの体勢を取ろうが構う事なくその防御の上から大きく振りかぶった拳を叩きつけた。


「うぐっ!」

「何故平然としている、たかが豚が! 剣が利かぬなら殴り殺してやるわ!!」

 肩口を槍で抉られた筈なのに、平然と拳でペイトンを殴り続ける鬼の形相は恐ろしく、弱者を嬲り悦に浸っている者のソレだった。

 ペイトンはそれから数度顔面を殴られたり、腹を蹴り上げられたりとしたが両腕で致命傷になる部位を守りながら耐え続けた。

 だが、脇腹を抉り込むように蹴られ、腕が下がったところを鬼の拳がまさに会心の一撃として顔面に突き刺さり、オーガが下卑た笑いを浮かべながら再度腹部を蹴り上げようとしたのを、ペイトンが歯を食い縛り受け止めた。

「ガァァァァァアアア!!」

 威力を殺す事は出来ないが、その片方の足を掴み、それを離す事なく怒りの赴くまま力任せに振り回す。

「な、何ィ!!」

 そして地面に一度勢いそのままオーガを叩きつけた。叩きつけられた盛大な音でどれだけの衝撃を与えられているのかは明白だった。

「ウグゥオ!!」

 オーガはそうして体の前面を強く地面に叩きつけられ大きな声を上げるが、ペイトンはそこで止まる事なく掴んでいる足を即座に、今度は反対方向に振り回すようにしてオーガを地面に叩きつける。

「グウァ!!」

 今度は体の後面と後頭部を強打して、意識を軽く飛ばしたオーガはすぐに意識を取り戻したが、抵抗する術もないままオークにされるがままになってしまった。

「ウガァァッァアアアア!!!」


 更に大きく叫んだオークは止まる事なく、そこからオーガを振り子のように地面に叩きつけ続けた。回数が重なっていく毎にオーガの体から噴き出す血の量が多くなり、そして以前に言われたアドバイスを無意識に守るようにして頭が潰れるまでそれを繰り返した。

 そして亡骸となったオーガを力の限り放り投げるとペイトンはそのオーガだった肉塊を見下ろして一つ言葉を吐き捨てる。


「豚を舐めるな、鬼如きが」


 そこで緊張の糸が切れたからか、一気に溢れてくる疲労とダメージに抗えず尻餅をつき、荒くなった呼吸で体に酸素を送り続けながら戦況を確認する。


 見ればそこはトレニィアが作り上げ続ける殺戮の場に、更にオラトリが加わりオーガ達は阿鼻叫喚と命を散らしていく。

 ほぼ確実になった、目前に迫っている勝利を感じたペイトンはそのまま後ろへと倒れ込み、星空へと握り拳を上げ小さく呟いた。

「ホリ様、我らは勝ちましたよ……。これで勘弁してもらえますよね……?」


 ペイトンは夜空を見ながら呟くと、そのまま体を少しの間休めた。ホリの防具により斬られたダメージは少ないが、頭部や腕には血が滲んでいる箇所もある。

 そして呼吸を整えると、愛娘に渡された薬草汁を頭から被り気合を入れ直して再度仲間達の元へと駆けつける。


 彼らの勝利は最早揺るがない。

 その僅かな時間の後に、ペイトンが勝ち鬨を上げると死者のいない味方達からは歓喜の声が夜の空に響き渡った――


 ――その時、ホリは夢の中で巨大なスライムにひたすら吸い付く夢を見ていた――

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