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魔王様、顔怖いです。  作者: ふかづめ
弱者の戦い
59/142

第59話 静かに燃ゆる

 アナスタシア率いる一行は槍に肩を貫かれ、その痛みで喚く男の導く先へと急ぎ向かっていた。そして嘆きの山を左に見る形で少し行くと目的の人物達が現れた。

 敵の接近に気づいた鬼の一団、そのリーダーシュテンは懐かしい物を見るようにその目的の人物へ極めて明るく声をかけた。

「おお? ウォックじゃん! 久しぶりだな、オレの事覚えてるか!?」


 敵の中の一人、オーガ特有の赤い肌に金の髪を一つに纏め上げ、男性と見紛う逞しい体付き、そしてその背中には特徴的な、体に負けじと逞しさを主張をする大きな鉈。その女性のオーガにそう声をかけられたケンタウロスが、顎に手をやって頭を捻っている。


「知リ合イナノ?」

 アリヤがアナスタシアに目を向け質問を投げかける。だが問われた本人がまるで思い出せないというように目を瞑り唸り続けていた。


「んんん……? おおっ、前に話しただろう、私に勝負を挑んで来た奴だ」

 声をかけてきたオーガを凝視し続けた結果出てきた答え、先の戦争の際に手を合わせたと言っていた相手。アリヤ達はその話を思い出したのか、手をポンと一つ叩き納得をした。

 アナスタシアは約束を守り、槍に突き刺さり今なお騒ぎ立てるオーガをその一団の目前へと放り投げた。

「しゅ、シュテン!! 敵の襲撃だ! あいつら巫女の仲間らしいぜ!!」

 身を貫いていた槍から解き放たれたオーガは、動かす事の出来ない両腕を庇いながらも立ち上がり仲間に近寄りながらそう声をあげた。

「んん~? オレも馬鹿じゃねぇ、見ればわかるよ。大変だったなぁ……!」


 シュテンは足元へとやってきた仲間に笑顔で声をかけながら、自身の武器の柄に手をやった。

「それに、情けねえオーガがオレ達を裏切ってあいつらをここに連れてきたって事も十分に理解してるよォ!」

「なっ……!」

 そう怒号を上げ、形相を変えながら叫んだシュテンは間近に寄ってきたそのオーガに身の丈と大して変わらない大鉈を振り下ろす。

 そして、そのオーガだった肉塊に唾を吐き捨ててその場から戻るように歩き出すと、その肉塊に火が放たれ、辺り一面を明るく包む。


「もう、臭いなぁ。シュテンもやるならもう少し離れたところでやってほしいよ」

「悪い悪い、ダセェオーガを見るとついな。ったく、汚えなぁ」

 その赤々と燃え上がる大きな炎を生み出した緑の肌をした黒髪の女性、他の者達よりも頭二つは小さく、むしろその小ささが目立つオーガと軽口を叩き合うシュテンは、再度アナスタシア達に視線を移すと大きく叫んだ。


「それで!? お前らは巫女のクソガキとツルんでるって事だよなぁ! あのガキの首を差し出してくれるなら手を引いてやるがァ!?」

 大鉈の切っ先を他種族の一団へと向けて、そう睨みつけながら叫ぶシュテンにアナスタシアが軽く首を振って返した。

「それはないな。それよりも逃げる準備をしたらどうだ? こちらはお前らのような厄介者のおかげで迷惑を被っているんでな、手荒な歓迎しかしてやれんぞ」


 その答えを聞いて大きく笑い声を張り上げるオーガ達。シュテンは担ぐように肩に大鉈を乗せ、ニヤニヤと口元を歪めながら思い出したように更に問いかけた。


「おお、そういえばお前ら人間を飼ってるらしいな? よくわからねぇが、まるでリーダーみてえな口振りだったとかなんとか。面白えから会わせてくれよ、お前らみたいなのに飼われてるクソ雑魚のツラを拝んでみてぇ。まぁ最後はどっちみち殺すけどよ。おぉそうだ! 巫女のガキの首と並べて飾ってやるよ! クソ同士並べりゃいいオブジェになるだろ!」


 そこへ大きな金棒を背負った青色の鬼、髪は金髪でリーダーのシュテンと体格的にはほぼ変わらず、むしろ腕周りだけならばこのオーガの一団で随一な力自慢だとわかる太さ。使っている武器からもまさにオーガという象徴的な青鬼の男性が両の掌を強く叩き甲高い音が響き渡り、自らの思いついた案を口にした。

「おいシュテン、それなら便所に置いてションベンの的にしようぜ! クソにピッタリな仕事じゃねえか!」

「そりゃいい! 問題は見てるだけでムカついて速攻でぶっ壊しちまうかもしれねえってところだな!」

 腰に刀を差した、自前の黒髪を剃り上げ、独特な模様のようにしている薄い黄色のような肌をしたオーガが笑いながらそう答えた。 


 そう言い放った言葉で更に笑いを大きくさせたオーガ達に怒りを燃え上がらせる他種族の面々、そして大きな声でそれを付き合いの長い者達が順に返していった。

「ホリ様ハ、クソジャナイゾ!!」

「ソウダ! フザケンナヨコノヤロー!」

 ベルとアリヤが売られた言葉を買ってしまい、地団駄を踏みながら怒りを見せる。


 それを見て逆に冷静になれたのか、軽く笑みを浮かべたゼルシュが槍を大地に突き立て、オーガのリーダーを静かに見据え言葉を返していく。

「あの人間は我らの友。飼うだ何だは知らんが、軽々しくお前ら如きが侮辱していい奴ではない。その吐いた唾はお前らの命でチャラにしてやろう」


 それを聞いたシュテンが大鉈を地に突き刺し、両手で腹を押さえ一際大きく夜の空へ向かって笑い声をあげた。合わせてその仲間のオーガ達も習うように笑う。そしてそれが落ち着くと涙を拭うようにして言を返す。


「こりゃ面白ぇ。じゃあお前ら全員半殺しにしてその人間《クソ》を嬲る所を見せてやるよ。さてと、そろそろ始めるとしようか? お喋りをしにきた訳じゃねえんだろ? 人数も丁度良さそうだしな」 


 シュテンが再度鉈を手にすると、オーガ達の散漫とした空気が一気に変わった。そして武器を抜き放ちながら一歩一歩、堂々と前へ足を運んでいく。


 それを見てアナスタシアが一言横の仲間へ言葉を投げかける。

「相手のリーダーは私が貰おう。他は任せたぞお前達」

「ア、ズルイズルイ! アリヤモヤリタイ!!」

「アリヤ、僕達ハアッチノ棍棒持ッタ青イ奴ダッテ。シーガ言ッテルヨ」


 反論しようとアリヤが顔を向けるとそこには既にボウガンの弦を引き戦闘態勢に入っている仲間の姿。そのゴブリンは先程のオーガの挑発に一番苛立っているのではという程の怒りを静かに放ってアリヤを黙らせた。


「なら俺はあいつにしよう」

 ゼルシュはそう槍で示した先には、先程挑発をしてきた内の一人、薄い黄色の肌色をした鬼がいる。

「フフフ、皆さんやる気満々ですね。ルゥシア、エンツォ。私達はあの緑色の子を担当しましょうか。やれますね?」

「うん! かあさま! エンツォ、頑張ろうねー!」

「はい! 私頑張ります!」


 ハーピーの一人が仲間を激励しながら空高くへと舞い上がった。それを見たイェルムとエンツォは、敵を待ち構えるようにして滞空する。


「と、なると私はあの白い鬼を担当ですかな」

 オレグがその鬼を見据えながら真正面で待ち構える。前からやってくる白い肌のオーガは、自分の相手を察して少し口角を上げて、隣のオーガに槍を持った手で小突くようにして声をかけた。


「おいシュテル、リザードマンが相手なんて楽そうでいいな。まぁこっちも馬相手だから大して変わんねぇけどよ」


「ティーグよぉ、どんな相手でも油断すんなって。まぁ気合の入らねえ相手だけどよぉ」

 シュテルと呼ばれた薄い黄色の肌をしたオーガがやる気のなさそうな声でそう返答しながら抜刀をしていく。それを聞いて舌打ちをした緑のオーガは、自分の相手になるであろうハーピーを無言で睨みつけて大きくため息をついた。

「あんたらはまだいいよ。私の相手なんて鳥だよ鳥。ったく、やる気が出ないな」


 それを聞いて憤慨しているのはアリヤ達が対峙する相手、金棒を持った青鬼である。彼は苛立ちを隠す事なく、地面を踏みつけながら声を荒げた。

「メイタルでやる気がでねえって言うなら俺なんて完全にハズレだ! ゴブリンだぞゴブリン!? 秒殺して終わりじゃねえか!」

「へっ、この前亜人の里で魔法ぶっ放したツケが来てんだよベイア! いいからお前らはそっちやってな! オレは久しぶりに本気が出せる奴なんだからよぉ!」

 シュテンがそう青鬼に叫びながら瞬く間にアナスタシアへと迫り、襲い掛かった。


 躍動するようにして振り下ろされた大鉈、両手で迎撃するように構えられた槍がぶつかり合う衝撃で激しく火花が飛び散り、威力の凄まじさを物語るように空気が震えた。


「へぇ、前の時と違ってその槍なら少しはもちそうだな?」

「フン、この槍を折る事はお前には出来ん。それとこれだけは教えてやろう。その人間は私の伴侶《パートナー》だ。それを侮辱したお前らは全員、死ぬ事が決まった」


 その言葉を言うと同時に、花を象った青い耳飾りが月の明かりに照らされながら一つ躍ると、アナスタシアが凄まじい力を湧き上がらせて槍を薙ぎ、シュテンの鉈を弾き返すように振り抜いた。

 その威力を鉈で受け、勢いを殺しながら後方へと跳んだシュテンの元へ意趣返しと言わんばかりに迫り、襲い掛かるケンタウロス。

 眉間を狙って月の光を浴びた槍が閃くように伸び、それを鉈の腹で受け止め再度激しい火花が起きる。

 挨拶代わりと応酬された一太刀と一突き、そして両者がそこから槍と鉈を激突させていく。

 大きく横に薙ぎ払われる鉈を槍で弾き、返しとばかりに眉間、喉、鳩尾に繰り出される三連撃を鉈の腹で受け止める。

 両者の力のぶつかり合いが始まると、散開するようにしたオーガ達を追うように各々が動き出す。


 オーガだった物から立ち上る火を頼りに視界を確保するゴブリン達。

 その正面でつまらなそうに見下す男がすぐに決めてしまおうと手にした金棒を一匹のゴブリンの頭部を目掛けて単調に振り下ろす。力を込めた訳でも、隙をついた訳でもなく、ただ金棒の重さに任せるだけの振り下ろし。

 そのあまりにも相手を舐めた一撃をゴブリンは、その独特な模様の剣を抜き放つと避ける事をせずに受け止める構えを見せる。


「ナメンナコラァ!!」

 相手の金棒を剣で受け、叫びと共に全身を使いそのまま叩き返す。

 強く上へと弾かれた金棒とその弾かれた衝撃で青鬼の時が凍りつき、目の前で補足していたゴブリンが消えた。

 そして視界の上から叫びと共に再度現れたゴブリンは、フザケた性根を叩き直すように剣の腹で相手のこめかみを殴りつけた。


 敢えて、そう敢えて勝負を決めずに剣の腹で殴りつけられたとわかった青鬼は一気に頭に血が上り叫ぶように怒号を上げる。そこへ猛然とナイフを二刀構えたゴブリンが目前に迫っていた。

 そのゴブリンが構えたナイフを迎撃する為に金棒を横に薙ごうとした時に、ピタリと立ち止まった目の前のゴブリン。そして即座にバックステップで金棒の射程外へと下がる。

 その行動を不思議に思っていると背中を襲った痛み、振り返るとそこにいた槍を持つゴブリンに横に一閃され切り払われたのだ。


 自分が背後に回り込まれた事を察知されない為のブラフ、ナイフを構えて向かってきたのはその為の行動だったを理解した青鬼は更に逆上し、真後ろにいた槍を構えたゴブリンへ一息で迫ると先程とはまるで違う鋭さで両手で握り締めた金棒を振り下ろす。


 本気になったその絶大な威力、空気を切り裂く速度、先程までとはまるで別物の攻撃で、目の前の雑魚を確実に殺したと青鬼は撃破を確信したが、それは幻に終わってしまう。


 金棒の終着点は僅かにズレた地面。


 何故だ、と気付けば先程ナイフを握りしめていたゴブリンが、今度は弩を使い自分の左腕を狙い済ませ、ボルトを撃ち込んできた。

 左腕に深々と突き刺さった矢と、その部位から噴き出る自身の血。

 弩の攻撃によって左手の支えがなくなり、軌道がブレた結果攻撃が無駄になった。

 狙った場所より外れ、地面を叩いた金棒がそれを証言するように語っていた。


 ゴブリンの頭へ目掛けて振り下ろした筈の金棒が地面を強く叩きつけ、殺ったと思ったのは幻、更に加えられた一撃。

 青鬼は手玉に取られたような感覚で更に苛立ちを強くした。


 だが、その鬼のような速度で振り下ろされた金棒が叩きつけられた地面が、悲鳴を上げるように巻きあげた飛び散る砂の礫の弾がベルを襲い、躊躇していたところを青鬼が全力で蹴り上げた。

 思い切り吹き飛ばされ、呻き声を出しながら地面を転がるゴブリンに向かって追撃を狙い走り始めようとする青鬼。だがその一歩目を踏ませまいと、足元へナイフが投擲される。

 暗器を投げつけたゴブリンを睨み、舌打ちを一つしたところで再度、視線を戻せば蹴り飛ばした相手は既に消えていた。


 互いにその殺し合いの主導権を握る探り合いのような応酬を、腕を組み静かに佇んで眺めているリザードマン。

 彼はいつもゴブリン達の息の合ったコンビネーションを見て学んでいた。声を出さずとも、お互いの行動を理解している彼らのそれを学び、活かせないかと。同族の者や、他種族の親友達と研究する事を一つの楽しみにしていた。


 自身と対峙しておきながら余所見をしているリザードマンのその余裕を滲ませる態度に「トカゲ如きが」と呟き、逆上するように放った一撃は確実に殺せる首ではなく、敢えてひらひらと踊る尻尾を刀で切り払った。


 高鳴る金属音と共に、思いがけない手応えを感じて下がるオーガ、そして今が戦闘中だと思い出したゼルシュが大地に突き刺した槍を引き抜き、正面に相手を見据えて軽く笑った。

「すまんすまん、私はあのゴブリン達の戦いが好きな物でね。オーガの事を忘れていた」

「堅え尻尾しやがって……。なら次は首を刎ねてそのゴブリン達の横に置いてやるよ!!」

 自身の速度を自慢するように、再度素早く後ろへ回り込み刀を横へ薙ぎ払う。


 今度は確実に仕留める為に、その首へと真一文字に迫る刀を、再度尻尾で受け止める。鳴り響くのは高い金属音。先程と同じ感覚が手を襲い、弾かれたのだとわかったオーガは忌々しくリザードマンを睨みつける。


 闇の中、頼りない光源で見えるその尻尾は白銀に輝いている。

 ホリがリザードマンの尻尾を守る為に作り上げた物、それは彼が昔に見た映画であった三節棍や、ゲームなどで知った多節棍がイメージの基としてあった。

 白銀の装甲が尻尾を包み、それと同じ強度を誇る糸で連結されたソレは、トカゲの柔軟な尻尾の動きを阻害する事が少なく、かつ守備力を高められるホリ渾身の作品だった。

 その作品の完成度を確かめるようにして、白銀の防具に微笑んだリザードマンは一転攻勢に出る。

 刀を構えているオーガの目前に迫り、負けじと速度を見せつけるように槍を出す。

 想像以上の速さで自身に襲い掛かる空間を貫くような突きを掻い潜り、鱗の見える腕の部分を鮮やかに切り裂くと、オーガは理解したように口元を歪めた。


「その白い部分以外は楽に切れるな、輪切りにしてやるよ!」

「やれるものならやってもらおう!!」

 再度お互いが速度を競い合うようにして切り結ぶ。

 互いの攻撃を、互いの防御の能力を惜しむ事なく発揮して剣戟を重ねていく。

 激しい攻守の移り変わりの中で、オーガとは思えぬ程繊細な、針に糸を通すような精密な剣で防具の隙間の皮膚を裂く。

 続くようにして更に繰り出される皮膚の露出した部分を狙うオーガの攻撃、それを読み尻尾で剣の軌道を弾き落とし崩れた体勢を好機と、槍を相手の顔の中心へ一閃するゼルシュ。


 その攻撃を咄嗟に首を逸らし紙一重で避け、難を逃れる鬼。だがその速度に寄る破壊力の賜物か、片耳を吹き飛ばされ血が滴るように落ちていく。


 ゼルシュは決まったと思った会心の突きを避けられ、オーガは耳を吹き飛ばされ。お互いに目を見開くようにして一度距離を取った。


「今のを避けるとは、流石はオーガ、か?」

「貴様ッ、殺してやるッ!!」


 再度激しくせめぎ合う。


 互いの力をぶつけるようにしている戦闘が多い中で、一つ異色な闘いをしている者達がいる。

 イェルム率いるハーピー達。

 彼女達の真正面で杖を持ち構えている緑の肌をしたオーガの女性は、まさに余裕という態度を隠す事なく攻撃を繰り出していた。

 小さく呟くように行使される大規模な魔法、それはハーピー達にとっては死活に関わる風の魔法。

 満足に空を駆ける事を許さない状況を作られた中で、続けるように唱えられた魔法の、降り注ぐ雷に身を焦がされ地面へと撃ち落とされる。


「エンツォ、大丈夫?」

「はい、こんなの何ともないです!」

 中空より降り立った濡烏の色をしたハーピーが、攻撃を喰らってしまった仲間へと声をかけ気遣う。

 彼女に近寄ると体からは焼ける匂い、羽根の焦げる匂いがする。無事な筈がないが、そのハーピーは心配無用と言わんばかりに笑顔で返した。

 その笑顔に、微笑みを返してイェルムは遠くで堂々と構えているオーガを見やると、次の瞬間に白銀に守られた足を相手に向かい横へ振り抜いた。


 何を、と謎の蹴りを向けられたオーガが不思議に思ったが、『何か』が空気を切り裂き迫ってくるのを直前に察知し、体を屈ませる。その鳥が取った謎の行動に対する答えは持っていた杖の先端が教えてくれた。


 鋭利な何かで切り裂かれたように杖の先端が落とされ転がっている。


 その攻撃を鼻で笑うように緑の鬼が濡烏の色をした鳥へと言葉を投げかけた。

「ハーピーでこれほどの威力の魔法を使う奴もいるんだね。石をぶつけるくらいしか能のないウルサイ蠅(ハエ)だと思ってたよ」

「フフ、こちらも低能なオーガが魔法を主体に戦ってくるとは思ってもみませんでしたよ」


 両者は睨み合うように、お互いの魔法を撃ち合うが明暗はすぐに別れる。

 多彩に相手を封じながら有効打を積み重ねる緑のオーガと、風の魔法一辺倒のイェルム、隙をついてエンツォが後方から強襲するも、杖を巧に扱う棒術でまるで相手にされなかった。

「まったくもう……」

 一言呟いて、煌々と輝く月を視界に収めながら困ったような表情を浮かべて微笑むイェルムだった。


 彼女達が苦戦を強いられている最中、ティーグと呼ばれる白い肌をしたオーガが苦悶の表情で忌々しげに相手を睨み続ける。

 オレグは序盤から相手を観察し続け、攻撃を返すだけに留めていた。だがそれを自身の攻撃に対応するだけで手一杯なのだと勘違いした白いオーガが油断して背後から馬の部位、その自慢の脚を切断してやろうと大振りになったところを蹴り飛ばされた。


「ハッハッハ! 馬の背後に立つと危ないぞ!」

「グゥアッ……! て、てめぇ……!」

 彼はそうして左腕を吹き飛ばされるように蹴りつけられ、骨を砕かれた。


 アリヤ達が相手をしているオーガ達に共通するのは油断、慢心。

 自分達と同格の相手をする事なく、絶えず弱者を嬲り続けてきた代償に得られた物は一時の快楽のみ。対する相手は同じ釜の飯を食い、共に汗を流し、互いに切磋琢磨を続けてきた他種族達。勝てる道理は少ない。


 更に言えば、白い鬼の相手が殊更悪かった。

 他の大多数の者達より多く重ねてきた年の数で、単純な戦闘力だけでは埋められない経験の差が如実に出ている。更に互いの手にある得物は同じ槍。オレグが観察をしていた結果、オーガは太刀筋を読まれ、手を読まれ、思考を読まれた。


 オレグからしてみれば、前にいるオーガは幼少より面倒を見ていた白銀のケンタウロスよりも全てが遅い動きと軽い攻撃、共に訓練をしているゴブリン達よりも少ない手数とアイデア。

 それに加えた緩い精神状態。

 彼の相手を白いオーガが務められないのは明白だった。

 想像以上につまらない相手、それを理解してしまったオレグが一つ息を大きく漏らす。だがそれも自身に即座に喝を入れ、短期決戦を決める為に相手に攻め入る。

 それから僅かな時間の後に、白いオーガは首を切り裂かれ絶命した。

 白鬼が見た最後の攻撃は、全力で投擲された槍の更に奥から跳びかかってきたオレグに首に短剣を深くまで捻じ込まれた。

 槍を使わねえとか卑怯だぞ!! と叫ぼうにも首に深々と刺さったナイフから空気が漏れ声が出ない。

 それを察したオレグがニコリと微笑みながら地面に横たわろうと倒れる白鬼に口を開いた。

「ハッハッハ! すまんなぁ。完勝せねばならない訳がある故、万に一つも可能性をそちらに残したくなかったんだ」

 そう笑いながら、力無く倒れた白鬼の手の傍に落ちている得物を、遠くへ転がし、確実な勝利を物にする為に前の脚を天高く振り上げ、まだ意識のある頭へ目掛けてそのまま力強く踏みつけた。



 ――そうして、オレグが勝負を決めて仲間の動きを見守り始めた頃、ホリはドリルが頭上に落ちてくる夢を見ていた――


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