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魔王様、顔怖いです。  作者: ふかづめ
弱者の戦い
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第56話 胸に思案の月を見て

 アラクネの迷路から脱出をして拠点に戻るとゴブリン達に迎えられ、まず食事を頂いた。大分待っていてくれたようでゴブリン達からは勿論、お手伝いにきていたトレニィアの方からも空腹のサインが。

「少し夢中でやりすぎちゃったな、ごめんね皆」

「何シテタンデスカ?」

「メシ! ニク! クウ!」

 アリヤが空腹で野生に戻りそうなので、ベルの質問には飯を頂きながら話していこう。こちらも空腹なので、目の前に並べられた料理を摘まみつつスライム君が来るのを待っていた。

 最後のメイン料理が運ばれてくると、激しい戦闘のように素早い動きでおかずを食べていく彼ら。こちらも食べておかないと、メインのお肉が無くなってしまう。


「そうそう、さっきまで他の種族達の防具作ってたんだよ、あとでアリヤ達にも作るね。気に入るかどうかはわからないし、探りながらの試作品だから微妙かもしれないけど」

「防具デスカ? コレガアリマスヨ?」

 ベルが指差した物は大分前に作った鉱石の胸当て。当時作った物に彼らは独自にアレンジをしたり、俺に注文を繰り返して当時作った物とはかなり様変わりをしている。

「ほら、腕周りとか足を保護する物も必要かなって。普段の狩りとかでも使いやすいようにしたいけど、今回はその時間の猶予もなさそうだから調整は難しいかな。三人はどういうのがいいんだろう?」

 肉に噛り付きつつ装備の要望を聞いてみたが、手甲と足の脛を守るようなプロテクターが一番欲しいという意見を貰えたので食後に着手しよう。

「ホリ……、私の分もあるの……?」

「あ、トレニィアの分はあるにはあるんだけど、それよりも先に大事な話をしておきたいんだ」

 隣に座っていた彼女はスープを飲みながら俺の言葉を聞いて首を傾げている。

「……? わかった……。今、聞く……」


 俺は料理の乗った皿を置いて、彼女の方に向き直して頭を下げた。

「食事中じゃない方が良いと思うんだけど……、今度のオーガの襲撃で出来ればでいいんだ、トレニィアの力を貸して欲しい。少しでも戦力が欲しいんだ」

 彼女はスプーンを皿に置いてこちらを見ている。気分を害してしまったのか、睨みつけるような視線だ。やはり食事中にするような話じゃなかったのか。

「ごめん、やっぱりご飯中にする話じゃなかったよ。それに非常時だけ都合よく手を貸せなんて虫が良すぎだね」

 それを聞いた彼女は俺の意見を否定するように首を振り、更に剣幕を強めて不機嫌になった理由を話始めた。


「ホリが、最初の約束を守って私達をアテにしてないのは分かってる……。でも……、どんなに大変な事が起きても頼られないのは寂しい……。お前達はいつまでも仲間じゃないって言われてるみたいで……、寂しい……」


 彼女は言葉を繋げていくほどに、怒りから悲しみに変化していくように表情が移り変わっていく。


「出会った時はああ言ってたけど……、姉様達ももう協力して当然ってなってる……。仲間だと思ってるから……。それでもホリが私達を頼らないから亜人を助けた時みたいに姉様が拗ねる……。もっと甘えて欲しい……、仲間だから……ホリを助けたい」

 彼女は喉を潤すようにスプーンでスープを掬い口に運び飲み込んだ。

「ここに来るまで……、いつも怒った表情でいた姉様達が今ではいつも笑っていてくれる……。ホリや他の皆と一緒に私の作ったスープを食べて笑顔でいてくれる……。私はそれが嬉しい、家族や仲間が増えたみたいで嬉しい……」

 皿をテーブルに置いて、こちらに向き直ると彼女は強く見据えるように目を合わせてきた。

「仲間や家族を守るのは……当たり前。でもさっきみたいに言われると……、ホリに仲間だと思われてないみたいで悲しい……。『貸して』なんて言わなくていい……、『助けて』って一言いってくれれば私はホリを助ける……」

 ふわりと花の香りが強くなり、彼女は俺を包み込むように抱き締めてきた。

 頼るのは失礼かなと思って気遣っていた事が逆に疎外感のように感じさせてしまっていたのか。

「トレニィア、迷惑かけっぱなしでいつもごめんね。ありがとう」


 抱き締め返して暫くそうしていたら、入り口の方から物音がしてきた。

「おいホリ、姉様から追加の鉱石布だ。土下座して咽び泣きながら受け……、貴様、妹に何をしている……!」

 タイミングの悪いシスコンめ! 

「おい姉好きの変態、今いいところなんだあっちいけ!」

「貴様ァ! 姉様に情欲をぶつけるだけでは飽き足らず次はトレニィアか!! 許せん!」

 しまった、つい本音が口から飛び出てしまったぞ。取り敢えず逃げたいが入り口を抑えられてしまってはどうしようもない、何とかせねば……。


 俺は怒りを隠す事なく、指をバキバキと鳴らしている彼女からあえて視線を外し、レリーアの後ろを指差して大きく叫んでみた。

「アァーッ! ラヴィーニアが上半身裸で散歩してるゥー!」

「何だと!? どこだ!! お姉様、その癖は治した筈でしょう!?」

 キョロキョロと辺りを伺うようにここにいる筈のない姉を探しているシスコンを放置して、そんな癖あったのかと突っ込みながらも、その間に息を殺して洞穴から脱出する事に成功した。


 食事も頂けたし、ゴブリン達の防具は後に回してこのままウタノハ達のところへ行って防具を作らせてもらおう。彼女達が使うかは別として、用意しておいて損はない筈だし。それに、作ってみたい物がもう一つ出来たしな。


「ウタノハ、今いいかな?」

「ホリ様、どうされました?」

 姫巫女の家はウタノハのみが個室で侍女達は団体部屋らしい。中はやはり木造なのだが、広い部屋には囲炉裏があったりどこも不思議と落ち着く空間だ。

 ついでに掘りごたつも作りたいが、人の家に勝手をする訳にも行かず意見は口にしなかった。

 客間のようなところにいたオラトリに声を掛けると彼女は隣で立っていた侍女にお茶を用意するように指示を出した。


「襲撃がいつになるかはわからないけど、それに備えておこうと思って今皆の防具を作ってるんだ。協力してもらえない?」

「ええ、構いませんよ。少々お待ちください」

 彼女が二度ほど手を叩くと、侍女の一人が顔を見せてきた。テレビとかで見た事あるエライ人がやる奴や! ホントにやってる! ウタノハが話をすると、呼ばれた侍女は他の部屋へと入っていった。説明をしにいったのかな?


「? ホリ様、どうかされました?」

「あぁいや、少し感動を……、それじゃあ準備するね」

 謎の感動に打ち震えている場合ではない、ささっとやってしまおう。流石にここまでやってきたので慣れもある。それほど時間もかからないだろう。


 屋外でやるのも恥ずかしいかもしれないので、このまま彼女達の家の客間のような空間でやる事にした。

 侍女達から要求されたのは、胸当てと手甲、脛当ての三つだったのでこれも一人一人サイズを調整しながら完成させていく。彼女達は殆ど人間と体格が変わらない為か、やりやすかったのでサクサクと出来上がった。

 侍女達の最後の一人はオラトリで、彼女に少し頼み事があるのでついでに言っておこう。

「そうだ、オラトリ。前に使ってた折れた剣って捨ててない? まだ持ってるなら少しの間貸して欲しいんだけど」

「ええ、ございますよ。取りに行って参りますのでしばしお待ちを」


 そんな会話をして、オラトリが自室に戻るのを見送ると音もなく目の前に座った女性がいた。

「ウタノハ……? どうかしたの?」

「私にも防具を作って頂けないでしょうか? 私だけ仲間外れなのは寂しいです」

 うぐ、随分とタイムリーなワードを使ってくるな。

 悲し気に俺の方を向いている彼女を見ていたら申し訳ない気持ちになったので、作らせてもらう事とした。


「ホリ様……。これを用意するキッカケになったのは、やはり私達の同胞の襲撃が予測されるからですよね」

 彼女はか細い声で呟くように口にした。

「うん、まあそうだね」と俺が短く返しながら鉄板のサイズを合わせていたら、彼女が少し震えている事に気付いた。

「ごめんなさい。あの時助けて頂いて、食事を与えてもらい、住むところまでこうして提供して頂いているのに、私達は恩の一つも返せない……。そしてまた、こうして貴方の手を煩わせてしまっていて……」

 彼女は拳を握りしめ悔しさを見せている。

「自分が嫌になります。私はいつも他者に守ってもらってばかりで相手を傷つける事すら恐ろしい臆病者……。でもそんな私にも、守りたい物が出来たんです」

「というと?」

 彼女は俺の言葉を聞いて微笑むように口角をあげた。

「フフ、内緒です。その内お話しますね」

「ええー? 気になるなぁ。まぁいいか、……よし、できた! 腕のサイズ合わせたから次は足ね」

 内緒だと言うのなら無理をして聞かなくてもまぁ、いいだろう。そういえば以前も似たような事があったな。女性の特権だな、秘密と言われたら男は黙るしかない。


 足の方もサイズを測れたので、後は細かい調整だけだ。

 面取りとかも細かくやらないと体に突き刺さるからな……。最初に胸当てを装備して胸周りの皮膚がズタズタになり、当時体毛がなくなってしまったペイトンの犠牲を無駄にしてはいけないのだ。

「ホリ様、お待たせして申し訳ありません。しかしこの刀をどうされるのですか?」

 太刀を片手にオラトリが戻ってきた。

 状態を確認したいので受け取ったが、かなり重いな。折れててこれだもんな、元の状態はこれよりもう少し重かったという事だよな……。

「ありがとう、オラトリ。さっき貸してって言ったけど、これ大事な物だったりする? したい事があるから大事な物だったら控えるけど……」

「鍔に思い入れがありますが……、それ以外でしたら別に何をされても構いませんよ。もう使えませんしね」

 鍔か、確かにちょっと面白い模様をしてるな。黒い鉄のような素材をベースにもみじの葉のような金細工が織り込まれている。こっちの世界にもみじあるのか知らないけど。


「大丈夫、用があるのは柄の方だから。というかこの柄巻きだね」

「ホリ様、一体何をされるのですか?」

 ウタノハは首を傾げて聞いてくるが、意趣返しとしてこう返しておこう。

「フフフー、内緒!」


 時間も遅い事だし、彼女達の防具はほぼ出来上がったので早々に洞穴に戻る。

 ゴブリン達は就寝をしていたのだが、彼らの防具を作るまでの間は頑張って起きてもらい手甲と脛当てを作成した。

 サイズを合わせている時、彼らが呟く寝言がどう考えても魔王ポジションの物だった。やれ「ハラワタヲ……」とか「世界ノ半分ヲ」とか君達の夢はどうなっているんだと覗いてみたくなる。


 さてと一通りの防具は殆どの種族揃える事が出来たが、もう一つだけ作りたい物がある。洞穴の近くでやっていたらうるさくてゴブリン達が寝られないだろう。移動して静かな所でやるか。


 プラプラと歩いているとトレニィアに声を掛けられた。どうやらこの時間に拠点の中を歩き回っている奴がいたから警戒の為に確認をしにきたらしい。

「夜に警戒もやっててくれてたのか、ありがとうね」

「いい……。やりたくてやってるから……、ホリは何をしてるの……?」


 目的の為に、静かな場所を探していると話すと彼女に導かれてついたところは簡易拠点の内の一つだった。

「ここなら……、何をしてもうるさいって言われないと思う……」

「おお、そういえばそうだね。トレニィアナイス!」


 ここの拠点は拡張もしていないところだが、それでも夜風に晒されることも音で他の者達を起こす事もないだろう。いい場所だ。

「あ、そうだトレニィア。この柄の部分の糸って外せないかな? 再利用したいんだ」

「……? 貸して」

 彼女は俺からオラトリの刀を受け取り、柄を凝視している。

 そして指で少し弄るとはらりと糸が解けた。

「優秀かよ……。流石アラクネだね」

「えへへ……」


 柄に巻き付けられていた紐を受け取り、俺がやる事を見るとトレニィアもここに残ってくれるようだ。話相手がいるのはいいな。

 早速始めるとしよう、オラトリの新武器作成!


「そういえばさ、トレニィアは俺に何かしてほしい事ある?」

 彼女は質問の意味がわからないと言わんばかりに首を傾げているので、補足しておこう。

「いや、ラヴィーニアが『トレニィアに助けてもらったらあの子のお願いを叶える事』って言ってたからさ、何かあるかなって」

「姉様ナイス……! あるにはあるけど、その内教える……」

 何がナイスなのかは怖いので聞かないでおこうかな。やはりここでも内緒みたいだし。

 作り上げている物の長さ、重量、そして何より持ち手の部分に苦戦を強いられ続け、苦心をしながらも完成に近づいてきた。

「うぐっ、これどうやって結べばいいんだ……!? 助けてトレニィア! ありゃ、寝てる……。参ったな……」

 いつの間にやら広いハンモックのような物を張って休んでいる彼女。新武器も最後の最後になって詰まってしまった。仕方ない、一緒に寝て英気を養うとしよう。

 仕方ないなァ! もうっ!

 鞄から大き目の毛布を出して彼女に被せ、俺もマントに包まるようにして眠りについた。集中していたのか、時間もかなり進んでいるようだ。洞窟の入り口の方からは空の白みが見えるのであまり寝る時間もないかもしれないな。


 でもその分いい出来の物だと思う。後は寛永通宝のアレがあれば完璧だ……。絶対手に入らないけど。

「クソ、腕輪がもう少し俺に力を貸してくれれば……。あれ? これちょっと痛い台詞だな、やめとこ。ホント神様ももう少しいい性能の道具貸してくれればいいのに」

 その時、静かな寝言と共に強く抱きしめられたので幸せ空間で休む事にした。


 ……やわら温かい物に包まれていたからか目が覚めてしまったのだが。


 まぁいいか、この幸せを感じつつ体を休めよう。どうせすぐ起きて次の準備を始めないといけない。後は皆の住居に繋がる道を封鎖できるようにして、他にも防衛設備を造り上げないとな……。


「ホリ様!! ホリ様おられますか!!」

 少し意識が飛んでいた所に洞穴の入り口から大声で叫ばれた。

 寝惚け眼で、逆光の中に立っている人物を見ればウタノハの侍女の人だ。大きく肩で息をしている事から、只事ではないだろう。

「タイミング悪いなぁ……。オーガの件だろうこれ。いるよー」


 俺の声を聞いて侍女が洞穴の中に入ってきた途端、顔を真っ赤にしながら両手で目を隠し、大きく叫んだ。どうかしたのか?

「お、お、おた、お楽しみのところ申し訳ありません!! 姫様が先程目を覚まされ、『眼』を使ってオーガを警戒したところ、排水用の木橋を見つけこちらにきているとの事です!!」

 んー? 

 彼女の視線の先をチラリとみると、上半身の衣服のはだけたトレニィアに絶妙なラインを隠しているようにかけられた毛布。そして何故か上半身裸の俺。

 指の隙間からこちらを覗いている侍女の女性はあわあわと小さく呟くようにして何かを言っている。

「ああ、なるほど。大丈夫大丈夫、君の想像してる事はしてないから」

「は、はい! 私は何も見ていません!! 何も覚えていません!! 忘れました!」

 悲しいすれ違いが起きているな。今その説明をしている場合でもなさそうだ。

「とりあえず、服着させてね。それじゃあ、ウタノハのところに向かおうか。トレニィア、トレニィア起きてー」

「ん……? おはよう……」

 彼女に先程作った武器の仕上げを頼み、一足先にウタノハの元へと向かった。


 今日は長い一日になりそうだ、気合を入れないとだなぁ。

「ほ、ホリ様! ご安心ください! 私こう見えても口はアダマンタイトより堅いと評判です!!」

 まず気合を入れて彼女の誤解を解かねば……。

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